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二人のリーダー

すこし変えてみました。

殴られた。・・・がレベル差だろうか、相手の気迫の割にはそこまで痛くなかった。

しかし、いきなり顔面をグーパンされ俺はしばらく殴られた頬を押さえながら今の状況を必死に整理していた。

まず、殴った奴には見覚えがあった。俺達と一緒にこの世界に転移してきた男の一人。俺を見るたびに絡んできた男だった。昨日、俺が鍛冶屋の前でかなり強烈なインパクト与えて困っているリンカを助けたのだ。そういえば、結構絡んできたけど未だに名前も知らない。

ちなみに今日俺はリンカとデートをする。

思考が一瞬違う方向へ逸れたが、この男の異常な憤怒は今まで絡んできた感じとは明らかに違う。俺はコイツに何かした覚えしかないが・・・、とりあえず俺を殴った理由を聞かなくてはならない。


「・・・おい、いきなり顔面をグーパンするからには、俺が納得するだけの理由があるんだろうな?」


ここで、俺が殴られたからといって下手に反抗してしまえば話の主導権をコイツに取られてしまう。コイツの説明する理由が俺に否があるとしても後々の話し合いが楽にできる。


「お前が・・・、お前が俺達の買い物交渉を邪魔したから俺達のパーティーは壊滅状態だ!!それにお前ら倒したモンスターのせいで俺達が攻撃をされた!!」


確かにコイツの周りに居た連中が三分の一くらいしかいない。残った連中もかなりボロボロだ。居ない奴らは死んだのだろうか・・・?


「なぁ、バルク。今更ながらこの世界で死んだらどうなるんだ?俺はこの世界に偶然来て戻る方法として、この世界での『死』で元の世界に戻れるんじゃないかという、仮説を内心立てていたんだが結局のところ死んだらどうなるんだ?」


「オサム、貴様はもう少し頭が良いと思ってたんだがな。死んで元の世界に戻れるなら貴様がこの世界に間違えて来た時点で我輩が貴様を殺している。」


「お、おう。・・・マジ?」


「この世界で死んでも元の世界には戻れない。この世界で死んでも、元の世界で死んでも、あるのは『無』だ。実際に死んでいた我輩が言うのだ。これ以上に無い証明だろう?」


「確かに・・・、実際に死んだお前が言うんだからこの上ない証明だが、『無』ってなんだ?意味がわからないぞ・・・?」


バルクは説明する言葉を探す様に顎に手を当てながら俺に言ってきた。


「我輩の転生はイレギュラーで前世の記憶は残っているが記憶が混同して曖昧なのは知っているな?」


「あぁ、前に聞いたが・・・。」


「我輩死んでから転生するまで時間的概念や空間的感覚も全く感じないまま一瞬で転生した。それこそ瞬き感覚位の。」


「ん、ん~。なんだか想像しにくいな・・・。」


「まぁ、貴様も一度死ねばわかる。」


さっきといい物騒なこと連続で言ってんじゃねーよ。

バルクに鋭い目線を送っていると


「ゴチャゴチャと何を言ってんだ!!!お前のせいで俺の仲間は死んだんだ!!!」


納得いかない・・・。何故コイツの仲間が死んだのが俺のせいなんだ!?


「一つ聞くが何で俺のせいでお前の仲間が死んだことになるんだ?お前の仲間が死んでしまったことは気の毒に思うが・・・、仲間が死んだ責任はリーダーであるお前にあるだろ?」


「確かにオサムの言う通りだ。リーダーは仲間の戦力と敵の戦力、戦場の環境、仲間の体力残量と敵の体力残量、敵味方の配置すべてを把握した上で戦わなければならない。ましてや少人数の戦闘なら最優先事項は仲間が生き残ることだ。仲間を守れなかった貴様の責任だ。オサムに責任を押しつけるのは責任放棄というものだ。」


「お、おう。そういうことだ・・・。」


俺の言いたいこと以上のことを説明してくれたのは、さすが元天才軍師だっただけのことはある。俺はそこまで考えて無かったけど・・・。


「うるさい!うるさい!!すべてお前が悪い!!俺は悪くはない!!!なぁ、そうだろ!?お前ら!!」


男はそう言うと周りの生き残った仲間に同意を求めようとした。

しかし、男の仲間で彼に同意する者は誰一人としていなかった。


「クッソが・・・!!」


男はそう言うと冒険者ギルドを出て行ってどこかへ行ってしまった。


「ああ言うのはどこの世界でもいるな・・・。」


・・・いや、むしろ元の世界で行き場を無くした者が多いこの世界の方がそういう人間が沢山いるのかもな。


「オサム、あそこで気の抜けている連中はどうするんだ・・・?」


「ほっとけば良いんじゃないか?そんなに関わりある連中でもないし、それに、これ以上戦いたくないなら冒険者ギルドを抜けて他の商業系ギルドや生産系ギルドに入ればいい。」


まぁ、この手の人間はどこへ行っても順応出来るとは限らないけどな。


「・・・あ、あぁ。オサムが言うなら別に気にしないが・・・。」


それより、さっさとタニアを冒険者登録しなければ午後からのリンカとのデートに遅れてしまう。それは絶対に避けなければならない。うん。

エレアやバルクの様なことはないと思うが一応、念のため俺もタニアの隣に着いてやることにした。

異世界に来てまだ三日目だが、すでにこの冒険者ギルド職員の人とかなり顔見知りになってしまった。

まぁ、結構ここの職員の人には迷惑掛けてるからな~。

そう思いつつ俺はタニアを連れ受付の前へ向かった。



*****



「・・・少し良いか、エレア?」


「何ですか?バルク。」


「オサムのことどう思う?」


「何ですか!?な、な、なんで急にそんなこと聞くんですか!?」


「別に貴様がオサム多少異性として気にしているのは知っているが、今、我輩が聞いているのはそのことじゃない。オサムを一人の人間としてどう見る?」


「一人の人間として?どういう事ですか?」


・・・やはりエレアはあまり感じ取れていないか・・・。

・・・いや、ただ鈍感なだけだろうな・・・。


ゴブリンを倒した時もそうだった。エレアの場合は咄嗟のことだからあまり気にはしないが、オサムは何の躊躇も無くゴブリンを殺した。オサムの居た時代は我輩の居た時代とは違い治安はかなり良いと思うのだが・・・、人では無いとはいえ何故あんなにも簡単に生き物を殺せる?

確かに、我輩達と敵対する魔界の化け物だが同じ生き物だ・・・。普通に生活している一般人にあんな事が出来るのか?

それに、今の男に対する対応も冷めきっている・・・。我々のパーティーの利益を考えて合理的に対処したと言えばそうなのだが・・・。


「・・・別に何も感じていないならそれで良いのだ。」


まぁ、オサムの過去に何かあったとしても、若造にしては頼りになるし切れ者だ。我々のリーダーとして充分に役割を果たしてくれている。時期を見て、このことはまた追々考えれば良いだろう・・・。

ならば我輩が、次にやることはただ一つ!!


「おい!タニア!やはり、自分のなりたい役職になるのが一番だぞ!!」


「おいおい、結局どっちの方が正しいんだ?兄さん!?」


「バルク!余計な事をタニアに吹き込むな!」


「そうです!バルクの言う通りです!自分のなりたい役職で生きましょう!」


「エレアも止めろ!!タニア、俺と受付の人の言うこと信じろ!!」


まぁ、今の我輩はこの慌ただしい日常を楽しむ事にするか。


自分が慌ただしくしている現況だと気付かない元天才軍師のバルクだった・・・。



*****



「クッソ!クッソ!!クッソがぁぁぁ!!!なんで俺がっ!!なんで俺があぁぁぁ!!!」


男はこんな惨めな思いをするために、この異世界に来た訳ではない。転移されて来た時に一緒に付いてきてくれた仲間はすでに男の周りにはいない。実際に仲間と呼べる者なのかどうかもわからないが・・・。

男にはもう元の世界にも、この世界にも何も残っていない。すべてを失ってしまった。


「アイツさえ・・・!アイツさえいなければ・・・!」


「良いですね!あなたは凄く良い!!実に僕の求める人格に合っている!!!」


何もない男に一人、声を掛ける人影が唐突に現れた。

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