表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天上人  作者: 鬼木 有葉
序章 天上人
7/196

三.天上人③

スラウは部屋を見渡(みわた)した。


「よしっ!」


散らかしてしまった物は全て元の位置に戻した。

(かばん)は机の横に掛けたし、持ってきた剣や短剣もベッドの下の長い木箱に並べて入れてあったから大丈夫。

スラウは綺麗(きれい)になった部屋をもう1度振り返り、満足気(まんぞくげ)(うなず)くと下の階へ降りていった。


「ねぇ! サギリさんは?」


(たず)ねるスラウに食器を洗っていたラナンが振り返って答えた。


「ちょっと出かけた。すぐ帰ってくるって」


「ふーん……あ! 皿洗い? 家事も出来たんだ?」


「ま、まあな。これぐらいは余裕(よゆう)だし」


ラナンはスラウに顔を向けたまま勢いよく蛇口(じゃぐち)をひねった。

不意にスラウはにやっと笑うとラナンの(ひじ)小突(こづ)いた。


「でもね、ラナン……シンクから水が(あふ)れているよ! 排水溝(はいすいこう)(ふさ)いだらダメなのでーす! 残念! 不合格!」


ラナンは振り返ると慌てて水を止めた。

床には水が(あふ)れ、石鹸(せっけん)の泡が(いく)つも浮かんでいた。


「やっべえ! サギリに怒られる!」


ラナンは雑巾(ぞうきん)(つか)んだ。


「手伝ってあげよっか?」


「いいよ! 俺の責任だし! せっかくだからいろんな部屋を見て回ると良い」


「良いの?」


「俺とサギリの部屋はダメだぞ」


「分かってるって」


スラウは唇を(とが)らせると部屋を出た。


***


フィルメイ山の山頂に着いた3人を冷たい風が迎えた。

グロリオはくしゃみをすると身を縮めた。

()みきった夜空に星が(またた)いている。

(まゆ)をひそめるハイドに気づいたサギリは彼の肩を軽く(たた)いた。


「グロリオは火の天上人(てんじょうびと)だ。寒がりなのはしょうがないさ」


「うぅ……さみぃ……」


グロリオは落ちていた枝を拾ってそれを振った。

すぐさま枝の先に火が灯って辺りを照らした。

しばらく黙って歩いていた3人は少し開けたところに出た。


「あ、ここだ」


グロリオが木の根元を指差すとハイドが胸元から小さく()(たた)まれた紙を取り出した。

宙でクルクルと回り始めた紙は両腕を広げた程の大きさに広がっていった。

それと同時に紙は色褪(いろあ)せていき、緑色に光る輪郭(りんかく)のみが残された。

ハイドがそれに触れると、池に落ちた水滴が作る波紋(はもん)のように光が広がっていった。


「これ、事物記憶(じぶつきおく)再現装置(さいげんそうち)じゃねぇか!」


サギリが感嘆(かんたん)の声を上げた。


「事物が記憶している過去の映像を映し出すことが出来るってヤツだろ? 扱うには高度の技術が要るんだよな? ハイド、お前コレもできるようになったのか?!」


「副隊長として当然だぜ」


何故か嬉しそうにグロリオが答えたので、ハイドが無言でグロリオの頭を(たた)いた。

再びいがみ合いを始めた2人を視界の(すみ)におき、サギリは集まる緑色の光に目を()らした。

光は次第に意味のある形を作り始め、木にもたれかかるようにして座る緑色の人影がぼんやりと浮かび上がった。


「この仮面は?!」


サギリは思わず目を見開いた。

薄ら笑いを浮かべる仮面が光によって再現されている。


「ゾルダーク・エリオット。光の天上人(てんじょうびと)を裏切り、彼らを絶滅させた張本人(ちょうほんにん)だ」


グロリオの目が(けわ)しくなった。


「何で?! 何でこいつがこんなところに居やがる?!」


サギリの握った(こぶし)に力がこもった。


「俺たちがこれを知ったのは任務を終えてからだった。スラウ、だっけ? どうやらその子、俺たちの気づかないところで奴に追われていたらしいぜ」


グロリオの言葉にサギリの表情が一変した。


「ゾルダークとその子、何か関係があるのか?」


サギリは言葉をひとつひとつ選ぶように話し始めた。


「まだ、はっきりとは言えないが……スラウは光の天上人(てんじょうびと)になる可能性が高いんだ」


「……!」


驚く2人にサギリは笑って手を振った。


「あくまでも俺の(かん)だ。何の天上人(てんじょうびと)になるかは長たちの判断に委ねられているからな。だが、もしスラウが光の天上人(てんじょうびと)になれば……」


「全ての光の天上人(てんじょうびと)を絶滅させたいゾルダークにとって厄介な存在になるってことか?」


グロリオが言葉を()いだ。


「そうだ。ゾルダークはあの時、天上界(せかい)にいた光の天上人(てんじょうびと)をほとんど全滅させた。だが、同時に地上界(ちじょうかい)で光の天上人(てんじょうびと)の素質を持つ者が現れる可能性も見落としていなかったんだろう……だから、その資質を持つスラウが天上界(こちら)に来る前に捕えて殺そうとした。その方が奴にとっては都合が良かったからに違いない」


「なるほどな」


グロリオはサギリの言葉に納得したようだったが、はたと思い当たって目を丸くした。


「ん? もしその子に光の天上人(てんじょうびと)としての資質が備わっているとすれば……お前の目指す「光の再興(さいこう)」に大きな役割を果たしてくれるんじゃないか?」


「……!」


その言葉にサギリは一瞬ギクリとした表情を浮かべた。

ゾルダークによって引き起こされた悲劇の後、天上界(せかい)に居た光の天上人(てんじょうびと)のほとんどが殺されてしまった。

光の能力の弱体化は他の能力との均衡(きんこう)を失わせる。


サギリはそう主張して天上人(みな)が複数の能力を使えるようにする必要性を訴えてきた。

多くの人が光の能力を使うようになり、再び世界の均衡(きんこう)が保たれるようになること。

彼はこれを「光の再興(さいこう)」と呼んでいた。

サギリは参った、と呟くと頭を()いた。


「隠し事はするもんじゃねぇな……そうだ。その為にもスラウには何としても天上人(てんじょうびと)になってもらいたいんだ、例えそれが地上界(ちじょうかい)で生きてきた彼女の人生を切り捨てることになろうとも。だから今回のことは上に報告しないでもらえねぇか?」


グロリオは内心で(うな)った。

サギリは普段は静かな性格だが、このことに関しては何をしてでも全てをかけようとする。

木の天上人(てんじょうびと)である彼がどうしてそこまでするのか、未だに聞いたことはないが、それ相応(そうおう)の理由があるのだろう。


「……分かったよ」


グロリオはそう言うと彼の肩を軽く(たた)いた。


「ゾルダークがいたことは、報告しないでおく」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ