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10・そうだ。街で暮らそう




婚約式から二年以上が経ち、カロルは十二歳になっていた。あと二ヶ月もしたら、学園に入学する。カロルには入学前にしておきたい事があった。その相談にジョルジュの部屋に来ていた。


「お父様、私はあと二ヶ月で学園に入学する事になります。その前に、やっておきたい事があるのです。」


ジョルジュは嫌な予感がしていた。この娘…とんでもない事を言おうとしている気がする。


「入学まで、市井で暮らす許可を頂けませんか?」


やっぱり!!!騎士団の次は街で暮らしたいなどと!!!貴族令嬢のする事ではない事を、この娘は望む。

ジョルジュは頭を抱えた。唸り声も聞こえる。カロルも簡単に許可を貰えない事は覚悟していたので、話を続けた。


「一ヶ月で良いのです。監視役を付けて頂いても構いません。その間の資金は私が今まで錬金術で手に入れたお金を使います。一ヶ月程貸して頂ける部屋も見つけてあります。」


カロルは用意してあった資料を見せた。王都の地図に丸がいくつか書いてあり、部屋の細かい情報の書かれた資料も並べた。

資金の方もリュシアンの懐中時計の注文で、かなり減ってはしまっていたが、一年は市井で生活出来るだけの蓄えはあった。


「カロルは私が反対しても勝手に行ってしまうだろう…?だがこれを叶える為に解決しないといけない事があるのは分かっているね?」


ジョルジュは顔を上げてカロルを見て聞いた。


「はい。王妃教育と家庭教師には二ヶ月程授業を繰り上げた内容で授業をして頂いております。騎士団の方もセドリック様に相談しまして、自分だけで出来るトレーニングを教えて頂きました。お父様からの許可が下りれば退団となる事も伝えてあります。」


もう既に手を回してあった事に言葉も出ないジョルジュだったが、ある事に気が付いた。


「殿下は何と言っているのだ?」


「え?リュシアン様ですか?…この事は伝えておりませんが…。」


「そうか。では殿下が良いと言ったら許可しよう…。」


リュシアンは手強いだろう。彼のカロルに対する溺愛ぶりは周知の事実だ。彼がカロルと一ヶ月も会えない事を受け入れる事はないだろう。


「…わかりました。」


カロルはどうリュシアンを説得しようか考えながら退室した。





「カロルと、一ヶ月も、会えない…?」


リュシアンは放心している。週に四回カロルは登城し、そのほとんどの日で昼食を共にしている。毎日だって会いたいと思っているリュシアンにとって、一ヶ月もカロルに会えないのは辛いだろう。

しかも、カロルはリュシアンに一ヶ月会えなくても平気らしい事が、更にリュシアンを打ちのめした。


「リュシアン様、一ヶ月も会えないのは私も寂しいです。」


「なら…っ。」


「ですので、これを…」


カロルは掌サイズの平たい魔石をリュシアンに渡した。


「これは…。」


「魔石通話機です。私の魔機番号を登録してあります。リュシアン様がよろしければ、夜にこれでお話出来ればと思いました。」


「これは、嬉しいけど…。結局一ヶ月は会えないのだろう…?」


魔石通話機は所謂携帯電話だ。これもスマートフォンを参考にして作ってあり、画面は音魔石と変わらない。しかし、登録してある魔機と会話が出来る。留守中録音機能も付けてある。音魔石も魔石通話機も魔力で動くので、時々自分の魔力で充電ならぬ充魔力をする必要があるが、魔力を流す量を調節すればすぐに充魔力は完了する。

しかしこれだけではダメか…。では、とカロルは音魔石を出した。

登録してある曲を流す。


「この曲は私が演奏したものです。全部で十曲録音してあります。これも、リュシアン様に差し上げたいのですが…。」


「これを本当に君が…?すごいね。いつでも聞いて、君を思える。…嬉しいよ。」


「結構頑張って作ったんですよ?本当はもっと違う楽器が理想だったのですが、生憎持っておりませんでしたので…。」


カロルは趣味で音魔石に自分が演奏したものを録音していた。音魔石もかなり改良されており、百曲位は録音出来る。音量調節も出来るようになっていて、カロルも満足していた。

録音したものも、カロルにとってはかなりの力作で少し自慢したかった、というのもあった。


「それでもカロルに会えないのは辛いよ…。」


まだリュシアンは納得出来ていないようだ。悲しそうにカロルを見つめる。上目遣いで。正直言って、かなり可愛い。


「帰ってきたら、丸一日をリュシアン様の為に空けます。」


「丸一日!?一日中ずっと一緒に居れるのかい!?」


「はい。どこかに出掛けても良いですし、二人でゆっくり過ごすのも良いですね。」


リュシアンは考え込んでいる。天秤にかけて考えている。どうしよう。会えないのは辛いけど、カロルの望んでいる事だ。邪魔をして嫌われたくはない。それに、会えない間の事を考えてカロルは色々用意してくれた。これ以上は我儘を言うべきではない…。


「魔通話は、毎日してくれるかい…?」


「出来るだけ、毎日しましょうか。リュシアン様は何時頃眠られますか?寝る前に少し魔通話しましょう。」


「では夜九時に魔通話しよう。今日からでも、いいかな?」


「早速ですね。分かりました。」


カロルは可笑しそうに笑った。





ーーーーーーーーーー





カロルがリュシアンを説得してしまった為に、ジョルジュは約束通りカロルに入学まで市井で生活する事を許可した。

しかしジョルジュはカロルが部屋を借りて生活する事を良しとしなかった。代わりに小さい家を購入した。カロルは驚いた。小さいとはいえ、家を買うとは思っていなかったからだ。しかしこれはカロルにとって都合が良かった。一ヶ月だけ、とは言っていたが、これから先何度も街に出るつもりでいたからだ。拠点があるのは有難い。


ジョルジュはカロルに、侍女のゾエといつも護衛に付いてくれている二人の男性、アドリアンとマクシムを共に行かせる事にした。これも、カロルにとって都合のいい采配だった。マクシムは冒険者だった過去がある。これからカロルのする事に、彼の知識は助けになるだろう。


街にある、小さな家には真新しい家財道具が既に運び込まれていた。屋敷で使っているような豪華な物ではなく、平民が使っているような素朴な物だ。そこに、生活する為に必要な物を運び込み、片付けていく。四人で行ったので、一日で終わった。良かった。明日から行動出来る、とカロルは思った。



次の日、カロルはいつもの様に目が覚めた。ゾエがまだ寝ている時間だ。朝の支度を済ませ庭に出る。この家は小さい庭が付いていた。外に出ると冷たい空気に体が縮こまる。まだ真冬の早朝、太陽も出ておらず、薄く積もった雪がさくっと音を立てた。


トレーニングをしていると、アドリアンとマクシムも出てきた。


「今から走りたいのだけど、行っても良いかしら?」


「お供致します。」


アドリアンは真面目な顔で答えた。二人は走る前の準備運動を始める。カロルもその間自重トレーニングをして二人を待った。

カロル達は軽やかにまだ暗い街中を走る。大きな道を選んで走っていった。細い道や裏路地には危険があるかも知れない。護衛の二人が息を切らせ始めた所で家に戻った。


「お帰りなさいませ。先に湯浴みなさいますか?」


「ありがとう。そうさせてもらうわ。」


ゾエはそう言うと風呂の支度をしに向かった。カロルは庭でストレッチをして待つ。寒いけど、気持ち良い。良い朝だ。

湯浴みをし、朝食を食べる。この家に居る間は四人揃って食事をとる事に決めた為、全員で食卓を囲んだ。


「今日は買い物に行きたいの。」


カロルは食後の紅茶を飲みながら言う。


「買い物ですか?どちらへ?」


「鎧を買いたいの。」


ゾエの問にカロルはサラリと答えた。三人の侍従は驚きを隠せずにカロルを見た。


「マクシム、良いお店知らないかしら?冒険者向きの鎧を扱っているお店よ。その後剣も買いたいから、そちらも教えて頂戴。」


にっこりと笑うカロルを見て、三人は「旦那様に、何て報告をしよう…。」と戸惑った。

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