001
降りしきる雨の中、僕は濡れた体を抱きしめながら少しでも寒さを凌ぐほかなかった。
通りを歩く、大人たちはそれが日常であるかのごとく、僕を見る者などいなかった。
それもそうだ。なんせ路地裏で孤児が雨で一人震えているなどよくあることだ。
僕はこの寒さを紛らわせるために数日前の出来事に思いを馳せた。そうすることで、自分の罪悪感が軽くなると信じて…。
魔法の名家として生まれた僕は大事に育てられ、家族みんなからの応援はもちろん、家の使用人たちからも期待を込められていた。魔法の研究機関の偉い人にも可愛がってもらい、将来は約束されたようなものだった。だが、僕はそれをあの日裏切ってしまった。
宿命の儀で僕に授けられた職業は発展も期待できない最下級職の【屑拾い】。屑を拾ってそれを売って生計を立てる人たちの職業だ。【回復術士】や【魔術士】なら喜んでくれただろうが、魔法の名家としてあるまじき、職を授かった僕はその日のうちに家を追われることとなった。名前を捨てる事も義務付けられた。そしてなけなしの路銀を渡され家を出た。この寒さも雨もみんなの期待を裏切った僕を責め立てるように感じた。それも仕方ないとどこか心の中で納得しながら意識が薄れていくのを感じた。
「おい。坊主…そんなとこじゃ寒いだろ俺んとこに来い」
薄れゆく意識の中で声が聞こえた方に目を向けると、ひげを生やした低いおっさんが傘を差しながらこっちを見ていた。確か…ドワーフと言われる種族で人が多く暮らすこの町では数少ない異種族の一つだったはずだ。
「ったく…見てらんねぇわ」
そんなことを考えていた僕の腕を強引につかんで「これ持ってろ」と強引に傘を掴ませ、通りを歩きだした。なんて話しかければいいのだろう?そんなことを考えながらも話しかけれずにいると、通りからちょっと外れた道にある小さな工房へと入った。中にはお店の小ささからは想像も付かない優れた武器や防具で溢れていた。そんな光景に目を奪われているとドワーフから投げられたタオルと大きな貫頭衣が顔に当たった。
「拭いて着替えとけ。飯用意したる」
ドワーフは頭をポリポリと掻きながら、店の奥へと入って行った。僕は頭を服を脱いでタオルで拭いて、ぶかぶかの貫頭衣を切ると、奥から「こっちに来い」と声が聞こえたので着替えた服やタオルを抱えて急いで向かった。
テーブルの上にはスープとパンが置いてあり、大きさもばらばらなジャガイモがゴロっと入ったスープだった。「ほら食え」とドワーフは言うと、ドワーフは自分の分のスープとパンをムシャムシャと食い始めた。スープを手に取る。…温かい。冷えた手には痛いほど温かく感じられた。スープは飲むと味付けは濃いものの飢えた体にはおいしく感じられた。食べ終わるとドワーフはまっすぐこちらを見据えていた。
あまりの眼力に思わず、たじろいでしまう。
「坊主帰るとこはあんのか?」
僕は首を横に振った。「頼れるとこは?」なども聞かれたが、僕には帰る場所も頼れる人もいなかった。「そうか…」とドワーフは一つ頷いて腕を組む。そして数舜の後ドワーフは手を机に置き、ずいっと身を乗り出した。
「坊主。俺んとこで働いてみるか?」
思わぬ提案に僕は驚いて「い、いいの?」と聞き返してしまった。ドワーフは「おう」とニカッと笑った。
「ありがとう、ございます」僕は嬉しくて涙を流すと「泣くな坊主」とその太くごつごつした手で優しく頭を撫でてくれた。
今日中に続きかくかもわかんない。