もう、何も無い私。
今年ももう終わりですね。毎日はあっと言う間に過ぎていきますね。
もう、私には貴方が綺麗と言ってくれた自慢の躯もありません。
もう、私には貴方がいつも上手だと褒めてくれたダンスももう踊れません。
もう、私には貴方が好きだと言ってくれた声ももう出ません。
貴方に見てもらいたい、聞いてもらいたいのにもうこんな私では駄目なようです。
もう私には胸を張って誇れるものは何一つありません。
指の隙間からさらさらと砂がこぼれ落ちるように消えて無くなってしまいました。
それなのにこんな私をまだお側に置いてくれる貴方はなんてお優しいのでしょうか。
もし、私が貴方と同じ人間なら有難うと伝えられるのに。
もし、私が鳥ならふわふわの毛で貴方が悲しんでいる時慰めて差し上げられるのに。
もし、私が鳥の玩具ではなければ………。
暖かくて優しい貴方の手が好きです。
その手でねじを回し、微笑む貴方の顔が好きでした。
前にも躯が上手く動かせず躍ることが出来ないときがありましたね。その時は貴方が本を見ながら真剣な表情で治してくれました。
貴方の温かな手が、貴方の柔らかな声が、真剣な表情がとても好きでした。
もっと貴方と一緒に居たかったのですが、時間はもう無いのです。
躯の感覚がすこしずつ遠のいていきます。
───嗚呼、貴方の手も何もかも感じることは出来ません。
私は貴方と一緒に過ごせる日々がとてもとても幸せでした。
とてもとても綺麗な黄金に輝く夕日が窓から差し込みました。その様は涙が出そうな程美しいのです。
その光は私の躯を照らしました。私の躯はその光を反射させ、色を変えて辺りを輝かせます。
「嗚呼、なんて暖かな光──」
窓辺に置かれた古い鳥のオルゴールから寂しく、切ないけれども何処か暖かみのある音楽が微かに流れた。
鳥の目から一筋の涙が流れた。刹那、パキッと音を立てて硝子の鳥は割れ、床に落ちて砕けた。
お爺さんは悲しそうな顔でそれを拾い、
「こちらこそ今まで有難う」
と言った。