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天上人  作者: 鬼木 有葉
序章 天上人
2/196

プロローグ

ザ……ザザザ……


穏やかな波が1(せき)帆船(はんせん)を運んでいた。

船は月明かりに照らされた黒い海を滑るように進んでいく。

船底(ふなぞこ)を優しく()する波に合わせて机の上の蝋燭(ろうそく)の影が大きく揺れた。


***


火の()ぜる音が大きくなり、()え盛る建物が音を立てて(くず)れた。

木片(もくへん)の山を()めつくすように()え上がった炎の中で大きな黒い影が渦を作り始めた。

真っ赤な炎の中で大きくなっていくそれは、まるで眼玉(めだま)のようにギョロリと動くとこちらを見つめた。


***


机脇(つくえわき)の小さなベッドの上で1人の少女が飛び上がらんばかりの勢いで()ね起きた。


「ハッ……ハァハァッ……」


肩で荒い息をしていた彼女は胸元をぎゅっと(つか)んだ。

さっきまで船室を仄暗(ほのぐら)く照らしていた蝋燭(ろうそく)の火は消え、小さな煙が(くすぶ)っている。


「ふぅ」


大きく息を()いた少女は黄金色(こがねいろ)の髪を()き上げた。

その拍子に()げ茶色のローブがはだけ、白い首に掛かるペンダントが(あら)わになった。

ベッドの上で小さく身じろいだ彼女はそれをつまむと、窓から()し込む青白い月明りにかざした。

銀色のレリーフに縁どられた石の中で光が踊っていた。


ふと彼女の(かたわ)らで寝そべっていた小さな動物が小さく動いた。

毛並みは美しい黄金色(こがねいろ)に輝き、ところどころに()げ茶色の毛が混ざっている。

長い尾が体を巻いていて、すっと鼻が通った長い顔は(きつね)のようだった。


「ラナン、起きてる? やっとだね……」


少女はラナンと呼んだ動物の背を細い指で()でるとベッドから立ち上がった。

今にも沈みそうな月が最期(さいご)に投げた青白い光が彼女の(ゆる)やかにカールした髪を照らした。

子どもらしいあどけなさの残る顔は小さく、(あご)(とが)っている。

彼女が外を(のぞ)き込んでいる丸い窓枠にラナンが飛び乗った。

琥珀色(こはくいろ)(ひとみ)は朝日を受けて輝き始めた地平線を見つめていた。


「やっと会えるんだ……」


少女はそっと胸のペンダントに手をやると目を閉じた。


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