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最愛はカップの中

作者: 春風 月葉

 毎日を過ごすというのは、案外難しい。

 今日も仕事で疲れた身体を鞭打って、一杯のコーヒーとともに夜を明かす。

 コーヒーは良い。

 独特の苦味はデスクワークの苦を薄め、深みのある濃い香りは職場の匂いをかき消し、そこの見えない濁った焦げ茶色は眼の疲労をも呑み込んだ。

 温かい液体は渇いた喉を撫でていく。

 カフェインのおかげで再び眼も冴える。

 残った書類も作り終えなければならないが、今の私にならできる気がした。

 こうして私は、毎晩をコーヒーと過ごした。

 この日も、いつものように眼の下にクマを作って、いつものようにいつもの仕事をして、いつものようにコーヒーと夜を明かす。

 そんなつもりだった。

 しかし、私の身体は愛するコーヒーの毒に犯されていた。

 心は焦燥感に蝕まれ、行き場のないそれらは悪心に変わり、私の身体は眠ることを許されない呪いにかかった。

 カフェイン中毒、私はコーヒーから離れられなくなっていたのだ。

 それからの毎日は辛かった、そして苦しかった。

 ディカフェ飲料で舌と心を騙す日々。

 それなのに頭と身体はコーヒーを忘れてくれない。

 こんな偽物ではないだろうと私の心を誘惑する。

 私は弱々しい足取りで収納家具を開けた。

 愛用していた古いコーヒーカップを手に取って顔に近づける。

 愛するコーヒーの残り香を鼻から胸、そして身体中に送る。

 あぁ、愛しいコーヒーはこんなにも近くにあるのに、私はそれを拒み続ければならないなんて…。


 狭い部屋には鼻を刺すほどの苦い香りが漂っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 怖いですね。私もすでに犯されているかも。
2019/11/26 07:58 退会済み
管理
[良い点] コーヒーが飲みたくなるような作品ですね。
[一言] わたしはどうもカフェインの過剰摂取で低血糖が悪化する見たいでエスプレッソをマキネッタで少量入れたり、できるだけお茶菓子とあわせたりしています コーヒー無いと生きていけない、でも飲むと苦しい…
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