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15・ゴブリンダンジョン1


残酷な表現があります。


ーーーーーーーーーー







いよいよ明日からダンジョンに向かう事になる。リュックは膨れ準備万端だ。

カロルはリュシアンからの着信を待っていた。明後日からしばらく魔通話出来なくなる事を伝えなければならない。ダンジョンのある町の宿なら魔通話は出来るが、ダンジョン内では無理だ。護衛達やランディの前でいつもの会話をするなんて恥ずかしすぎて考えられないし、カロルは初心者冒険者なのだからダンジョン内で気を緩めるのは危険だろう。


すると、手に持っていた魔石通話機が音を鳴らした。


「はい。カロルです。リュシアン様、こんばんは。」


『カロル、こんばんは』


魔通話に出ると、リュシアンの優しい声が聞こえてきた。


「リュシアン様、あの、私、しばらく魔通話が出来なくなります。」


早速カロルは爆弾を落とした。爆撃をモロにくらったリュシアンはショックで声も出ない。


「申し訳ございません…。出来るだけ毎日というお約束でしたのに…。明日は魔通話出来ると思うのですが、明後日以降は難しいかと…。」


『しばらくって、どれくらい…?』


「三日か四日位かと…。」


『わかった。その間我慢する。』


リュシアンは絞り出したような声を出した。カロルを思い、受け入れてくれたリュシアンにカロルの胸に暖かいものが広がる。


「リュシアン様…ありがとうございます。」


『うん。今日は沢山話そう。』


カロルとリュシアンはいつもより長い時間話しをしていた。カロルは暖かい気持ちで眠りにつき、リュシアンもまたホクホクとベッドに入った。




次の日、カロルはいつも通りのトレーニングを行った。ランニングはやめ、家の階段の昇り降りを何度もした。ダンジョンに付き合わせてしまう護衛二人をランニングにまで付き合わせて疲れさせてしまうのは忍びなかったのだ。

いつも通りに朝食を済ませ支度をし、ゾエに見送られる。


「お嬢様、行ってらっしゃいませ。無事にお戻りください。」


「ありがとうゾエ。行ってくるわ。留守をお願いね。」


ゾエは「くれぐれもお嬢様をお守りくださいね。」と護衛二人に目力で伝えた。護衛二人は真面目な顔で頷くと、カロルに続いた。




乗り合い馬車乗り場に着くとランディは既に待っていた。


「ランディ、おはよう。待たせてしまった?」


「おはよ。カロル、護衛のお二人さん。そんな待ってないぜ。」


ランディは馬車の御者に仲間と乗る事を伝えていたらしく、すんなり乗る事が出来た。

乗り合い馬車の中でランディは護衛二人に聞く。


「アンタ達は冒険者カード持ってるのか?」


「ああ。持っている。」


「アドリアンも冒険者カード持っていたの?」


カロルは驚く。そんな話聞いた事なかった。騎士の家に産まれ、真面目なアドリアンと自由な冒険者、性質が違いすぎている。


「この間、休みを頂きました際に、取りに行きました。」


アドリアンはカロルの護衛としての職務を全うする為に冒険者カードを取得していたらしい。


「しかもコイツ、その日に下水道行ってラット200体倒してきたらしいっスよ。」


とんでもない数字にカロルもランディも唖然とする。


「そんなに多いと死体の処理も大変そうね…。」


「集めて一気に燃やしました。」


カロルがラット討伐をした際もアドリアンに死体を燃やして貰ったのだが、燃やし方の規模が違いすぎて二人は苦笑いを浮かべた。


「ま、まぁそれなら全員ダンジョンに入れるから問題ないな。」


「ランディ、お前の荷物も見せて欲しい。こちらの荷物の方も、足りないモンがあったら言ってくれ。あと、今回俺が荷物持ちをやる。」


「そうか。それは有難い。」


ランディとマクシムは荷物を見せ合いながら話し合いをしていた。

途中休憩を挟みながら馬車は進み、夕方にゴブリンダンジョンの町に到着した。カロル達は宿をとり、食堂に向かった。

この冒険者向け宿の食事はボリューム満点だった。カロルは食べきれず、ランディが欲しがったので食べて貰った。


「ランディ、ダンジョン内ではこれを持っていて欲しいの。」


ランディが食べ終わるのを見てカロルは小ぶりの瓶をテーブルに置く。瓶を見てランディは目を見開き固まっていた。


「最上級ポーションなの。このダンジョンでは必要ないかも知れないけど、何があるか分からないし。もし誰かに何かあった時は近くに居る人がこれを飲ませて。一番可能性があるのが私なんだけどね。生きてさえいれば、何とかなるってポーションよ。」


そう。このポーションは最上級なだけあって、切れてしまった四肢さえ生やす。


「…女神の、秘薬か…?」


カロルは困ったように笑いながら説明していたが、その間ランディの時間は止まっていた。急に目の前に現れた物に理解が追いつかなかったのだ。


「そんな大層な名前はついてないと思うけど…。多分それとは違う物だわ。」


「こんな高価な物を俺に持たせるのか?」


「何言ってるの?何かあったらランディもこれを飲むのよ。それに高価って言っても材料費だけだから、そこまで高くないのよ?」


カロルが作ったと聞いてランディは目を剥いた。最上級ポーションを作れる戦士なんて聞いた事がない。


「これをカロルが作ったのか?」


「ええ。趣味で錬金術をやってるの。」


趣味のレベルを軽く越えた腕前のカロルに驚いたままのランディは、壊れ物を扱うように恐る恐る最上級ポーションをウエストバッグに仕舞った。




次の日の朝、四人は朝食を済ませ、宿で昼食用の軽食を買いダンジョンに出発した。

ダンジョンの入口は洞窟のようになっていた。入口の端に琥珀色の縦長の岩がある。転移岩だ。カロル達は町で購入していた転移石を持ち、その岩に触れた。パーティに一つあれば全員一緒に転移が出来る石ではあるが、ダンジョン内ではぐれたりした場合に困るので、全員分購入する。カロル達はもしはぐれて30分経っても合流出来なければ転移石を使う事に決めていた。


ダンジョンの中に入り携帯ランプを点ける。ぼんやりと辺りか照らされる。ゴツゴツとした岩のトンネルが奥まで続いている。町でダンジョンの地図が売っていたので購入していた。それを見ながら進んでいく。


「宝箱の場所とかも描いてあるのね。」


ランディの持つ地図を覗きながらカロルが言った。


「アドリアンさんが一番高い地図を買ってきてくれたんだ。安い地図だと道しか描かれてないぜ。」


「そうなのね。じゃあとりあえず、宝箱を目指すのかしら?」


「そうだな。宝箱は全部開けて帰ろうぜ。」


ダンジョンはモンスターもボスも、採取出来る物から宝箱まで復活する。毎回同じ物が出る訳ではないが、出現場所は変わらない。

ダンジョンは遊戯の神と戦いの神、魔神が創り出したものらしい。魔素が溜まった所に出来るように三柱の神が創った。何故こんなものを神が創ったのか。それは単純に遊びで、だ。時々戦いの神はダンジョンに遊びに来る事もあるそうだ。


神々は天上界に居るだけではない。下界に遊びに来たり、そもそも下界で暮らしていたりと、かなり自由に生活している。魔神は地獄に居るが、地獄の神々も同じだ。地獄の方は出不精で、地上に来る事はほぼ無いのだが。


そしてダンジョンは魔素が無くなれば消滅する。モンスターの死体を燃やすと魔素は生じない。ダンジョンを継続させるならば、モンスターの死体を放置すれば良いだけだ。モンスターの死体は一時間程で魔素化する。過去に大きな街の近くに出来たダンジョンをこの方法で消滅させた事もあるらしい。


冒険者支援協会がダンジョンを管理し、継続させているのには理由がある。ダンジョンから採れる様々な資源が目的だ。冒険者はダンジョンから資源やアイテムを持ち帰り、協会に売る。魔石も多く出るので冒険者も協会も潤うのだ。

冒険者支援協会が管理していないダンジョンは野良ダンジョンと呼ばれ、そのダンジョンから希少なアイテムが出れば連絡し、協会に管理してもらう事もある。




カロル達はゴブリンダンジョンを奥に奥に進んでいく。途中ゴブリンの集団に遭遇したが、クエストでゴブリンを狩りまくっていたカロルの敵ではなかった。背中の荷物は重いが、冷静に相手を見れば、こちらが傷を負う事はなかった。ゴブリンは時々小さい魔石や、何かの小瓶を落とした。

宝箱も開けていく。魔石や宝石、装飾品が出てきた。レベルの低いダンジョンなので、どれも小さい。これらのアイテムは、全てマクシムが持ってくれている。


カロル達は安全地帯と呼ばれる少し開けた所に出た。安全地帯はモンスターが寄り付かない場所だ。モンスターに追いかけられていて、ここに到着した場合は勿論入ってくる。なので完全に安全という訳ではない。

冒険者達はこの安全地帯でキャンプをしたり、食事をとったりする。カロル達も昼食にする事にした。


適当に座り、宿で購入した食事を出す。魚のフライのサンドイッチと卵のサンドイッチと小ぶりのリンゴが入っていた。

やはりカロルには少し多い。昨夜のようにランディに少し食べて貰った。


「かなり順調だな。カロルがあんなに戦えるなんて思ってなかった。」


「あら、ありがとう。」


「すごいな。荷物だって軽くはないだろ?それであんな立ち回りして、息ひとつ乱れないなんて。」


これまで遭遇してきたモンスターはカロルが一人で倒してきた。護衛二人とランディは隅で見ていただけだ。


「私、疲れないの。」


「へ?」


「理由はよく分からないんだけど、何しても疲れないのよ。まぁ便利だから良いんだけど。」


ランディはカロルをまじまじと見つめている。そして思い付いたように言った。


「そういうギフトなのかな?」


「ギフト…?」


神様も言っていたギフト…それがこの疲れ知らずなのか。


「普通はギフトって属性の加護だろ?俺は風の加護持ち。他の人も大体が属性の加護を持ってる。カロルは属性の加護は何だ?」


「私…知らないの。調べて貰った事もあるのだけど、教えて貰ってないのよ。」


「そっか。時々居るらしいぜ?属性とは違うギフトを貰って産まれてくる子供って。」


もしかしたら、そうかも知れない。属性の加護が無いから私には知らされなかったのだ、とカロルは思った。属性の加護が無いとどうなるのだろう…生活魔法や錬金術は使えるが、大きな魔法は使えないのだろうか。

学園では魔法学の授業もある。ついていけるだろうか…。


まぁ何とかなるか。前世からなんとかなる戦法で生きてきた楽天的なカロルは、今回もその戦法で行く事にした。

誤字報告ありがとうございました!

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