反対側から
とある男が道を歩いている。そこにはもう人の影は無く、夜の暗闇が街灯の明かりを一層強めている。だがこの光景は男にとっては見慣れたものだった。
しばらくして、公園の前を横切ろうとした時、少女が一人、公園の真ん中で空を見上げていた。明るいオレンジ色のワンピースを着ていた少女は不思議なことに街灯の光が薄いその場所でも一際輝いているように見えた。男は疲れも忘れその少女に見とれてしまっていた。
やがて幾分の時が過ぎたのだろうか。目の違和感と共に自分が瞬きすら忘れていたことに気づき、一瞬目を閉じる。そのたった一瞬の暗闇から男が解放された時には、少女は影も形も無く消えていた。
その光景がにわかに信じられず、あたりを見渡す。しかしどこにも見当たらず、少女が居たその場所は僅かに暖かかった。男は暫くその場に立ち尽くし、少女が見ていた空を見上げて初めてそれに気が付いた。「今夜は新月か…。」