討伐!
日も昇ってきたせいなのか先ほどゴブリンを倒した場所に行くとゴブリンが集まってきていた。ゴブリン三体。おそらく俺達が倒したせいで仲間のゴブリンが戻ってこない、または姿が見えないのがおかしいと感じたんだろう。先ほどの戦いでゴブリンは武器を使ったり拳を使ってバルクを殴り飛ばしたりした。ゴブリンもそこまで馬鹿じゃないらしいし、今の状況を見る限り仲間意識があり団体行動を取っているかもしれない。今度のゴブリンはさっきのゴブリンとは違い鉄で出来た刀を持っている。それにさっきのゴブリンよりいい体つきをしている。
「おい。オサムどうするのだ?相手は先ほどとは違い剣を持っているぞ。」
「どうするって言ったってな~。」
実際俺達はまだゴブリンを一体しか倒していない。クエストに有効期限とかはないが今日クエストをクリアして報酬を貰わなければ今日も野宿になりしかも昨日とは違い今日は食い物も無い。何とかしてゴブリンを倒す以外に俺達のパーティーに生き残る道は無い。
「バルク。お前マジックポイントの技もあるって言ってたよな。今すぐその技を覚えろ。お前のパワーじゃスキルを使ってもゴブリンに全然ダメージが入らないからな。」
「わ、わかった。今、習得するから少し待ってろ。」
バルクのマジックポイントなら近接格闘役職のモンクでも十分な戦力になるだろう。
「オサム、オサム。私はどうすればいいですか?何か覚えた方がいいですか?」
「・・・いや、エレア。お前は何もせずに隠れていてくれ。お前の場合スキルとかマジックとかの前に技使っても当たらなんだろ?」
「そんなこと無いですよ~!私だって役に立ちますから!そうやって見捨てないでください~!!」
「うるさい!せめて静かに隠れててくれ!」
「嫌です!私も何かお手伝いしたいですよ!なんか、なんか無いですか!?私にもできること!何かありますよね~!?修~!無視しないで~!」
「あ~もう!二人とも静かにしてくれうるさくて全然技の習得に集中できん!!」
相変わらず静かに出来ないエレアのせいで案の定ゴブリン三体に感付かれてしまい俺達三人はあっさり見つかった。俺は全く戦えない二人を庇うように自らゴブリンの前に出て行った。ゴブリンは俺の姿を見て臨戦態勢に入り威嚇しながらそれぞれ武器を構えた。
クッソ!どうすりゃいい・・・。
俺は剣道をやっていて一対一なら多少の自信もあるが今回はゴブリンが三体しかもさっきより体つきもよく武器も木のこん棒ではなく鉄の剣だ。さすがにこれはビビる。おそらく三体一緒に攻撃してくれば俺は負ける。おそらく死ぬだろう。
このリアルファンタジー異世界で死んだらどうなるのだろう、と少し興味があったりもするが俺はこの世界で魔王の一人を倒して元の世界に戻りキャンパスライフを楽しむのだ。興味はあってもこんなところで死ぬわけにはいかない!
フゥ、と一つ息を吐き気合いを入れて俺は先手必勝と言わんばかりに一番近くにいたゴブリンに面を決めにいった。しかしあっさり受け止められてしまう。だがこれでいい。コイツらの気さえ引きつけてしまえばこっちのもんだ!
「こっちだ!ついてこい!」
俺はゴブリン達にそう叫び走り出した。別にバルクとエレアを庇い俺が囮になろうというわけではない。一対一に持ち込める場所を探してコイツらを一体ずつ確実に仕留める。
「ははっ!経験値は全部俺のもんだ!」
戦闘前でアドレナリンが分泌しているのか興奮してそう言いながら、俺は石橋を見つけてそこへ走り橋の中央で振り返った。俺の思惑どおりゴブリンは俺を囲むことが出来ず一体ずつ俺の前に並んだ。
「さぁ、誰からだ?」
俺はゴブリン達にそう言うと自分のメイスをゴブリンから見えないように自分の腰の後ろに隠しいつでも攻撃出来る体勢にした。つまり脇構えだ。
剣道には『後の先』と言う言葉がある。『後の先』とは相手が攻撃した後に出来た隙にすかさず自分が攻撃することだ。
ゴブリンの攻撃は筋肉があるだけになかなかの破壊力があるだろう。だが、こちとら元剣道部。剣の握り方もろくに知らないモンスターの鈍い攻撃など当たる訳が無い。ゴブリンの攻撃を足裁きだけで横に避け、すかさずゴブリンのこめかみにメイスを振った。
「ぎゃ!!」
ゴブリンは断末魔を叫びそのまま動かなくなった。
・・・まだ倒してないよな?さっきのゴブリンは消滅したし。
俺はゴブリンにとどめを刺すためにメイスをゴブリンの頭にメイスを振り下ろした。
ゴツッ!という鈍い音がしてゴブリンが消滅するのを確認すると。ふぅ、と息を吐いて気を抜いてしまった。それを隙と見たのかたまたまなのかはわからないが、俺はゴブリンの剣をメイスで受け止めたがいくらスピードの遅い攻撃の遅い攻撃だからといってパワーが無いわけではない。
俺はゴブリンの攻撃を押さえることが出来ずに自分のメイスの柄の部分を頭にぶつけ軽い脳震盪で目眩がした。
やばい・・・、やられる・・・!
俺はそう思いながらも目眩で何も出来ないままゴブリンにやられ・・・
やられるかと思ったがゴブリン二体ともフラフラして座り込んでしまった。
・・・なんだ?
すると俺の目眩が急速に改善した。俺はすかさずメイスで座り込んだゴブリン二体をたこ殴りにして消滅させた。
「何だったんだ?」
俺が一人で橋の上で首を傾げてゴブリンが消滅した後に残ったドロップアイテムの剣を眺めていると森からバルクとエレアが出て来た。
「ふっふっふ。我輩の新技はどうだ?なかなかのものだろう!?」
コイツは自慢なんかしなければいいのに、と目を細めたがそんな事よりも本当になんなんだ、あの技は。
「バルク、自慢はわかったからさっきの技はなんなんだ?ゴブリンがぶっ倒れたと思ったら俺の目眩が急速に直った。今の技凄く使えるんじゃないか?」
「ムムム~。自慢は言い足りないしもっと賛美を送ってほしいのだが・・・。」
バルクはブツブツと何か言っているが俺が急かすとバルクはヤレヤレといったジェスチャーをしてしゃべり出した。
「さっきの技はマジック『エア・コントロール』。モンク特有のマジックだ。本来は自分の周りの空気をいい物に入れ換える技だ。我輩の場合は魔力が大量にあるからな。応用としてゴブリンの周りの空気を悪い物に入れ換えたのだ。」
お、お~。本気で感嘆してしまう。
「・・・あれ?」
「ん?どうしたのだ?新たな褒め言葉でも思いついたか?それなら遠慮などせずにドンドン言ってくれてかまわんぞ!?」
ニヤニヤしながら顔を近づけてくるバルクを俺は押し返して言った。
「いやいや、『エア・コントロール』ってエアコンの事だろ?」
「エアコン・・・、なんだか素晴らしく格好いい略し方だな!よし決めた。決めたぞオサム!これから『エア・コントロール』のことは『エアコン』と呼ぶことにしよう!!どうだ!?」
・・・いや、どうだって言われても・・・。
このままバルクが町に戻り「エアコンどうだ!?」と言いふらして俺と同じ日本からきた連中に笑われてもいいのだが同じパーティーとして俺まで馬鹿にされてはたまらない。
「あのな~、バルク。エアコンって言うのはな俺が居た元の世界にあった家電製品の名前で・・・
「カデン?・・・家の伝説か?」
「あー、要するに誰の家にでもある便利道具みたいな・・・?」
「エアコンならちゃんと私の家にもありましたよ!一度も使ったこと無かったですけど・・・。」
・・・なんだかエレアが本当の意味で可愛そうに見えてきた。
「フムフム。オサムのいた世界では誰でも持っていてエレアでさえ持っていると・・・。ダメダメじゃん!?何だよこのマジックの名前ダサすぎじゃん!?ましてやエレアでさえ持っていると言っているじゃん!どうすればいい?どうすればいい!?」
そう言ってバルクは俺の肩を掴んで揺すってきた。
「し、知るかよ。ていうかお前また口調変わってるから!それにお前の技を見たところ俺の知ってるエアコンと全然違うから!!」
「だがしかし・・・
俺とバルクがもみ合い言い争っていると茂みからガサガサガサ!と凄い音がした。
「「・・・ん?」」
俺とバルクは互いの胸ぐらを掴んだまま音の鳴る方を振り返った。
そこには二メートルは軽く超えるゴブリンが俺達二人に武器を振り上げていた。
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