異世界に転生してきた大勇者なんだけど、言語ができないせいでそこら中のザコモンスターより嫌われてる。
俺は異世界から転生して来た大勇者。
だけどこっちの言葉が全然話せない。
だから、やることが何一つないぜ!
「はーぁー、今日は何しよ……ま、昼まで寝てから考えるか」
言語弱い系勇者あるある1
人生の目的を見失いがち
というわけでいつも通りたっぷり惰眠を貪った俺。
腹ごしらえのために町へ出ることにした。
賑わっている市場から食欲を刺激する匂いが漂ってくる。
「お、肉まん……今日はこれにするか」
言語はすこぶる弱い俺だが、生きるために必要な言葉は覚えている。
忙しそうに働くオバちゃんにカタコトで声をかけた。
「え、えーっと……これ、いくら、ですか……?」
「ええ、なんだって?」
「だからえっと……これ、いくら、ですか?」
「だからわからないって。あんたなんて発音してんだい!」
「あれ、なんか怒られてる……?」
「まったく、商売の邪魔だったらありゃしないよ! しっしっ!」
言語弱い系勇者あるある2
ゴロツキ以上の厄介者扱い
容赦のないオバちゃんの剣幕であった。
しかし、生きていくために引き下がるわけにはいかない。
しつこくと尋ね続けるとオバちゃんは渋々こちらを振り向いた。
「うるさいわねえ。100だよ。とっとと払ってあっち行きな」
「100? 100って言ったな?」
気が変わらない内にさっさと貨幣を渡す。
投げられた肉まんを受け取って俺は店から少しだけ離れた。
その時だった。
「……ちょっと待て」
あのオバちゃんから俺と同じ肉まんを買った人が目に入る。
しかし今の人……50しか払ってないよな?
疑問に思ってしばらく観察。みんな50しか払わない。
どうやら俺だけ倍額とられたようだった。
言語弱い系勇者あるある3
カモ。
「う、うぐぐ……」
俺は悔しさのあまり奥歯を噛んだ。
ぼったくられた悔しさ。
そしてこの悔しさを文句に変えられない悔しさ。
俺の国の言葉で叫び散らしても憲兵を呼ばれて大事になるだけである。
俺は渋々泣き寝入りを決め、悔し紛れに肉まんをかじるのであった。
「くそ……みんなして俺のことをナメやがって……」
腹ごしらえを終えて下宿。
ベッドに飛び乗りながら俺は悪態を吐いた。
思えばこんな風に毒を吐くのが習慣になっている気がする。
社会と繋がれていないという感覚は、自分を否定されているようで辛い。
向いていないんだろうか。
田舎に帰って農業でもしようか。
そんな風に思考が極端にマイナスに向かいかけた。
その時だった。
開けた窓の向こうから。
たくさんの悲鳴と破壊音が聞こえてきたのは。
「な、どうした?」
起き上がり、窓の外に目をやる。
半獣のモンスターたちが市場で暴れているのが見えた。
どうやらモンスターが街まで降りてきてしまったらしい。
久しぶりに俺の出番がやってきたような気がした。
「えーっと、鎧とズボンは確かここに……あった!」
俺は慌てて部屋に散らかった装備品をかき集めて装着していく。
……よし、これで準備万端。
今までは平和すぎてやることがなかったけどな。
事件が起きたとなれば話は別。
さあ、久しぶりに勇者としての本領を発揮してやるぜ!
と、意気込んで足を踏み出したその瞬間。
「あれっ?」
ずるっ、と。
いつの間にかブカブカになっていた冒険ズボンが膝までずり下がった。
言語弱い系勇者あるある4
体格が変わるほどのストレスやせ
「……し、仕方ない! この際格好なんて気にしてられん!」
俺はブカブカのズボンを10歩ごとに腰の位置まで上げながら走った。
そして悲鳴とホコリの舞う事件現場に到着。
すると!
なんと!
ちょうど、俺からぼったくった店が襲われているところだった。
「……………………まあ、急がなくてもいいか」
俺は鼻をほじりながらぼったくり商店が破壊される姿を傍観した。
言語弱い系勇者あるある5
性格が悪くなる
と、半獣のモンスター3匹が破壊対象を別の建物に移す。
その瞬間、俺の中の勇者スイッチが入った。
「ちょっと待てや、きったねえモンスターども」
「ぐるるる?」
「勇者の俺が来たからにはもう好き勝手にはさせねえ」
「ぐるるるるる……」
「さあ来い! 1匹残らず市場の肉にしてやーー」
「何言ってんだコイツ。1言もわかんねえよ」
「まさかこっちの言葉に喋れねえのか? 超だせぇ」
「今時スライムでもある程度話せるってのに」
「しかもズボンブカブカなんですけど」
「やばたんピーナッツだせぇwww」
言語弱い系勇者あるある6
モンスターにすらナメられる
「なに言われてるのかはわかんねえけど
バカにされてんのはよくわかったわぁぁぁぁぁっ!」
言語は弱いが腕っ節は強い俺。
日頃の鬱憤を剣に乗せて振りかぶる。
瞬間、モンスターたちはぶつ切りになった。
ストレスを攻撃力の換算する秘技、ストレス斬り。
今なら魔王もワンパンな気がする。
血露を払っていると、慌ただしい足音が近づいて来た。
話を聞いて出動した憲兵たちだった。
「へへん、遅かったな憲兵さんよぅ。俺が全員倒しちまったぜ」
「……な、なんだと……これ1人をこいつがやったのか……」
「マジかよ、騎士団だって手のかかる上級モンスターだぜ」
「あいつ……実は百戦錬磨か……」
いつも俺をナメてかかる人間たちが、尊敬と恐れの混じった表情で俺を見つめている。
ああ気持ちいい。何言ってんのかさっぱりだけど。
やっぱり勇者っていうのはこうでないと。
今日から俺も、言語はできないが真に尊敬される勇者にーー
「しかしこいつ、何語話してるんだ? さっぱりわかんねえ」
「この言葉に腕っ節……怪しいな」
「隣国や魔族のスパイかもしれないぞ」
「おい、とりあえずこいつを牢屋にぶち込んでおけ!」
「イエス、サー!」
「おいちょっとなにをするやめrーー」
言語弱い系勇者あるある7
手柄をあげても評価はされない
こうして、俺の冒険者人生は幕を閉じたのであった。
あと、ぼったくり商店のオバちゃんから
「この男! あたしの店が壊されるのを見て見ぬフリをしたのよ!」
と訴えられた。
コミコミで懲役10年なのであった。
筆者の海外生活を元に書かれたコメディです。