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20・入学





カロルはゾエと学園の女子寮の部屋に居た。屋敷から持って来た荷物を次々と片付ける。カロルはこれから、夏の長期休暇までこの部屋で過ごす事になる。


「今日よりお嬢様のお世話が出来なくなるのですね。」


ゾエは無表情だが、声色から寂しがっているのが分かる。ゾエはカロルが産まれた頃からずっとカロルの世話をしてきた。カロルはゾエにとってお仕えするお嬢様だが、カロルに対しての愛情がゾエの中に確かにあった。


「ゾエには今まで沢山迷惑をかけてきたものね。私、ゾエにはちゃんと幸せになって欲しいと思っているのよ?」


「私の幸せは、お嬢様のお世話をする事です。」


カロルは笑った。ゾエが本気で言っているようにもとれたし、いつもの真顔で冗談を言っているようにもとれた。ゾエは本気だったが。


「さて。片付けはこれで良いかしら。ゾエ、いつもの食堂で夕食にしない?」


「お嬢様、お心遣い感謝します。勿論、お供させて頂きます。」


カロルもいつも一緒に居てくれたゾエと離れるのが寂しかった。なのでいつもゾエと行っていた大衆食堂で最後に食事をしたいと思ったのだ。勿論ゾエは屋敷に戻ればいつでも会えるのだが。


二人は大衆食堂でいつもの様に食事をした。そしてゾエはカロルを寮へと送り、屋敷に帰って行った。ゾエはその夜、少し泣いた。





入学式の朝、カロルはいつものように夜明け前に起きた。そしていつものようにトレーニングをする。トレーニングは寮の裏庭で行っていた。体幹を鍛える為に屋敷でも使っていた綱渡り用の杭とロープの設置を学園に願い出たら、なんとあっさり許可がおりた。綱渡りを使ってトレーニングをした後、縄梯子を地面に敷き、一マスにつき片足ずつで前に進んで行く。リズム良く走る。他にも俊敏性を鍛える為に道をジグザグに走ったりもした。

セドリックからは体の成長が落ち着いたら高重量のウェイトトレーニングをしても良いと言われている。なので今は自重トレーニングと体幹、俊敏性を鍛えるトレーニングを行っていた。


トレーニングを終えて部屋で湯浴みをした。この寮には一部屋一部屋にシャワーもトイレもある。流石は貴族の通う学園寮だ。

今日は入学式だ。制服に着替え寮の食堂で朝食をとる。皆新入生なのだろう。真新しい制服を着ている。友人同士で席に座り食事をしている者も少なくなかった。一人で食事を終えたカロルは自室に戻り、準備をして寮を出た。


「カロル!」


学園に向かい歩いていると、後ろから声をかけられた。カロルは振り向くと、知っている顔に笑顔になる。


「ウィリアム!ジャン!おはよう。」


振り向いたカロルにウィリアムもジャンも笑顔で応える。


「カロルお前、少年団を途中で退団するなんてどうしたんだよ。」


「カロル、こいつすごい心配してたんだぜ?」


訝しげに聞くウィリアムを揶揄うようにジャンが言う。ウィリアムもジャンも少年団で共に鍛錬していた仲間だ。ウィリアムは冷たい見た目のイケメンだ。しかし見た目の冷たさとは裏腹に面倒見が良い。少年団の皆も彼を慕っていた。隣のジャン・ジラールは栗色の髪に宝石のようなエメラルドグリーンの瞳のイケメンだった。

カロルの周りにはイケメンが多い。断罪の際に攻略対象のイケメン達がヒロインを守るように、悪役令嬢のカロルの前に立ち並ぶ未来が想像出来てしまう。仲間だと思っているこの二人も、その一員になってしまうのだろうか…?


「私も最後まで在団していたかったのだけど、他にやらなきゃいけない事があったのよ。」


三人は並んで学園を目指し歩いた。そこまで離れていない為学園の門にすぐに到着する。

門扉を潜り進むと、クラス分けの表が張り出されていた。カロル達も自分のクラスを確認する。


「あ、ウィリアムと同じクラスだわ。」


「ホントだ。ジャンも一緒だな。」


「腐れ縁だな~。でもウィリアムが一緒だと安心するな。」


「ふふっ。本当ね。」


三人は笑い合い入学式の行われる会場に移動しようとした。


「おはようございます。」


綺麗に響く声に振り向くと、リュシアンが立っていた。


「おはようございます。リュシアン様。」


「「おはようございます。殿下。」」


カロルはリュシアンに微笑み挨拶をした。ウィリアムとジャンはしっかりと礼をする。リュシアンの隣にはアンリも居た。三人はアンリと目で挨拶をする。


「カロル、クラス分け、もう見た?」


リュシアンはカロルに近付く。体がくっつきそうな位近い。


「はい。リュシアン様とは離れてしまいましたね。」


「そうなの?それは、残念だな…。」


リュシアンはカロルの言葉を聞き、眉を寄せた。顔が近い。


「リュシアン、もう行くぞ。」


アンリがリュシアンに声をかける。時間が無い訳ではないが、ここでリュシアンが囲まれるのを避けたいようだ。現に今も遠巻きに令嬢達がリュシアンを見ている。


「ああ。じゃあカロル、また後でね。」


リュシアンはそう言うと、カロルの頬にキスをして去って行った。カロルは顔から火が出そうだ。学園では勘弁して欲しい。


「お熱いな。」


「ウィリアム!」


ウィリアムに揶揄われてカロルは思わず声が大きくなる。リュシアンが一瞬立ち止まったが、そのまま立ち去った。


「しかし、殿下がこんなに情熱的だと思わなかったな~。」


「ジャンまで!…でも私もまさか学園でこんな事するなんて思わなかったわ…。恥ずかしすぎる…。」


カロルは真っ赤なまま顔を両手で覆う。ウィリアムとジャンを見る事が出来ない。


「まぁ行こうぜカロル。」


ウィリアムがカロルの背中を押して会場に促す。カロルはそんなウィリアムの顔を見た。


「あ、ウィリアム。今日の入学式の後、予定は空いてるかしら?」


「え?ああ…空いてるけど、どうした?」


「ちょっと相談したい事があるの。だから、街に出ない?」


他の人には相談しずらい事も、ウィリアムには何故か相談しやすい。見た目は冷たそうなのに、ウィリアムはいつも親身になって話を聞いてくれるのだ。


「カロルはウィリアム大好きだな~。」


「ええ。大好きなお兄様よ。」


「なんだそれ…。」


三人は冗談を言い笑いながら会場に入り、席に座った。しばらく話をしながら始まるのを待っていたら、他の元少年団員も集まってきた。カロルは在団時と変わらない皆に安堵し、笑顔で話しをしていたら、入学式が始まった。


開式の辞から始まり、入学許可、学園長式辞、祝辞、生徒会長からの言葉、そして新入生代表としてリュシアンが壇上に上がった。するとそこここから女子生徒のため息が漏れる。真面目な顔をしてスピーチをしているリュシアンに、カロルも見とれてしまった。スピーチが終わり一礼し、顔を上げたリュシアンと目が合った。リュシアンはふっと微笑むと席に戻って行った。気のせいだったかも知れない…しかしカロルはドキドキしたまま入学式を終えた。

その後、教室に移動し、担任の挨拶やクラスメイトの自己紹介を終えて、帰って良い事となった。


「ウィリアム、行きましょうか。」


「ああ。でも、このまま行くか?一度着替えた方が良くないか?」


「まさかウィリアム、あの服持って来ているの?」


「当たり前だろ?」


ウィリアムはニヤリと笑う。ウィリアムがカロルと街に出る時、平民のような服をいつも着ていた。それを寮に持って来ていると言う。


「じゃあ着替えてから行きましょう。」


「ああ。寮の前で待ってるよ。」


二人は約束し立ち上がる。


「では皆様、ごきげんよう。」


「ああ、カロル。また明日な!」


クラスの中にも元少年団の仲間が何人かいたので挨拶をして教室を出た。ウィリアムとカロルは寮に戻って行く。途中リュシアンの教室を通りかかったが、人集りが出来ていた。リュシアンにお目通り叶いたい者が集まっているのだろう。挨拶出来ない事を残念に思ったが、そのまま通り過ぎて寮に帰った。





「ウィリアム、お待たせ。」


「いや、俺も今来たとこ。行こうか。」


二人は街の方へ向かう。こうして二人で出掛けるのは数ヶ月ぶりだ。しかし今日は護衛がいない。カロルはリュシアンとデートした時同様、短剣をスカートの中に忍ばせていた。鞄の中には回復薬も入っている。


いつものように屋台で食べ物を色々購入した。それを持って公園に向かう。空いていたベンチに腰掛け、二人で食べた。


「屋台飯は久しぶりだな。やっぱり美味い。」


「かしこまって食べなくて良いのも良いわよね。」


春の風が優しく吹いて気持ちが良い。先程屋台で買った絞りたてのオレンジジュースを飲みながら、カロルは切り出した。


「ウィリアム、相談のことなんだけど、私、少年団を退団してから冒険者をしていたの。」


「ぶはっ!…ぼうっ………しゃ…!?」


ウィリアムは飲んでいたジュースを吹き出し驚いた。カロルはハンカチを差し出す。ゲホゲホと咳き込むウィリアムが落ち着くのを待つ。


「何で、冒険者に?」


「色々あるのよ。で、そこで知り合って仲間になった人に、お嬢様っぽいって言われたの。言葉遣いとか立ち振る舞いで分かってしまうものかしら…?これから冒険者をするのに不都合だから、何とかしたいの。出来れば、貴族令嬢としても冒険者としてもおかしくないようになりたいわ。」


ウィリアムはカロルが冒険者になっていた事がまだ飲み込めていなかったが、考えた。


「冒険者の振る舞いってのが、良く分からないけど…。…したいの、とか、…なりたいわ、とかの語尾を辞めてみたらどうだ?」


ウィリアムはカロルの真似をして言った。声も真似たようで、甲高い声で言っていた。まだ変声期が来ていないので、甲高くならずとも、声は似るはずなのだが。


「それで、その女の子らしい…なんて言うか、優しい話し方をやめてみる。騎士のような話し方で話してみるとか。丁寧語で話していれば大丈夫じゃないかな…?」


カロルは想像してみる。ギリギリ…有りかも知れない。


「分かりました。そうしてみます。」


カロルは早速キリッとウィリアムに言ってみる。ウィリアムはつい笑ってしまう。


「何かカロルじゃないみたいだな。そのうち慣れるか?それより、冒険者になって何してたんだよ?教えてくれるだろ?」


「ええ。…じゃない。はい。勿論。相談に乗って頂きましたからね。」


ウィリアムも慣れないが、カロルもまだ慣れない。二人は笑い合い、カロルが市井に居た時の話をした。





寮に帰ると、寮付きのメイドからリュシアンの言付けを伝えられた。戻り次第リュシアンの部屋に来て欲しい、との事だった。

このままの服装ではとても行けないので、着替えてから向かった。

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