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14・クエスト


モンスターと戦います。残酷な表現があります。


ーーーーーーーーーー






カロル達は街の外に出ていた。受注したクエストをクリアする為だ。モンスターが居るであろう森の方に進む。

カロルは大きめのリュックを背負っている。今回は日帰りの予定なので、中身はそれ程入っていない。食料、水筒、水樽魔石、携帯救急キット、タブレットポーションの予備、砥石、火魔石等が入っている。

腰のウエストバッグにはすぐに使いたいタブレットポーションとタブレット上級ポーションの缶、毒消し、最上級ポーションの瓶が入っている。ウエストバッグの反対側には携帯用ランプが掛けてある。アドリアンもマクシムも同じような持ち物でついてきている。最上級ポーションもしっかり持たせてある。誰かに何かが起こったら即対応出来るように。

背中にリュックを背負っているので、ヒーターシールドは既に腕に装備してある。どこからどう見ても冒険者だ。


カロルは薬草を見つけると採取をしながら森の中を進んで行く。

すると耳慣れない音が聞こえてきた。音のする方を見ると、ゴブリンが数体何か話しているらしい。音の正体はゴブリンの声だった。カロルは周りを見て他に仲間がいない事を確認するとゴブリンに近付いた。剣を抜き素早く近付くと手前のゴブリンの頭を掴み首に剣を刺し引き抜く。残り二体だ。

カロルは後ろに下がり間合いをとる。一体のゴブリンがカロルに飛びかかってきた。それを盾でいなし、切りつけた。ゴブリンが痛みで悲鳴を上げ倒れる。更にもう一体が棍棒で殴りかかってくるその腕を剣で払う。そのまま蹴り倒して剣を突き刺した。最後に倒れていたゴブリンにも止めを刺した。


初戦にしては上手く立ち回れた。混乱する事も無く淡々と仕留める事ができた。顔に付いた返り血を拭う。


そのままカロルは森の中で遭遇するゴブリンやコボルトを淡々と仕留めていった。


そんなカロルの姿に護衛達は感心していた。少年団での努力や日々のトレーニングの賜だ、と思う。あれだけ努力していたのだから。この淡々と敵を弑する鬼のような少女のあの努力は報われているのだ、と。


ゴブリンやコボルト討伐は依頼の倍以上討伐した。薬草もしっかり採取している。あとはラットだけだ。ラットの討伐は王都の下水道指定だった。カロル達は森から出て街道沿いで昼食をとった。ゾエが作ってくれていたサンドイッチだ。肉が多めに入っていて力が出る。


昼食を終えて王都の下水道出口に向かった。それ程大きくないトンネルに鉄格子が嵌められている。鉄格子のドア部分は閂で閉められていて、鍵はかかっていない。そこから中に入って行った。


下水道の中は特有の篭った臭いが立ち込めていた。鼻が曲がりそうだと思いながら先に進む。地面もヘドロでぬかるんでおり、滑りそうになりながらラットを探した。


護衛二人は感心をしていた。今日何度目になるのか…モンスターに冷静に対応し、返り血を浴びても嫌な顔をせず黙々とクエストをこなす。更には下水道という不衛生極まりない場所に足を踏み入れ目的に向かっている。何という胆力なのだろう。


カロルはラットが集まっている場所を見つけ、難無く倒した。集まっていたラットは九体。カロルは下水道を探索し、更に七体のラットを倒すと下水道を出た。


「臭かったわね…。」


「ホントすね。まぁラットは定期的に駆除しなきゃなンで、下位冒険者はこのクエスト受けさせられる事ありますよ。」


「疫病対策ね…。街にはこのまま入る訳にはいかないわよね…どうしたらいいかしら?」


「そこの水道を使って良いンですよ。」


マクシムは下水道出口にある水道を指さした。


「ラット討伐の冒険者用に作られてるンす。」


「有難いわね。」


カロルはヘドロの付いたブーツや盾に剣を洗った。護衛二人もブーツを洗っている。


「…まだ臭う気がするわ…。とりあえず報告に行きましょう。」




冒険者支援協会に入ると、暖かい空気に安心する。酒場から食事の美味しそうな匂いもしてくる。先程の下水道とは大違いの空間だ。


カロルは受付に冒険者カードと薬草を出した。薬草は自分も錬金術に使いたかったので、採取した半分だけを出す。


「はい。ありがとうございます。沢山倒して下さったんですね。」


受付嬢はカードを確認しカロルに返却する。カードにあったモンスターの討伐数の欄は消えていた。受付嬢は薬草を数え終わり話しを続けた。


「一万千オーロのお渡しです。」


「ありがとうございます。」


カロルはお金を受け取り、家に帰った。初めて冒険者としてお金を稼いだ。達成感に心が満たされた。


夕食後アドリアンから声を掛けられた。


「お嬢様、明日休みを頂きたいのですが。」


「休み?ええ。いいわよ。」


「ありがとうございます。代わりの者を来させますので。」


アドリアンが頭を下げた。彼が決められた休日以外に休みを希望するとは珍しい。


「お嬢様、明日はダンジョン用に買い物でも行きましょうよ。アドリアンの分も買って来るからな。」


「ええ。色々教えて頂戴。」


「ああ。助かる。」





翌日カロルとマクシムがランニングを終えてストレッチをしていると、アドリアンの代わりにトマがやって来た。朝食を全員で囲んでいるのを見て目を丸くしている。トマは朝食を済ませて来たらしいので、お茶だけを飲んでいた。


マクシムに連れられて来た店は冒険者がよく利用するというアイテム屋だった。ここだけで冒険の必需品が揃うとマクシムは言う。


マクシムとカロルは相談しながら耐水圧の高めのテント、地面からの熱や冷気、湿気防止の為のグランドシートを選んだ。テントは大人三人が横になれるサイズだ。そしてマットを人数分選ぶ。

いつモンスターに襲われるか分からない野営では寝袋は対応が遅れ危険なので、薄くて軽くて暖かく、耐久性にも優れた四拍子揃ったシートの上にマントを掛けて寝る事にした。テント設営の為の軽いハンマーも選ぶ。これだけで五キロだ。


「ダンジョンでは俺が荷物持ちやりますンで。荷物はこれだけじゃないスからね。」


「ありがとう。」


マクシムは火魔石用の折り畳み五徳を選び、取っ手の畳める小鍋に、スープ用の寸胴な水筒とカトラリーは三人分選んだ。軽い物を選んでいたが、これで二キロ程。


「結構な重さになるわね。」


「これに食材も持って行きますからね。人数の多いパーティなら手分けして持てるけど、少ないパーティには荷物持ちって職業の仲間が必要なンスよ。」


「知らなかったわ。」


カロルはこの大荷物を背負って戦える自信はない。前世の漫画で見たポポポイカプセルが欲しくなった。異次元ポケットも良いな。しかし断罪後にパーティを組んで旅をするのも良いかも知れない。それまでに知識や技術、力をつけよう。


マクシムは選んだ商品を一旦店主に預けて携帯食料を選ぶ。


「携帯食料は乾燥米と干し芋、干し野菜、干し肉、ドライフルーツは少々、干し貝柱に乾燥ワカメ、携帯調味料…こんなもんでいいか。」


「これが『聖女様の冒険メシ』なのね。」


『聖女様の冒険メシ』は180年程前まで存在していた聖女様が考案した携帯食料だ。乾燥米は所謂アルファ米である。五年位保存可能で、水やお湯を入れて待つだけで食べられるようになる。


聖女様は存命中に、米をミズホノクニから持ち帰り、世界中で栽培出来るように品種改良をしたという。そして、この冒険メシを作り上げた。実は聖女様は冒険者支援協会の創立者の一人でもある。そして彼女自身も冒険者であった。世界中を旅して回り、国や地域の問題を解決し、奴隷制度の廃止や戦争の終結、食料問題に感染症対策、上下水道の整備…様々な功績を残している。


カロルは彼女の伝記を読んだ際に、聖女様も転生者なのではないかと考えていた。彼女の生国では無かった米を求めてミズホノクニに向かったという。彼女も元日本人なのではないか。

彼女の活躍期間は300年程だと言う。人間ではありえない寿命だ。しかし様々な伝記を読んでも、彼女が人間で、しかもいつ現れても若いままだったという。そしていつしか現れなくなった。共に行動していた騎士と共に。謎が多く、そして伝説の多い女性だったらしい。

人々は聖女様を崇拝していた。なので彼女の残してくれたものは今でも大切にされている。彼女が成し得なかった、民の全てが学ぶ事が出来る環境を作る事も、それぞれの国が成し遂げようと今も努力している。


マクシムは乾燥米をカロルに1キロ、護衛二人は1.2キロずつ持つように購入した。その他の食料も少し多めに購入している。

このアイテム屋での買い物は終了し、一度家に荷物を置きに帰る事にした。




マントを購入する為に前回の防具屋へ向かう。店内に入ると、あの熊のような店主が「おっ」と反応した。


「お嬢ちゃん。いらっしゃい。今度はなんだい?」


「マントを見せて頂けるかしら?」


「軽くて暖かいやつ無いか?お嬢様だけじゃなくて、俺と前来た奴の分も欲しいンだ。」


店主はダークカラーのマントを幾つか出てきた。カロルは藍色のフード付きでふくらはぎの中程まであるマントを選んだ。護衛二人には黒のマントをマクシムが選んでいた。




「俺、今日の事、旦那様やシャルル様に何て報告したら良いんですかね…?」


「報告?何か言われてンのか?」


「絶対聞いてきますよ。旦那様は兎も角、シャルル様は絶対。」


トマは今日の出来事に困惑していた。カロルがテントや携帯食料、マントを購入している。これから何をするつもりなのか、ただキャンプをするだけではないだろう、とシャルルの護衛のトマでも考えつく。

シャルルはもうすぐで学園に入学してしまうカロルと一ヶ月も会えなくなる事にショックを受けていた。入学までカロルに目一杯甘えるつもりだったのに、出来なくてとても残念に思っていたのだ。そこにアドリアンの休日希望が出たので、自分の護衛を送り込んで来た。


「何も隠さずに事実を話したら良いわよ。帰ったらお父様には全てお話するって約束しているから。」


「…そうですか。」


トマはシャルルの事を思った。シャルルはカロルが心配で倒れてしまったりしないか、と。会いたいあまり、ここまで案内してくれと言い出しやしないか、と。

誤字報告ありがとうございました。

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