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2・出会い




図書室で本を読む事3年…図書室の本を読み尽くしてしまった。

父ジョルジュに頼めば新しい本を買ってくれるだろう。しかしカロルは図書館に行きたかった。街の図書館の蔵書量は素晴らしく、カロルの知識欲はとても刺激されていた。


本を読む中でこの世界には冒険者支援協会というものがある事を知る。前世でRPGゲームをよくプレイしていたカロルは大変興味を持った。冒険者支援協会に登録してダンジョンを探検したり出来たら…しかしカロルは貴族令嬢。冒険者支援協会に登録なんて夢のまた夢。ジョルジュもミレーユも許可する訳がない。カロルだって剣も持った事がないお嬢様だ。冒険者が過酷な仕事だって事位、箱入り娘のカロルにも分かる。前世でも剣を振った事もなければ戦う事も命を懸けて旅に出る事もなかった。


だけどよくある悪役令嬢断罪コースの一つの国外追放。これに当たった時に冒険者であれば自由に旅立てる。ガルニエ王国に入らなければ良いのだから。そう思ったカロルは体力を付ける為にトレーニングを始めた。まだ幼いカロルは5歳から屋敷周りをウォーキングし始めた。朝起きてからラジオ体操をしてウォーキング、その後朝食を頂き読書をする。6歳からは家庭教師を付けられ午後は様々な授業を受けた。


今日は家庭教師の授業が無い月曜日。カロルは侍女のゾエと図書館に本を返しに行こうと思っていた。

7歳になったカロルの毎朝のトレーニングはラジオ体操、ランニングとストレッチに変わっている。トレーニングをこなし、食堂の席についた。

朝食を食べたら街に出ようと考えていたが、朝食の席でジョルジュに話し掛けられた。


「カロルは今日も図書館に行くのかい?」


「ええ。借りていた本を返しに行きます。また新しく本を借りたいですし…」


「今日は私と一緒に城にある図書館に行かないか?」


「え…?」


カロルは驚いた。城にある図書館は街の図書館よりも専門的な蔵書が多い。城には錬金術を研究している錬金塔や魔法を研究する魔術塔がある為だ。カロルが今研究している物も、城の図書館の方が目的の本が見つかり易いだろう。ジョルジュが城で仕事をしている間にカロルは図書館で調べ物をしていて良いということなのだろうが、しかし何故カロルを誘ったのだろうか?


カロルは父ジョルジュに何の研究をしているか話していない。おまけに両親には内緒で研究に必要な物も買っている。しかもその資金に少ない装飾品を売ってしまった。

マジで、バレる訳にはいかないのだ。


「お城の図書館には興味がありますし、行ってみたいのですが、私が行っても良いのですか?」


冷や汗をかきながら尋ねる。城の図書館は広く、物語等の本は少ないが街の図書館よりも蔵書量は多い。しかし場所が場所なだけに、おいそれと入れる所ではない。それを、城で働いている者の娘というだけで、入れるものなのだろうか…。


「カロルは最近錬金術に興味があるのだろう?街の図書館の錬金術関連の本は大体読んでしまったとゾエから聞いてね。城の図書館の司書にも確認を取ってあるし、ちゃんと許可も得ているよ。」


ゾエ!敵は身内にあり…。いや、お父様もゾエも敵ではないけれど。

ゾエがどこまでジョルジュに話しているのかを後で確認しなければ。


「そうなんですね、お父様…。私、嬉しいです。是非連れて行って下さい。」


「いいんだよ。可愛いカロルを城に連れて行けるなんて嬉しいよ。これから毎週月曜日は城の図書館に入れるようにしてるからね。沢山勉強しなさい。」


「ありがとうございます。お父様の期待に応えられる様、精一杯頑張りたいと思います。」


「カロル。そんなに固くならなくて良いんだよ。お父様はカロルの役に立ちたかっただけなんだ。」


ジョルジュは優しく微笑む。ジョエルの微笑みとそっくりなそれは、大変美しい。ジョエルも大人になったらお父様のように美しくなるのだろう…とカロルは思った。

母ミレーユも3人の子持ちとは思えない程の美貌と体のラインをしている。我ながら、絵になる家族である。


「私の仕事がいつ終わるか分からないからね、先に帰っていて構わない。ジョエルと時間が合えば、一緒に帰ると良いだろう。」


「はい。お父様。カロル、もし早く帰る時は僕の護衛に声を掛けてね。そうでなければ図書館まで迎えに行くから。」


「わかりました。お父様、お兄様、ありがとうございます。」


カロルは楽しみ半分、不安半分になりながらも、にっこりと答えた。

ジョエルは王太子の側近候補…という名の友人として城に通っている。もう一人の側近候補と共に、城で勉強や剣術等の習い事をしている。

ジョエルが王太子の話をする事も無く、カロルも聞かないので、彼の情報は何もない。知っているのはカロルと同い年だ。という事位だ。

断罪の際に処刑や国外追放出来る立場にあるのは王太子位だろう。この身分の人物と関わるのは危険だ。

今日から城に行ける様にはなるが、接触してしまう事が無い様気を付けなければ、とカロルは思った。




朝食を食べ終えて自室に戻ると、カロルはドレスに着替えた。トレーニング後に湯浴みをして汗を流した後も、動き易いという理由でトレーニングウェアに着替えていた為だ。

このトレーニングウェアは去年ドレスを新調した際に、ついでにデザイナーに頼んだものだ。

体操服をイメージして動きやすさと通気性を重視して注文したそれは、デザイナーの頭をかなり悩ませたが、新しい試みにデザイナーも大いに発奮し、たった1ヶ月で試作品をいくつか持参して来た。

カロルはその中から伸縮性の良い物を選び数点注文し、今ではトレーニング中だけでなく、家で過ごす時はいつもこの格好をしていた。


藤色のドレスを着て髪はいつものポニーテール、装飾品は付けなかった。地味に目立たぬように。


「まさかお父様からお城の図書館に誘われるとは思わなかったわ。」


着替えを手伝ってくれたゾエに話しかける。ジョルジュがどこまで知っているのか探らなければならない。


「はい。お嬢様が図書館の本を毎週私が借りられる分まで借りて読んでおられましたので、もう図書館の錬金術コーナーで読んでいない本は無くなってしまいましたから。」


「…そうね…ゾエには感謝しているわ…。」


「旦那様に毎週街に出ている理由を聞かれましたので、図書館に通っている旨と錬金術に興味がおありです。とお伝えしておきました。」


「そうなの…ありがとう。お陰で調べ物が捗りそうよ。」


恐らく、ジョルジュはカロルが錬金術で色々実験をしたり、その資金に装飾品を売り払った事までは知らないのだろう。少し安心した。


「図書館で借りていた本は他の者に返却させておきます。店に頼んでいた物も取りに行かせますので、お嬢様は心置き無く調べ物をなさって下さい。」


「何から何までありがとう。お城へはゾエも来てくれるのでしょう?」


「もちろんご一緒しますよ。帰りにものすごく増えた荷物を、しっかり運ばせて頂きますのでね。」


「…流石にお城の図書館であんなに借りたりしないわよ…」


「お城の図書館は私の分は借りれませんものね。」


カロルはジト目でゾエを見た後フッと吹き出した。この侍女は真顔で冗談を言う。カロルはこの出来る侍女を信頼しているし、かなり頼りにしている。だから城へも同行してくれると分かり安心した。


「不安に思っていても仕方ないし、行きましょうか。」


不安とは何だろうか…疑問に思いながらゾエはいつものようにノートとペンを鞄に仕舞い、カロルの後に続いた。





父ジョルジュに連れられて城の図書館までやって来た。図書館の司書に挨拶をし、利用方法を聞く。閲覧禁止コーナー以外は自由に見ても良いようだ。貸出は五冊まで。少し少ないが、貸りる事は出来ないものと思っていたので喜んだ。

ジョルジュが名残惜しそうに仕事へ向かったので、ゾエと図書館を見て回った。


錬金塔に魔術塔がある為、関連した書籍は本当に沢山あった。ほくほくと本を選び机に積み上げて読み進める。

ゾエはこの図書館では数少ない物語の本を読んでいる。図書館に行く時はいつもこのスタイルだ。お互いに自由にしている。


カロルは城の錬金術の本に感動していた。街にあったのは、趣味の錬金術、実用編。のようなレベルのものだったのだと気付く。ここで勉強すれば、目的のものは完成に近付けるはずだ。

カロルが満足気に本を閉じると、目の前の人物に気付いた。黒髪の、見目麗しい少年がカロルを見て立っていた。

ゾエは本を戻しに行っているのか居なかった。どうしよう…。城の図書館に居るという事は高位の貴族の令息なのだろう。あるいはもっと高位の…カロルが会いたくないと思っていた人物の可能性があった。その人物の姿絵を見た事がある。確か黒髪だった。目の前の人物と同じ黒髪…。


カロルは口を開けなかった。完全に思考が停止していた。しかしカロルが固まっていなくても、相手が自分よりも高位の貴族であれば自分から声を掛ける事が出来ないのだから問題はない。


「珍しいですね。ここに子供がいるとは。」


そう言いながら、どう見ても同年代の黒髪の少年はカロルの前に座る。

何故!何故座る?!カロルは何が起こっているのか理解出来ない。淑女教育を受けて間もないカロルは表情を思ったまま表に出してしまう。

少年はカロルを見て少し笑った。


「急に話し掛けてすみません。私はリュシアン。名前をお伺いしても?」


やっぱり。リュシアン・ガルニエ。この国の王太子だ。何て運が無い…初日に遭遇してしまうとは。


「カロル・ローランでございます。許可は得ております、殿下。許可証はこちらに。」


カロルはカードを差し出した。


「あ、いや…そういう意味で言った訳では…。」


リュシアンは狼狽えた。カロルはこれ以上どうしたら良いか分からず、リュシアンの様子を見ている。ゾエはいつ帰って来てくれるのだろうか。


「あ、の…カロル嬢。良かったら、私と一緒にお昼を頂きませんか?」


「はいぃ?」


予想外すぎる王太子の申し出にカロルは間抜けな声をあげた。

誤字報告ありがとうございました。

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