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 薬草のある森は明るい陽射しが差し込み、たまごのような形の蕾は赤や黄色に光り、不思議な鳴き声の鳥や、音が鳴る植物に溢れている。この世界は人も街もカラフルだけど、森もたくさんの色に溢れている。

 全体的に柔らかな青い色に包まれたこの森に来て、不思議な動植物を見つけるたび、確かに異世界なんだと思わされる。

 

 様々な場所で必要な薬草を探し、30分程であっという間にカゴいっぱいになった。たくさん生えていたわけでも、カゴが小さいわけでもない。

 この森のが手伝ってくれたからだ。


「みんなありがとー! おわったよー!」


 森中に聞こえる位の大きな声で呼びかける。たくさんの生き物が、自分のいる場所へとすごい早さで近づいてくる音がする。

 ガサガサッと一際大きな音を鳴らして、頭上に羽を持つ生き物が、目の前には丸い毛玉が、足元には大型の獣が、一斉に自分に向かって飛びかかってきて、思い切り後ろへと転がってしまった。もちろん襲われたわけじゃない。


「ひゃっ、あははっ、びっくりした! みんなのおかげで早く終わったから、いっぱい遊べるよ!」


 頭にくっついている羽の生えている生き物を、起き上がる反動を使い、自分の手のひらへとコロリと落とす。薄く透き通った虫の羽に、ほんのり青く輝く小さな体。すごく神秘的なのにとてもいたずら好きだ。勝手に妖精ちゃん、と呼んでいる。

 お腹や肩には、黄色や緑の葉の色をした、手のひらサイズの丸いふわふわがいくつもくっついている。口や耳はどこにあるかは分からないが、青くて小さな目玉がくりっとしていて可愛らしい。この子は毛玉ちゃんだ。

 足の間にいる、一番体の大きな獣には全身白く黒の縞々の模様があり、金の美しい瞳をしている。肉食獣のように鋭い爪や口には長い牙があるが、傷つけられた事は一度もない。この子が一番のお気に入りで、タイガと呼んで可愛がっている。ちなみにみんな頭に浮かんだ思い付きの名前なので、本当は何と呼ばれているのかは知らないし、この美醜逆転した世界でこの子たちがどちらになるのか分からないが、今では大切な友達なのであまり考えないことにした。


「さてと! 今日は毛玉ちゃんのしたい事にしよっか。何して遊ぶ?」


 近くにいた毛玉たちが、一斉に森の奥へとポヨポヨ跳ねながら逃げて行く。今日は追いかけっこのようだ。


「よーし、みんな捕まえるからね! タイガ、薬草のカゴとメガネ、置いていくからお願いね」


 タイガの頭をひと撫ですると、気合を入れる。毛玉ちゃんが向かったのはおそらく泉だろう。そこまでに何体タッチ出来るかなと考えて、私は走り出した。




 胸の高さにある枝に片足をかけ、高い位置にある次の枝に飛び移る。そのまま反動で次の木の枝にいた毛玉ちゃんの所まで登りタッチする。次はどこにいるかな?と探しながら下まで飛び降り、また駆け出した。

 何をしているか分からない人が見たら驚くだろう。今いたのは5mの高さの木の枝だ。

 多分普通の人は、森の中を走ったり木へ飛び移ったり、一気に5mも木登りなんか出来ないと思う。私も初めから出来るとは思わなかった。


 気が付いたきっかけは、ウルジさんの仕事を手伝い始めた時。

 あまり失敗らしい失敗もなく、初めて聞いた薬草の見分けもすぐにつき、接客したお客さんの名前も顔も一度で覚えて、言われた事をすぐ理解してどんどん出来るようになり、読み書きもまるで苦にならずにたった2週間で出来てしまうと・・・さすがに自分で、出来過ぎじゃない!?とつっこみを入れてしまった程だ。


 自分には何が出来るんだろう?と考えやってみた結果、私はこの世界では、周りの人より少し力が強くて体力もあり、記憶力も目も耳も、普通よりもちょっとだけ良い事が分かった。

 今はどこまでが限界なのか知るべく、人のいないこの森で全力疾走や深い湖に潜ったり色々試していて、みんなと遊ぶのはその延長だ。5mの高さから降りても無傷なら、もしかしたら倍の高さ位でも大丈夫かもしれない。こんなわたしでも、この世界では取り柄があるんだ、と少しはしゃいでいるのが本音ではあるけど。全力で走って疲れにくい体も、教わった事がどんどん出来るのも、初めは驚いたけど楽しくて仕方ない。薬や料理だけじゃなく、もっともっとやってみたい事が増えていく。

 この世界の事を学んで、いつか、このキレイな世界をもっと見て回りたい。今ではそう思える位この世界が好きになっている。




 森に入ってしばらくすると湖があり、さらに森の奥へと進めば泉がある。先ほどの湖の源泉となる場所は私も滅多に来たことが無い。

 ここには森の入口のような動植物の騒がしさはなく、静かで落ち着いた色合いの物が増える。ふわふわと妖精ちゃん達が漂い、少し特別な、神聖な雰囲気がある。頻繁に森に出入りするようになった私が言うのもなんだけど、勝手にここまで入っちゃっていいのかな?といつも少し心配になる。

 もう泉が見える所まできて、近くの岩の上に毛玉ちゃん達がぴょこぴょこ跳ねているのを見つけた。これで皆かな?と思いながら近付いて、岩の反対側から何か見えているのに気が付いた。よく見ればそれは人の足で、毛玉ちゃん達は私に、誰かいるよーと飛び跳ねながら教えてくれていたんだと理解する。

 ひょい、と何気なく岩の陰をのぞき込めば、岩に背を預ける形で座り込んだ男性が、その姿勢のままで気を失っているようだった。呼吸は安定しているが、血の匂いがすることからどこかケガをしているのかも知れない。騎士のような服装で、近くには血の付いた剣も落ちている。こんな場所で誰かに、それも城に勤めているだろう騎士がいるだけで珍しいのに、ケガをしているなんて・・・とは思うものの、そのままにはしておけない。


 近くに座り、勝手にケガがどこか見て回る。右足の血はもう止まっているようなので、手持ちの薬草から作った軟膏を塗るだけにしておいた。傷の深そうな左の肩は、上着を脱がせて泉で濡らした布でまわりの血をぬぐい、傷に触れないよう軟膏を厚めに塗る。さらに近くに自生していた薬草を摘み、よく揉んでからフタのように傷を覆うと、その上からハンカチを細長く裂いて包帯のかわりに巻いた。

 ウルジさんから教わった通りにしてはみたが、初めて人の手当てをしたので不安が残る。また元のように動くよう、早く癒えるように願うしか自分には出来ない。

 だけどこの傷は、何の傷なんだろう・・・まるで人よりも何倍も大きな、魔物にでも傷つけられたような傷だった。とはいえ魔物を見たことは無いので確かなことは全然分からないのだが、この森に魔物は出ないとウルジさんに聞いているし、心配することは無いと知っている。それでもこの背の高そうな騎士様の、頭上から襲われたかのような怪我の負い方が少し・・・気になった。



 

 顔を見れば、頬に切り傷がある。これで最後かな、と残りの軟膏を指にとり、そっと傷の上を滑らせる。


・・・よく見るとこの人、ちょっと美人すぎる。いや、体の傷を手当てしているし、後ろ髪が短いので男の人なのは分かってるけど、日の光が癖のある銀髪に当たって輝き、眠るように伏せられたまつげの長さも鼻の高さも、私から見てどこにも欠点が見当たらない。これが天使かーと思わず納得してしまう。唯一、長めの前髪で目元が隠れていてもったいないが、思わず見惚れる位に綺麗な顔立ちだった。この人も普通のカオ、なんだろうか。私もこんな美人さんだったらと考えてしまう・・・いや、今は美人なのか。生きていくのに不自由するレベルの。・・・こればかりは中々慣れないなあ。


 眠っているのを良いことに、騎士様を至近距離でまじまじと眺めていたら、それまで岩の上で大人しくしていた毛玉ちゃん達が突然、ぽぽぽーん!と騎士様の頭の上で次々に飛び跳ね、私に向かって降ってくる。思わず腕の中に受け止めるが、私は大慌てだ。

 ななな、何してるの毛玉ちゃーーーん!?怪我人だよ!!!!!!!?

驚いて、思わず毛玉ちゃん達にシー!と伝えたがもうやってしまった後で遅すぎる。みんな青い瞳をこちらに向け、首をかしげるようにして見つめてくるが、こっちの言いたい事は伝わってないだろう。







「・・・リリア、ラスカ・・・?」




 ビリっと電気が走ったような感覚があった。何、今の・・・?誰の声?

 そう思い正面に視線を向ければ、キレイな金の瞳と目が合った。

 

 う、うわぁ・・・ちょっと待って、想像以上にかっこいい人がいる・・・

きっと私、間抜けな顔をしている自信がある。少し釣り目の騎士様の瞳に、ポカーンとしてる私の顔が見える。街で見かける警備の騎士様達は、体を鍛えていて力強い野性的な人が多いけれど、この人はその逆だ。騎士より文官の人に多い、大人しい落ち着いた雰囲気なのに、きっとたくさんの騎士様達の中でも見つける事が出来そうな位存在感がある。

 どれくらいそうしていたか分からないが、は!と気が付けばものすごく近い。少し動けば触れてしまいそうだ。それもそのはずで、怪我の治療のために近くに座ったままだと思い出し、その距離に急に落ち着かなくなってきた。

 どうしよう。騎士様の顔近い・・・!す、少し離れた方がいいかな・・・?

自分は怪我の治療をしただけであって、舐めまわすようにキレイな顔を見ていたわけじゃ!とか言い訳ばかり頭に浮かぶ近さに、ひとまず適切な距離をとって落ち着いて話をしよう。そう思い、ほんの少し体を後ろへ引くと。

 騎士様の顔がサッと強張り、そのまま瞼も顔も伏せてしまった。長い前髪が目元を隠し、キレイな金の瞳が見えなくなってしまう。突然の変化に驚いていると、こちらに向かって誰かがやってくる足音や、数人の話し声が耳に届いた。300m程まだ距離がありそうだ。自分の耳すごいな~と思っていたら毛玉ちゃん達も気が付いたのか、みんな腕の中から抜け出し、泉の向こうへと飛び跳ねて行ってしまった。



「・・・私の顔は、精霊にすら怖がられる、か・・・」


 小さな、寂しそうな声が騎士様から聞こえた。が、言葉の意味がよく分からない・・・怖い?誰が?騎士様、が?精霊って、毛玉ちゃん達の事?

 頭に浮かぶ疑問を考えている間に、近付く誰かの声が騎士様にも届いたのだろう。そちらに顔を向けている。私はどうしようか、怪我の事もあるし、一緒にここで待っていようか、と考えて気が付いた。


 メ ガ ネ が 無 い 

 

 そうだ、森の中なら安心とばかりに外してしまった。今は薬草の入ったカゴの中だ。騎士様には顔を見られてしまったが問題なかっただろうか。頭に外套をかぶり直し、顔を隠して大怪我の事だけでも説明する事も考えてはみたが・・・ダメだ怪しすぎる。薬草の入ったカゴも無いのになぜここに?と聞かれそうだ。でも顔を見られたら騒ぎになる。

 迷っているうちに、もう騎士様へ疑問を訪ねる時間も、今すぐここから離れると説明する時間もなくなってしまった。


 ・・・・・・・ご、ごめんなさーい!


 心の中で謝って立ち上がり、座ったままの騎士様に視線を向けると、騎士様もこちらに顔を向けている。長い髪で良く分からないが、目が合った気がした。うう、怪我が早く良くなりますように。ペコリと頭を下げてその場から急いで離れる。湖の近くでタイガが待っててくれているはずだ。

 走りながら、結局一言も言葉を交わさなかった事をとても後悔していた。



 お話、してみたかったなあ・・・リリア、ラスカ?って言ってたけどあれは、なんて意味なんだろう・・・?


 



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