002
ドワーフ…親方に拾われてから季節は三度巡り、僕は12歳を迎えた。
親方の下で雑用は力仕事も多く、体はどんどん大きくたくましくなっていった。
「ティル!これ倉庫にしまっといてくれ!」
「はーい!親方!」と威勢よく返事をすると、道具やらなんやらが詰まった木箱を持ち上げ、倉庫へと片づける。親方は大雑把な性格なので、その木箱の中身をきちんとあるべきところに戻すのも仕事の内だ。
「ティル!飯にすっぞ!」
ティル。名を捨てた僕に親方はティルという名前をくれた。ティルとはドワーフの神話に出てくる二人の名工が作った一振りの剣の名前から来ている。その名はティルウィング。名前負けもいいとこだがそれが恥ずかしくもあり嬉しくもあった。
一緒に昼食を取り、皿を片づける。それも僕の仕事のうちの一つだ。
「じゃあ行ってくるわ!ティルも気いつけるんだぞ!」
「わかったー!」と返事をし、僕も出かける準備をする。この小さな工房は大体朝に仕事が終わる。
理由は簡単、材料となる鉄がないのだ。別に世界的に鉄が不足しているわけではなく、この町には人族の鍛冶師が多く、それが鍛冶ギルドを仕切っている。親方はドワーフという種族上鍛冶の腕が良い。いや、良すぎるとも言える。仕事を奪われることを恐れた鍛冶ギルドは材料となる鉄を卸さないようにし、また店を置くことに制限をかけた。だからこの工房はお客が少なく、朝に仕事を終える。そして昼からは知り合いの人族の工房を訪れ手伝いをするのが親方の昼からの仕事だった。
僕の昼からの仕事は、そんな親方のために鉄を集めることだ。
冒険者がゴブリン退治をする所を遠くからこっそり追いかけるだけというものだが。
なぜゴブリンかと言うとゴブリンは数が多く、毎日出ているクエストだ。そしてゴブリンの中には短剣を持っていたりする奴がいる。冒険者はクエストの討伐証明書である耳だけを切り落とし、あとは放置するというのが普通だ。ゴブリンの短剣は質が悪いし、錆びていたりとわざわざ拾う冒険者はいない。
まさしく【屑拾い】には相応しい仕事と言えるかもしれない。そんな自嘲を心の中が覆う。
だが、それでも少しでも親方の力になりたいというのは本心であった。【屑拾い】をしているうちに【鉄屑拾い】というジョブに変化したのは必然だったのかもしれない。範囲20m以内であれば鉄がどこにあるか分かるという能力が備わったのは幸いだった。
僕の範囲内から鉄の反応が一つ消えた。僕はゆっくりと近づくとゴブリンの死体といくつかの短剣とこん棒があった。
「よぉてめーが短剣泥棒か」
慌てて振り向くとそこにはこの場から去ったはずの冒険者が立っていた。
たぶん今日はもうない明日です。