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天上人  作者: 鬼木 有葉
第三章 帰郷
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七. 想い②

ガキィンッ――

剣が激しくぶつかり合った。

スラウは斬撃(ざんげき)(かろ)うじて(かわ)すと後方に()退()いた。

態勢(たいせい)を整える間も無く、再び攻撃が()()される。

彼女は再び剣で受け流して後方に下がった。


「何やってんだ?」


ラナンは飛びかかってきた闇狼(あんろう)()(はら)うとスラウを見やった。


「さっきから防戦一方じゃねぇか。一体、何が……」


「あいつ……!」


フィリップは(つぶや)くと剣を引き抜いて走り出した。


「スー! 半端(はんぱ)やってんじゃねえぞ!」


「でも!」


スラウは返すと(くちびる)()んだ。

古傷(ふるきず)の残る右腕を無意識に(かば)った特徴的な剣筋(けんすじ)

頭で考えるより先に身体が反応する。

この剣をよく知っている。

頭では否定しているのに、身体が訴えている。

知っているはずだ。

何年も(まじ)えた剣なのだから、と……


「ああ、そうだ! その剣は親父だ!」


フィリップの言葉に隊員たちは(こお)りついた。


「だけど、よく見ろ! どう見てもそこにいるのは、ただの化物だ!」


スラウは目の前に立ちはだかるソレを(にら)んだ。

傷ついた身体は泥まみれで、髪も服もほとんど無い。

だが、意識して見れば見るほど、それがハリーであるような気がしてしまう。

のっぺりとして感情を失った顔の上に屈託(くったく)の無い笑顔が重なった。


「スラウ!」


ラナンの声に我に返るとソレが襲いかかってきていた。

寸手(すんで)のところで()退()いて攻撃を()ける。

立ち上がろうとした時、目の前にフィリップが()(ふさ)がった。


「もう良い!……俺がやる!」


「で、でも……」


「下がれ! 交代だ!」


フィリップが雄叫(おたけ)びを上げて()()んでいった。

彼の背中を見つめるスラウの脳裏に木刀(ぼくとう)でぶつかり合う親子が(よみがえ)ってきた。


***


オレンジ色の光の中、スラウは大きな木箱に腰掛(こしか)けて脚をぶらつかせていた。

(となり)でラナンが丸くなって寝そべっている。

気持ち良さそうに閉じた(まぶた)は時折(ふる)えていた。


フィリップの小柄(こがら)身体(からだ)が後ろに飛ばされ、麻袋(あさぶくろ)の山に()()んだ。

彼はドサドサと頭の上に落ちてくる袋を(つか)むと、地面に(たた)きつけた。


「くそっ!」


「ははははっ!」


明朗(めいろう)な笑い声が響く。

ハリーは木刀(ぼくとう)を軽々と肩に(かつ)ぐと歯を見せて笑った。


「まだまだだな」


「もう少しだったのにっ! もう1回だ、親父!」


フィリップは(そば)に落ちていた木刀(ぼくとう)(つか)んだ。


「まだやるのか?」


「あったりめぇだ! もしかして親父、もう疲れたのかよ?」


ハリーは挑発(ちょうはつ)を物ともせず、にっこりと笑った。


「本当にそう思うか? そうだ、スーちゃんもおいで。2人でかかってこい。今の2人でも、この()()()老いぼれには勝てないぞ!」


「スー、今日こそはぜってぇ負けねぇぞ!」


「うん!」


ラナンは片目を開けて琥珀色(こはくいろ)の瞳を2人に向けたが、大きく欠伸(あくび)をすると再び丸くなって目を閉じた。


数刻後(すうこくご)、土に(まみ)れたボサボサの髪をなびかせ、フィリップとスラウは(だま)りこくったまま(しず)んでいく夕日を見つめて(ひざ)(かか)えていた。


「まだここにいたのか」


ハリーが(しげ)みから顔を出した。


「いつまでふてくされているんだ? 夕飯、冷めるぞ」


ハリーはそれでも振り向かない2人に(あき)れて肩に手をかけた。


「ほら……」


「今だっ!」


フィリップが突然(とつぜん)声を上げ、スラウも飛びついてハリーを地面に押し倒した。


「1本取ったり!」


ハリーは(うれ)しそうに(さけ)ぶ2人を見て、にっこり笑うと長い腕で2人を(つか)んで引き倒した。


「残念!」


歯を見せて悪戯(いたずら)っぽく笑うハリーの腕から(のが)れようと、2人はじたばたともがいたが、(つい)観念(かんねん)して腕を広げて仰向(あおむ)けに寝転(ねころ)がった。

そのうち(だれ)ともなく笑い始め、次第(しだい)に笑い声は3つに増えて茜色(あかねいろ)の空に響いていった。

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