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12・パーティ




冒険者登録を終え、扉を潜ったその先は冒険者支援協会の酒場になっていた。奥には酒場のカウンター席にテーブル席があり、冒険者達が食事をしたり、情報を買ったりしている。手前にクエストの掲示板があり、クエストの依頼や受注が出来るカウンターがある。クエストカウンターの隣はモンスターの素材を買い取りをしている窓口のようだ。


カロルは酒場のテーブル席の方を見た。アドリアンとマクシムがそちらで待っているはずだったからだ。しかし彼等を見つける前に声をかけられた。


「君、さっき冒険者登録してたよね?初心者同士でパーティ組まない?」


声を掛けて来たのは先程前に並んでいた男性だった。あの時こちらを見ていたのはパーティに誘いたかったからなのか。


「ごめんなさい。パーティを組む予定はないんです。」


「そっかー。それは残念。良かったら少し話さない?」


「人を待たせているの。失礼するわ。」


カロルは取り付く島もない風に歩き出したが、男はついてくる。


「君女の子だったんだな。だったら尚更パーティ組んだ方が良いぜ。冒険者は荒くれ者も多いから。」


「…貴方が信頼出来る方だって保証は無いじゃない。」


カロルはため息をついて男を見た。つい男の様な口調で話すのを失念していた自分に苛立つ。

男は近くのテーブル席につき、カロルにも椅子を勧めた。カロルは近くにアドリアンとマクシムの姿を確認し、勧められた席に座った。


「君、見た所戦士だろ?戦士一人でダンジョンとか潜るつもりか?ダンジョンには罠だってあるんだ。罠付きの宝箱だってある。」


「罠…。」


そういえば、そういった記載のある本を読んだ事があった。完全に忘れていた。


「その様子じゃ、罠対策してないんだろ?罠の種類によってはとんでもない呪いもあるからな。」


カロルは難しい顔をしたまま固まった。その様子に男は満足そうに続ける。


「俺はそういった罠の解除が出来る。盗賊ってやつだ。どうだ?少しは話を聞く気になったか?」


「…貴方には申し訳ないけど、私、冒険者はずっと続ける訳ではないの。学校にも行かなきゃならないし…だから私とパーティを組んでも、貴方にとって良い事は無いと思うわ。」


「じゃあ、こうしよう。君がダンジョンに潜る時は俺も一緒について行く。それ以外では各々勝手にやればいい。」


この提案はカロルにとって良いものだ、とは思う。この男はカロルの行きたい時にダンジョンに同行してくれると言うのだから。ただ、この男、得体が知れない。怪しすぎる。何故こんな子供とパーティを組みたがるのだろうか。


「…何故、私とパーティを組みたいと思ったのですか?」


カロルの問いに男は黙ったままだ。


「言いたくないのであれば、この話は無かった事にするわ。貴方、怪しすぎるもの。」


「…………実は、俺はクラメール国から来たんだ。」


「クラメール国?国境を二つも越えて…何故…?」


男は言いずらそうに言葉を続ける。


「占いで、言われたんだ。ガルニエ国の王都の冒険者支援協会で冒険者登録をして、後ろに並んだ奴とパーティを組むと良いって。」


「占いで…?それでわざわざこんなに遠くまで来て、しかも私とパーティを組む…と…?」


カロルはよく分からなかった。しかし男は切実そうだ。


「分かってる。他の奴には理解されないって事位。でも、俺には他に縋るものが無かったんだ。あの時の俺はどん底に居て、誰かに掬い上げて欲しかったんだ。ここに来て、君に会う事が希望だったんだ…。」


男はカロルを見つめる。辛そうな表情だ。カロルは迷っていたが、この怪しい男を受け入れる事にした。


「私はカロル・ローランです。どうぞ、カロルとお呼び下さい。ダンジョンに潜る時限定で、パーティを組ませて頂きます。」


「ありがとう!俺はランディ。よろしくな!カロル。」


ランディは嬉しそうに笑い、片手を差し出す。カロルもそれに応じ二人は固く握手をした。


「お嬢様本気ですか…。」


近くで聞いていたアドリアンが額に手を当てたままこちらに向いた。


「まぁ確かに本気でダンジョン攻略を考えてンなら罠の対策は必要ですけどね。」


「ん?アンタ達は?」


ランディは急に話し掛けて来た二人に驚いたように、二人に顔を向けた。護衛の二人はランディをジロジロと見ている。


「彼等はアドリアンとマクシム。私の護衛をしてくれているの。でも、冒険者として活動する間は命の危険が無ければ手助けしないでおいて貰う予定よ。」


「…雰囲気からそうかとは思ってたけど、やっぱりお嬢様なんだな。」


ランディの言葉にカロルはハッとする。貴族令嬢の雰囲気が出ているという事か…。二つの顔を使い分けるという器用な真似は難しいだろう。この対策も考えなければならない。


「とにかくランディ。これからの事を話し合いましょう。」





カロルとランディは近場のダンジョン攻略に向けての話し合いをした。アドリアンとマクシムも同じテーブルについて話を聞いている。

カロルはまずは簡単なクエストを受けたかったので、一週間後にダンジョンに向かう事になった。一番近場でレベルの低いダンジョンは馬車で一日かかる場所にある。ゴブリンばかりが出てくる通称ゴブリンダンジョンらしい。攻略に大体三日かかるとの事で、食料や飲料、回復アイテム等の準備を各々して乗合馬車乗り場で落ち合う事となった。

ランディは冒険者支援協会の近くの宿屋に居るらしく、連絡したい場合はそこに、との事だった。カロルも家の住所を教えた。

魔石通話機があれば良かったのだが、まだ平民にまで流通していない。ランディも勿論持ってはいなかった。


ランディと別れ、カロルはクエスト掲示板を見る。カロルは薬草採取と下級モンスター討伐のクエストの用紙の下についた紙を千切りカウンターに持って行った。


「はい。薬草採取とゴブリン討伐、コボルト討伐、ラット討伐ですね。」


「はい。お願いします。」


「ではカードを提示下さい。」


カードを渡すとクエスト情報がカードに表示される。モンスターの討伐数が表示されるようになった。


「モンスター討伐の方はこちらにカウントされますので、規定数以上の討伐をお願いします。薬草は十本単位での納品となります。沢山あればそれだけ報酬も良くなりますので、是非お持ち下さい。」


「分かりました。ありがとうございます。」


カロルは受付嬢に礼を言うと今日の所は家に帰る事にした。もう夕方になっていて、夜に街から出ない方が良い。カロルはまだモンスターと戦った事もない初心者だ。慣れない場所で夜行性で凶暴なモンスターと遭遇したら、最悪な結果になりかねない。


家に着き湯浴みを済ませる。首には細い鎖をかけている。この鎖にはリュシアンがくれた婚約指輪が通してある。まだ少し大きいので、指には嵌められないのだ。リュシアンはいつでも身につけて欲しいと、この鎖もくれたのだ。カロルはもう一本細い鎖を取り出し、冒険者カードを通した。カードは大事に、防具と武器と一緒に置いておいた。




夕食後カロルは部屋で錬金術を始めた。カロルはもう最上級ポーションを作れるようになっていた。材料が中々手に入らないので大量生産は出来ない。しかしダンジョン攻略の仲間が増えたので、ランディ用にもう一本作っておく事にした。


カロルはこれまでに錬金術の研究で、ポーションと上級ポーションの小型化に成功していた。この二つを小粒のタブレット状にして缶に入れ、缶を振ると一粒ずつ出てくるようにした。ポーションは噛んで摂取し、上級ポーションはラムネのように溶ける。

タブレットポーションは溶けた瞬間効果が出るので、回復効果や回復にかかるスピードは液体のものとあまり変わらずに、持ち運びが便利になるという進化を遂げていた。

このタブレットポーションも錬金塔から発売され、冒険者にかなり好評だった。


更にカロルは、生活に欠かせない水の持ち運びも、どうにかならないかと、研究をしていた。カロルはピンポン玉サイズの魔石に凡そ三十リットルの水を入れられる道具を作り出した。これには水以外のものは入れられない。魔石に水を入れたり魔石から水を出す際は魔力を使う。少々値が張る水樽魔石も錬金塔から発売されており、これもまた冒険者がよく買い求めていた。


この二つの発明は、カロルが冒険者になった際に少しでも荷物を軽くする為にしたものだった。そして実際冒険者達はこの商品を評価しており、カロルは大いに手応えを感じた。


今回のクエスト受注やダンジョン攻略で、他にも必要なものが見えてくるかも知れない。まだ断罪まで数年あるだろうと考え、一歩一歩進んでいこうと思うカロルだった。

誤字報告ありがとうございました!

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