頼みと責任
家の補強をするに当たってフラスコの中に入っている謎の液体を木材に塗ると言った単純な作業なのだが・・・、これがなかなか面倒臭い。
その理由はこの謎の液体が滅茶苦茶べたべたするのだ。正直気持ち悪いしやりにくい・・・。
「おい、タニアこの液体は何なんだ?滅茶苦茶べたべたするんだが・・・、スゲー木材に塗りにくいんだが・・・。」
「まぁ、我慢してくれ兄さん。これ塗っとくと永遠に木材が腐らないから。ちなみにこの液体はウッドスライムの死骸だから。」
「ふーん・・・、ウッドスライムね~。・・・えっ?」
「ん?どうした、兄さん?」
「いや、別に・・・。」
スライムってRPGの定番モンスターのあのスライムだよな。ゴブリン倒した時は消滅したのにスライムは残るのか・・・?
色々とこの世界についての新たな謎が残りつつも俺はタニアとともに悪戦苦闘しながら木材にウッドスライムの死骸を塗り終えた。
「おい、兄さん。そのウッドスライムの死骸を手に着けたままにするなよ。乾いたら手にくっついて剥がすとき皮ごと剥がれるから。」
「マジ!?」
「マジマジ。血まみれになりたくなかったら、すぐに洗った方がいいよ。」
急いで顔を洗った川に戻り手に付いたウッドスライムの死骸を洗い流した。
「そういう、重要なことは先に言ってくれよ・・・。」
文句をブツブツ言いながらもタニアおかげで家の補強は完璧に仕上がった。
しかし、ここまで良くして貰って自分達の住んでいる林を守るだけというのも申し訳ない。俺はそう思い何かすぐにでも別の形でもう一つお礼をすることにした。
早速俺は家に戻りタニアに聞いてみた。
「タニア、さすがに林を守るだけっていうのはここまで良くしてもらってなんだか申し訳ない。何か直接的にすぐにでもお礼がしたい。何か欲しい物とか、して欲しいこととかないか?」
「別にそういうのは良いんだけどな、兄さん・・・。でも兄さんがそこまで言うなら・・・。」
タニアはそう言うとしばらく考え、バルクとエレアと俺を一通り見て一つの結論に至ったようだった。
「なぁ、僕を兄さん達の仲間にしてくれないか?」
「・・・本気で言ってんのか?」
「あぁ、そうだよ。僕も冒険者になって兄さんと一緒に戦う。」
正直タニアはエレアはより使えるかもしれない。それにタニアはエレアより大人だろう。精神年齢的な意味で。だが、そうは言ってもタニアは子供だ。こんな子供に命がけの冒険者などという野蛮で危険な道に導いてしまっていいのだろうか?
俺はしばらく考えた上でタニアの嘆願に対する答えをだした。
「・・・いや、正直お前を俺達の仲間に入れるか否かは俺の判断するには荷が重すぎる。」
冒険者は命がけの職業だ。タニアの様な子供をそんな危険な事に巻き込んで何か事が起こった時にタニアの親族に俺は責任を取れない。
「多分兄さんの断った理由は僕が子供だからって言う理由だろ?」
「・・・まぁ、そうだな。」
「そのことなら杞憂だぞ。兄さん。僕は多分兄さん達より年上だから。」
「いやいや、そんなわけないだろ?どう見たって俺の方が年上だ。」
「確かに見た目はな。けど兄さん、僕は妖精だから。」
「・・・え?」
「え?じゃないよ兄さん。僕は妖精。フェアリー。」
「いやいや、言い方変えなくてもわかるから。それより、妖精ってどういうことだよ?いわゆるアレか?ファンタジー世界でよくある妖精は超長生き設定的なやつか?」
「ファンタジー?設定?何言ってんのかよくわからんけど・・・まぁ、そういうことだな。兄さん。」
「ちなみにタニアは何歳なんだ?」
「えぇっと、だいたい九十歳くらい?」
俺の何倍も年上じゃねーか。
・・・でも、バルクの方が年上じゃないのか?
「なぁ、バルク。お前何歳なんだっけ?」
眠気から覚めて体の関節をボキボキと鳴らしているバルクに聞いた。
「んっ?ん~、我輩は今年で五百九十歳だな。」
バルクは天界で神達相手にチェスなんかのゲームの相手をさせられていたと言っていた。それはどれほどの時間かは検討が付かないが天界と魔界のゲームが二千年続いているというなら、その辺りに生まれたバルクも相当の年齢になっていると考えたからだ。
「まぁ、別にお前が最年長じゃないから安心しとけ。こいつ今はこんなんだけど元は知らない人がいないくらいの天才軍師だから。」
「えぇぇぇ!!バルクってクソじじぃなんですか!?しかも私より年下だと確信していたタニアまで!?」
やっと起きたエレアが寝起きのはずだというのに、いつも通りにうるさい・・・。そしていつも通り馬鹿だ・・・。
「バルク兄さんって実は凄いのか・・・?」
「あぁ、我輩はかなり、と言うか超が付くほどの凄い人なのだぞ!敬い、崇め奉ってもいいのだぞ!?」
「別にいいや。」
「おおぉぉいい!!」
バルクが例のごとく軽くあしらわれたところで話題を元に戻す。
「それじゃ、別にタニアがこのパーティーに入る事に依存は無いな?」
「別に無いが?むしろ妖精などという珍妙な生き物が我がパーティーに居るのは実にいい!」
「私はお爺さんでも全然良いですけどね~。見た目は可愛いですし!」
「別に珍妙でも、お爺さんでもねぇよ。折角入った後輩をいびるな。」
二人をを窘めたところで俺達は昨日に引き続き冒険者ギルドに行くことにした。タニアは仲間にはなったがまだ冒険者では無いためモンスターを倒しても俺達の様にレベルは上がらないし、スキルのような特殊な能力も使えない。今のタニアは四次元ポケットならぬ四次元バックという珍しいアイテムを持ってるだけのただの九十歳の少年だ。
それに、昨日倒したゴブリンの報酬も貰いに行かなければならない。
俺達四人は町の冒険者ギルドに向かった。
「なぁ、兄さん。僕は冒険者ギルドに行き冒険者になるんだろう?」
「そうだけど・・・、何だ?凶悪かつ凶暴なモンスター達と戦うから急に怖じ気づいたのか?」
「そ、そんなんじゃねぇよ!ニヤニヤすんな!!」
「冗談だよ、そんなムキになるなって。」
「ったく、僕が質問したいのは僕の冒険者の役職は何になるのかってことだよ!」
「あぁ、そんなことか。」
「そんなことって・・・。」
「自分のなりたい役職になるのが一番だぞ!!」
「そうですよ!自分のなりたい役職になりましょう!好きなことで生きていきましょう!!」
「バルクもエレアも余計な事をタニアに吹き込むな!お前ら二人は自分の好きな職業で何とかなっているが、それはお前達が一つのステータスに特化していたからギリギリ何とかなっただけだから!?」
「「ちぇ~。」」
「つまり、どうすれば良いんだ?兄さん。」
「まず、冒険者ギルドに行くと受付で冒険者カードというのを貰う。これだ。」
そう言って俺はタニアの前にヒラヒラとステータスカードを見せた。
「これに自分の初期ステータスが表示される。その結果から自分に最適な役職を選んでいくんだ。」
「なるほどな~。詳しいな兄さん。」
「詳しいも何も普通こうする。受付の人も自分に最適な役職を薦めてくる。コイツらのように、受付の親切な人の話を無視して自分のなりたい役職になるもんじゃ普通ない。」
「バルク兄さんとエレア姉さんは何やってんだよ・・・。」
タニアが残念な先輩方に冷たい視線を送っているが、一方の二人はそんなこと無かったかのように王道に口笛を吹いている。エレアに至っては空気が出るだけで音が出ていない・・・。
そんな下らないやり取りをしている内に俺達は冒険者ギルドに着いた。
到着したはいいが、ギルドの中が騒がしく入り口には人だかりができていて中に入ることができない。」
「何かあったんでしょうかね?」
エレアがそう言いながらぴょんぴょんとギルドの中を覗こうとジャンプしている。
「我輩達の偉業を聞きつけた町に住民が集まって来たんじゃないか!?」
「今更か?昨日の事だぞ。それはさすがに違うだろ。」
「偉業ってなんだ?兄さん。」
「あぁ、そうかタニアは知らないんだったな。俺達は昨日、町の特定指定モンスターを倒したんだ。それが前代未聞だとか何とか・・・。」
「ふ~ん。その、特定指定モンスターって言うのがどれだけ凄いのかは知らないけど、前代未聞って事は相当な事なんだろうな~。」
しかし、どんなことであろうが俺達は冒険者ギルドに用事があるわけであり、ギルドの中に入らなければ何も始まらないし、終わらない。
「ちょっとすいませーん。そこ、通るんでどいてくださーい。」
すると、一人の町の住人が俺達の姿を見て突然声を上げた。
「おい!コイツらじゃなかったか?昨日バトルゴブリンと町の特定指定モンスターを倒したのは!」
「おぉ!そうだ、そうだ、この人達だ!」
町の住人達の視線が俺達に集まる。
「やはり、我輩達の偉業が昨日に続き今日までも・・・!」
「いやいや、そんな雰囲気じゃないだろ?俺達に向けられている目線は心配されているって感じの眼差しだぞ?」
住民の眼差しを怪訝に思いながらも俺達はギルドの中に入った。
「お前かああぁぁぁ!!!」
耳を劈く様な鋭い叫び声を聞きながら俺はいきなり殴られた。




