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 外から鳥の鳴き声がする・・・そろそろ起きないと・・・


 まだぼんやりしている頭で天井を見上げていると、お腹に感じた違和感で一気に目が覚める。すぐさま体を起こしてシーツや身に着けていた衣服にも粗相をしていない事を確認し、ひとまずホッと力を抜く。ちなみにおねしょの確認ではありません。月に一度必ずやってくる、いつもの下腹部からの鈍い痛み。慣れてはいても憂鬱で、思わずため息を吐く。昨日のうちにマイアさんから使い方を聞いて、準備しておいたのは正解だったな。説明してくれている間ずっと無表情だったのは気になるけど、まずはシーツも服も無事な事に心から感謝した。こうしてきちんと成人のしるしがあるという事は、やはり自分は14歳以上で間違いないだろう。



 昨日あの後、3人から、自分の見た目はまだまだ未成年に見える事を戸惑う様子で聞かされて、色々心当たりがありすぎて「それでかぁ・・・」と納得してしまった。

 レスター君(9)も年が近いと言っていたし、新聞の記事にも『小柄でふくよかな体躯はまだ未成年』とあった。ご近所の皆さんもお隣のおばさんも、私がする事を見て「まだ小さいのにえらいねぇ」と褒めてくれていた。家の手伝いも食事の用意も、私が成人しているように見えたなら、同年代の子供はみんな当たり前にやっている事のはずなのに。

 つまり、みんなの目には私がまだ未成年の、さらに言えば10歳位にしか映ってなかったのだそうで・・・周りからどう見えているのか、それを自分が分かってなかった。それじゃあ、いくら月の物の事を正しく理解していても、その準備がしたいと伝えても、私が年齢よりも背伸びしているように見え、それはそれは微笑ましく映った事でしょう。信じてもらえないのも無理はない、ですよね。はぁ・・・

 でも、今で成人だというなら、これ以上は成長しないって事? そうお隣のおばさんは浮かない顔で聞いてきた。マイアさんもおばさんも背は私よりずっと高くて180cmはあるだろうか。女性の平均がそれくらいなら、150位しかない私は、確かに10歳前後の子供の平均しかない。男の人は成人すればさらに高く、200以上あるのが一般的だという。私と同じ位の背丈で、男性にしては珍しい位に小柄なウルジさんは、若い時から元々そんなに背が大きくはなく、筋肉も付きにくく、年齢を重ねた事で今の身長まで縮んだようだ、と言っていたけど。ご近所の年配の方ですら170以上あるのが普通なら、私の年齢でこの背丈、という事がそもそも幼く見えた要因だろう。

 マイアさんの女性らしい体付きを見てから、自分のささやかな胸やくびれのない体を見ると悲しくなるけれど、まだこれから先があると信じたい。そんな事を考えながらも、おばさんからの質問には多分、上にはもうそれ程成長しないんじゃないかと思っている。そう答えて顔を上げれば、さらに信じられないという顔で見返され、大いに心配させてしまったようだった。普段の食事量の見直しから始まり、もしかしてここの食事が合わないのかも知れない、だとか、幼い頃から何か事情があって、十分に栄養を取れなかったのが原因ではないのか?など次々に言われ、すべてにブンブン首を左右に振って否定する。

 そんな心配なんて全然ないです。新聞の記事にだって、体形がふくよかって書いてあったのを内心では気にしている位なのに。

 元々領主館の食事を作っていたせいか、食事に関して本職のおばさんの何かに火をつけてしまったようで。明日からもっと栄養のあるものいっぱい作るからね、と言って夕食をお腹いっぱいになるまで強制的に食べさせられたのは余談です・・・


 帰るマイアさんを見送った後、もう休むようウルジさんに促され、食べ過ぎて早々に部屋へ戻った私は知らなかった。


 見た目天使と騒がれる程の美少女の私が、幼女な外見()()()成人している、という付加価値まで付いた事がどれ程の危険を生むのか。私の前では見せないような深刻な顔をして、ウルジさんとおばさんが私の事を心配してくれていた事も。









「・・・ウルジさん、まずいんじゃないか?あの子が成人しているなんて正直、まだ信じられないけどさ」

「ああ、私もだ・・・でもそんな事言ってる場合ではないね。教会に見つかったとしても『私の孫』で通せばいいと安易に考えていたが・・・幼い見た目で成人しているなんて、リリアナ以外にはまずいないだろう」

「昔から教会で言われてる、天使は無垢な幼子のまま成長しないって話?誰が言い出したか知らないけど、あの子を見てるとあながち嘘でも無いんじゃあって思うねぇ・・・ああでも、そんな事が知られたら教会のやつらきっと、どんな手を使ってでも自分たちの物にするよ!あの子の意思なんて無視してっ・・・もう早いとここの街から出た方がいいんじゃないかい!?」


 まったくもって同意見のその言葉に嘆息をもらし、それが、一番いいだろうねとつぶやく。分かってはいても、先ほど泣いていたリリアナの顔を思い出すと苦しかった。あの子はこの場所で、自分と暮らす平穏な日々を望んでくれていたのに。今日の成人している、という話を聞いてリリアナへの危険はさらに高まってしまった。まるであの新聞記事の通り、教会のシンボルといえる存在になりうる特徴ばかり。まったく、本人が望まないのに天使と呼んで探し回って・・・思わず目を閉じてため息をつく。ふと、教会のトップにいる人物の顔を思い浮かべてしまい、眉間に皺が寄る。あの頭の中まで腐った脂肪が詰まっている男に、あの子が天使と知られる訳にはいかない。もう猶予はない。


「今から手紙を書くよ。明日朝一番に息子の元へ届けてもらうよう手配する。その後店をしばらく空ける事になるが、私が戻るまで頼めるかい?」

「もちろんですとも!旦那様からの頼まれ事を、あたしらが断るわけないだろう?」

「もう領主ではないんだ、旦那様はやめておくれ」


 そう苦笑しながらも、明日からの段取りを組み立てつつ席を立つ。

 明日、今考えている事をリリアナに言ったら、どんな顔をするだろう。『孫娘』の()()()に会ったら・・・きっと驚くだろうと想像しながら。





**






 いつもより早い時間に下に降りれば、外から帰ってきた所のウルジさんと顔を合わせた。


「おはよう、リリアナ。今日は一段と早いね」

「お、はようございます。・・・あの、今朝なんですが、その・・・やっぱり成人のしるしがありました」


 なんとなく気恥ずかしくて顔を見ずに伝えれば、ウルジさんはハッとした表情で「その事を書くのを忘れていた・・・」とひとり呟いて、すぐにいつもの柔らかな笑顔で「おめでとう」と祝ってくれた。


「じゃあ、近々()()()成人の祝いをする事にしよう。それから、明日からしばらく店をお休みしないといけないから、今日は薬をなるべく売ってしまいたいんだ。忙しくなるだろうから、朝食の用意はわしがするよ。リリアナは今のうちに身の回りのものをまとめて、この辺りに置いておいてくれるかい?夜には移動するよう、わしの方で準備しておくから」


「あ、はい、わかり、ました・・・?」


 今、いつもの調子で言われた中に、よく分からない事を言われた気が。

 なんで家族でお祝いするのに、明日からお店を閉めるんだろう?お店を閉めるから、今日はお薬をなるべく売るのは分かる。でも、荷物をまとめておく必要は?それに、夜に移動するんですか? ・・・まるで、


「夜逃げ、みたい」


 思わず口から思った事が出てしまって、それを聞いたウルジさんと2人で数秒固まる。

 ふむ、と口元に手を当てて何か考えていたウルジさんが「あながち間違いでもないね」と言うのをしっかり聞き取って、昨日の話の延長だとすぐに気が付いた。近所の人にお別れの挨拶をする時間はあるだろうか?夜逃げするほど今後のお金に余裕が無いのか?私が迷惑をかけている?と、また頭の中に疑問が溢れてくる。

 これからの事を覚悟はしたつもりだったけど、こんなにすぐだなんて、正直思ってなかった。


「まぁそんなに心配せず、準備をしておいで。さあ」


 おろおろする私とは正反対にウルジさんはその様子を見て笑い、背中をポンポンとなだめるように軽く叩くと、そのままそっと2階へ追いやられてしまった。とはいえ、元々何も持たずにこちらに来た私の身の回りのもの、なんてさほど無く。あの日着ていた服は記事に載っていた事もあり、持っているのもどうかと思ってウルジさんに相談すれば、私の自由にするといいと言われて困ってしまった。とりあえず、処分もここに置いていく事も出来ない私はカバンに入れ、一緒に持っていく事にした。


 荷物を持って下に降りると、部屋にはほのかにいい香りが漂っていてお腹を刺激される。ウルジさんの用意してくれた朝食は、昨日の残りの野菜いっぱいのスープと、近所のパン屋さんで買ってきたばかりだという、焼きたての小麦の味が濃い丸パンに、新鮮な卵と野菜を挟んだもの。それがウルジさんのお皿には2つ。私のお皿には・・・9、10、11、12。・・・じゅう、に?

 こんもりと重ねられているパンの山とウルジさんを無言で見れば「食べられる分だけでいいから」と苦笑される。きっと隣のおばさんから何か言われているのだろう。諦めて一緒に手を合わせてからいただいたけれど、結局4つも食べたら朝から満腹になって苦しい位だった。うぅ・・・このままだと私、上じゃなくて横に成長してしまいそう。

 

 まだお店を開けるには早い時間だけれど、お腹も落ち着いてきたしそろそろ準備しようかな、と席を立つ。頭と顔の下半分を布で覆い、エプロンをして眼鏡をかける。そういえば、近所の皆さんはみんな働きもので太っている人はあまり見かけないけれど、こっちでは太ってる方が良かったりする?と思わず自分の腕をつかんでムニムニと揉んでみる。頭に『ふくよか』の四文字が浮かぶ程度には肉がついている・・・もしそうなら、これ以上は絶対太らないようにしないと。でもできる事なら、もう少し背は伸びて欲しいし、大人っぽくなりたい気持ちもある。

 はぁ、とため息がこぼれてしまう。ずーっとこの身長のままで子供扱いされる未来が簡単に想像できてしまってツライ。いつものようにホウキを手に取り、お店の前を掃こうとドアを開けて思わずつぶやく。


「どうしたらもっと大きくなるかなぁ・・・」

「リリアナ、もっと大きくなりたいの?」

「うん、そう・・・」


・・・ん?独り言に返事があったような。そう思って顔を上げると、目の前にはキラキラとした笑顔が。


「俺はそのまんまで十分かわいいと思うけど?でももうちょい欲しいって気持ちは分かる・・・今はちょっと負けてるかもしんないけど、大人になったら絶対俺の方が大きくなるし!」


 やっぱ今のまんまじゃカッコつかないし、ちゃんと成人してから求婚し直そうって反省した・・・のだと笑うレスター君。その後ろには何人もの子供の姿がある。え?こんな朝早くから、何事ですか??


「なあ、この子がリリア?だっけ?ドラゴン作れるって言ってた子?」

「リリアナだよ!あと呼び捨てにすんなよ!」

「これ、うちのじぃちゃんが飲んだ薬の入ってたやつ持ってきたんだけど、これでも作れるのか?」

「やっぱ薬買わないとダメなんじゃね?」

「レスターのやつさぁ、ドラゴンめちゃくちゃ自慢してくんの!なぁおれらにも作ってくんない?」

「俺もほしい!」


「「「お願い!!」」」





 ええっと、これ・・・どうしよう?





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