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初投稿です。

 


 人間の脳は、均等なもの、バランスの良いものを美しいと感じるように出来ているらしい。



 可愛い、なんて個人の趣味嗜好の幅が広い表現はともかく、一般的に綺麗と称される女性や、誰もがカッコいいという男性を見て、私も同じように感じてきた。私の感覚は正常だと思ってる。


 そういう私は特にブスという程悪くなく、でも可愛いなんて小さいころに言われた気がするレベル。

 何年もその平凡で標準な容姿で生きてきたんだから、自分はどこにでもいるフツーの顔だとしっかり理解している・・・ハズが


「貴方ほど美しい人を見たことがありません・・・!」


 なんだか随分近い位置から感極まった声が聞こえる。近くに美人がいるなら見てみたい、と興味を引かれて顔を上げると、胸を押さえて顔を赤らめた知らないお兄さんが、なぜか私の顔を凝視してる。ものすごくカッコいい。

 え?だ、誰ですか?誰に言ってるんですか?

 後ろに引こうにも、気が付けば他に何人もいて囲まれ、もう身動き取れなくなってきていたりする。

 周りの顔を見たらみんな美人。すっごい美人。青い目赤い目、緑の髪に・・・紫の髪!?カラフルですね、綺麗な皆さんは一体どこから湧いてこられたんですか!?


「可愛らしい方、どうか名前を教えてくださいませんか?」

「この街にこんな美少女がいたなんて」

「本当に、なんてすばらしい日なんだ。あなたに会えた幸運を神に感謝せねば」

「一目で好きになりました。付き合って下さい。ご両親に挨拶させて下さい」

 本当に意味が分からない。今まで他人から言われた事のない言葉ばかり聞こえる。口々に言われたってこんなの、なんの冗談だと笑いたくなっても許されますよね?何を言っているのかは聞こえても、まったく頭に入ってこない。返事をしようにも、何も言葉が出てこない。

 たぶん自分の容姿を褒められているのだと思うけど・・・正直嬉しいよりも、理解できない。それよりも知らない人にこんなに囲まれたら怖い!怖すぎるよ!絶賛パニックだよ!



 なんなのこの状況!? だれか出てきて説明してくださーーーーい!!




 もちろん誰も出てこなかった。でもまだ脳内で、同じことを叫び続けている。

 自力でなんとか集団の輪から抜け出して、近くの路地へと逃げ込んだ。ひとまずその場から離れたけれど・・・今度はどこにいるのか、どこを見ても覚えのない街並みが続いている。曲がっても曲がっても知らない場所で、私はどんどん不安になっていった。


 ひとまず何か持っていないかとポケットを触るが何も無し。カバンも財布も持ってない状態で、どうして自分はあそこにいたのだろう?

 とりあえず一番上に着ていた長袖を脱ぎ、頭も顔もぐるぐる巻いて、目元だけ出した状態にしておいた。ひたすら自分の顔が注目を浴びていた事だけは分かったので、隠せるだけ隠しておこう。

 ・・・さっきのは本当に何だったんだろ。

 なんでわたしなんか囲んであんな事言うの?

 とりあえずここ、どこなの~・・・!?


 疑問が次々浮かんでくる。

 不安から焦りが生まれて、少しずつ早足になるのを自覚していた。足を止めて、誰か人が居るところで道を聞くべきだ。分かっているのに頭はまださっきの状況を何度も思い出して、ぐるぐる同じことをまた考えている。


 落ち着いて、落ち着いて私。随分離れたし、少し止まって様子を見よう・・・

 そう言い聞かせて、角を曲がろうとした時だった。


「「っあ!!?」」


 衝撃とともに尻餅をつく。スピードを落とすこと無く、思いっきり誰かにぶつかってしまった。


「ご、ごめんなさい・・・!」


 とっさに謝って体を起こす。

 相手はよく見ると、自分より小柄なおじいさんだった。向かい合う形で、同じように尻餅をついた状態で座ったまま動かない。痛そうにぎゅうっと寄せられた眉間のシワに、食いしばるように歪んだ口元を見てハッとした。・・・大変!と傍に駆け寄る。


「おじいさん、大丈夫!? ど、どこが痛いですか!?」

「・・・つぅ~、こし、腰が」


 どうやら腰を強く打ちつけたようで、痛みからすぐに動けなさそうな様子だ。ど、どうしよう、誰か、助けを呼ばないと、このままじゃだめだ、そうは思っても周りを見回した所で近くに人はいない。お医者さんどころか自分がどこにいるのかもまだ解らないままで、今おじいさんを置いて離れるのも不安だ。


「あ、あの、おじいさん! おじいさんのお家はどこですか!?」





 *





「ああ、助かったよ。悪いね負ぶってもらって」


 おじいさんの道案内で、5分程ここまでおんぶして来たが、歩いてくるまでに大分回復したらしい。一軒家の扉の前で背中から降ろして、腰を支えながらも招かれるまま家の中に入った。

 近くにあった椅子に、おじいさんをそっと座らせる。


「あの・・・おじいさん、ご家族の人は?すぐお医者様にみてもらおう?」


 家まで来たのは、家族の誰かに事情を話して、力を貸してもらおうと思ったのだが・・・家の中に他の人の姿はない。生憎おじいさんから返ってきたのは、今は一人暮らしだよ、というもので。


「いやいや医者なんか必要ないさ。ほれ、お嬢さんコレ貼っときなさい」


 と言って戸棚から何か出して渡されたが、湿布と聞いてすぐさまおじいさんの腰に貼ってあげる。私の分はまったく痛みもないので、必要なさそうだからと断った。

 なんでもおじいさんは薬屋を営んでおり、医者より自分の作る薬の方がすぐ治るとまで言われてしまった。心配かけまいと言ってくれているのかと思えば、湿布を貼ってすぐ立ち上がり、背中を何度が曲げ伸ばして腰の具合を確かめ、何事もなかったかのように歩いて行って台所でお湯を沸かし始めている。

 そんな薬がほんとにあるなんてすごい、と素直に関心してしまう。


 テーブルにお茶を出してくれたタイミングで、私は改めておじいさんに向き合い、頭を下げて謝罪した。


「前をよく見ていなくて、ほんとにごめんなさい。おじいさんに大きなケガがなくて良かったです」

「ああ、いいから座って座って。もうお嬢さんもそのことは忘れようじゃないか。ところで、なんだってそんなもんを顔に巻きつけてるんだ?お茶が飲めんよ?」

「あ・・・はい、これ、は・・・」


 おじいさんの興味は、変わった事をしている私に移ったようだ。それもそうか。私だって目の前に同じ事をしている人がいたら不思議に思う。でも、と顔に巻いた服に手をやり、少し迷う。これを取ったらおじいさんも、さっきの人達のようにならないだろうか・・・?おじいさんは水色の目を細めて、向かいのテーブルから面白そうに眺めているだけで、催促もせずに待っていてくれる。私が顔を出さなくても、きっと「事情があるんだね」と受け入れてくれそうな表情だ。

 なら逆に、このおじいさんに顔を見せたら何といってくれるのか知りたくなった。このまま顔を隠したところで、自分だけでは答えも出ないと思い、巻き付けた服をほどいていく。

 肩のあたりまである自分の黒い髪が見える。おじいさんの目は綺麗な水色だけど、私の目は・・・あれ?なんで自分の目の色が思い出せないんだろ。


 そんな事を考えながら、ゆっくり顔を上げておじいさんに視線を合わせれば、まんまるに見開かれた目とポカンと開いた口が可愛らしくて、つい笑ってしまった。


「・・・!! いやぁ・・・こりゃ、えらい別嬪さんで驚いた・・・」


 おじいさんの返答は確かにさっきの人達と同じものだったが、随分落ち着いていてホッとする。

 これなら、と私は疑問を解決すべく、おじいさんに先ほど自分に起こった出来事を相談することにした。

 


 だけどその前に、ちょっと鏡をお借り出来ませんか?







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