緑髪の少年
俺はミリアンと別れた後、木の上の家に戻ることにした。
ミリアンとの夢のような時間のおかげですっかり二日酔いの頭痛も消えてすっきりした気持ちで林の家に戻ることができた。
林の中にある家に戻る途中、少年が一人林の前に立っていた。髪の毛が緑色という日本では・・・、というか俺の居た元の世界では染めなければ絶対にいない様な色をしている。
子供は俺のことをジロジロ見ているが知らない少年と無理に話す理由もない。俺は少し回り道して林に入ることにした。
「なんで避けるんだよ?そこの兄さん!」
何で避けるか?そりゃお前が知らない俺の元いた世界で、そんな青々しい髪の奴はヤバい奴しかいないからだよ。
俺は内心そうツッコミつつも年上としての対応として緑髪の少年に呼びかけた理由を聞いた。
「なんだ?俺に何か用か?」
「露骨に嫌な顔をするなよ、兄さん・・・。」
どうやら俺の心の声がそのまま顔に出ていたらしい・・・。俺より大分年下だからと言って油断した。
だからといってこの顔を止めるつもりもさらさらないが。
俺は胡散臭そうに緑髪の少年をジロジロ見ていると緑髪の少年は唐突に言ってきた。
「そんなことより昨日僕が注意した所ちゃんと直したんだろうな?」
「あー、何と言うか・・・。まずお前と話した記憶が無いんだが・・・。ちなみに昨日の俺の記憶は夕方の六時ごろから全く存在しないから!」
俺が舌チロリと出して茶目っ気一杯に言ったのだが反抗期真っ盛りのクソガキには体の芯まで凍るような冷たい目線が脊髄まで貫いたところで、俺は元のテンションに戻り言った。
「んで・・・、昨日注意した所って・・・何?やっぱり全然覚えてないんだが・・・。」
俺が申し訳程度に後頭部をポリポリと掻くと、緑髪の少年がヤレヤレといった感じにあきれながら言った。
「兄さんと変な仮面着けた奴とやたらうるさい女が林から出て来た時に言っただろ・・・。」
「あ、あ~、うん。そうだったかな・・・?お前かどうかわかんねーけど言われた気がする。」
俺もなんだかんだ言って昨日のことを少しは思い出したのでウンウンと頷きながら緑髪の少年に言った。
「その反応じゃ全く対策もしてないんだろ?もう一度言うぞ、兄さん。あのボロ小屋はいずれ崩れる。」
崩れるってコイツ俺達の家を直接見たことないくせに偉そうなことを・・・。
「なんでそんなことがわかるんだ。お前は俺達の家を見たことないだろ?見た目は悪いが結構良い感じに家は完成したし、それに釘を使わず縄でガッチリ縛ったしちょっとやそっとじゃ崩れたりしない。それを知ってお前は崩れると言っているのか?」
俺は自分の設計で建てられた家を崩れるなどとこんな子供に言われてムキになって反論した。
すると緑髪の少年は俺の言葉とは裏腹に至って冷静に説明した。
「問題はそこじゃないんだよ、兄さん。兄さんの考えた組み立て方は素人にしては十分すぎる。僕が言っている問題っていうのは、木材の腐敗のことだ。」
腐敗はするだろうが、そんなに早く腐敗する物なのだろうか?俺はその辺の木材の扱い方について全くわからなかった。テレビでそういった番組がやっていたとしても芸能人がそこでずっと暮らす訳がない。つまり俺は、家を建てた後の長期保存方法を俺は知らないのだ。
緑髪の少年の説明に俺は自分なりの考えをまとめて再び少年に質問した。
「じゃあ、質問するがお前は俺達の家の長期保存の仕方がわかるのか?」
少年は俺の質問に自慢そうにしながら答えた。
「知ってるに決まっているだろう。だいたい知っているから兄さんにそのことを説明出来たんじゃないか?」
確かに・・・。
俺は緑髪の少年の言葉に納得して続けて緑髪の少年に質問を続けた。
「じゃあ、そのやり方を教えてくれないか?あの家が無くなると俺達はかなり困るんだ。」
家が崩れてしまうのはさすがに洒落にならないので俺は緑髪の少年に本気で真面目に頼んだ。すると少年は俺のその言葉を待っていたかのように落ち着いて言ってきた。
「僕のそのつもりでお兄さんに声を掛けたんだ。それに、教えてあげる、と言うか僕がそのまま兄さんの家を補修してやるよ。」
「マジか!?お前実は良い奴だな!」
俺は少年のまだ誰にも毒されていない様な無垢の優しさが素直に嬉しかったし、そこまでしてくれることに俺は驚いた。
「実はって何だよ・・・。まぁ、いい。ただし兄さん、その代わりと言っては何だけど、僕の頼みを聞いて欲しいんだけど・・・。」
「あぁ、別に俺に出来事なら何だってやってやるよ。お前は俺達の家を補修してくれるんだ。多少、面倒臭いことでも何とかしてやるよ。」
俺がそう言うと緑髪の少年は安心したように息を吐き一呼吸置いて俺に言ってきた。
「今、兄さんが住んでいる林を守ってくれないか?」
「・・・どういうことだ?」
「実は兄さんが住んでいる林に僕も住んでいるんだ。なんて言うか・・・、やっぱり、自分の住んでいる所を荒らされるのは嫌じゃない?だから、林に危害を加えようとしている輩がいたら兄さんが追い払って欲しいんだ。もちろん、僕も追い払う手伝いはするからさ!」
緑髪の少年はそう俺に説明してきた。説明はしてくれたが俺は今の説明に違和感を感じ緑髪の少年に違和感の正体を質問した。
「なぁ、別に追い払うのはいいがどうして俺なんだ?林に住んでるなら林に一緒に住んでる家族が追い払ってくれるだろ?」
「いやいや、それは無理だ。僕は一人暮らしだから。家族はいるけどずいぶん遠い所に住んでる。」
俺は緑髪の少年の話を聞いて驚きを隠せなかった。こんな子供を一人暮らしさせて親は遠くに住んでいるなど常識的にあり得ないと思った。
・・・が、それぞれ家庭の事情があるのだろう。他人のましてや別世界の人間がとやかく口を挟むのも変なので黙っていることにした。
俺の反応を見て緑髪の少年は不思議そうな顔をこちらに向けていたが、俺がすぐに真顔に戻ったのでさほど気にした様子は無かった。
「じゃあ、早速行くか、兄さん。」
そう言うと緑髪の少年はずんずん歩みを進めて行った。
俺は慌てて追いかけ今更ながら緑髪の少年に質問した。
「そういや、お前の名前聞いてないんだが名前なんて言うんだ?」
「僕の名前はタイターニア。僕の名前は結構有名なんだけど、兄さんは聞いたことあるか?」
「知らんし、聞いたこともない。」
「へぇ、ぼくの名前を知らない人が居るとは・・・。結構変わってるな~、兄さんは。」
別に俺は変わった人間じゃない。異世界に来て三日目の俺にこの世界の有名を知っているかと聞かれても知っていると答える方がおかしいってもんだ。
「変わってて悪かったな。一応俺の名前も言っとくぞ。俺の名前は岡本修だ。」
「オカモトオサム?変わった名前だな。どこで区切ればいいんだ?」
「あ、あぁ~、オサムでいいよ。そう呼んでくれ、タニア。」
「タニア?それは、僕のことか?変な略し方をしないでくれよ。」
そんなことを言われても、タイターニアとか長いし日本人の俺からしたら発音しづらい。
俺はそう思いこれからタイターニアのことをタニアと呼ぶことを勝手に決めた。
タニアは本当に俺達の家がわかっているらしく迷うことなく真っ直ぐ林の中を進んでいった。
「ところでタニア、具体的にどうやって木材の腐敗を防ぐんだ?言っておくが俺達は金の掛かることは無理だからな。」
「そのことなら心配無い、兄さん。」
タニアはそう言うと肩に掛けていた古臭い鞄をポンポンと叩いて言った。
「この鞄の中に腐敗を防ぐための道具があるから大丈夫だ。」
「それなら良いんだけど・・・。」
そんな説明を受けている間に家の真下までやってきた俺達は、とりあえず、補修を始める前にまだ上で寝ているであろうバルクとエレアを起こすことにした。
「ちょっと待っててくれ、今上で寝ている俺の仲間を起こすから。」
俺はタニアにそう言ってバルクが造った縄で造られたはしごを登っていった。その様子を見たタニアは関心したように言った。
「上手いもんだな~。これ造ったの兄さんか?」
「いや、これ造ったのは俺じゃなくて上で寝てる俺の仲間のバルクって奴だよ。アイツ全然力無くて木材運ぶのとか役に立たないからこれ造らせたんだ。」
俺はバルクの造ったはしごを登りながらタニアに説明した。
家の中に入って見たが、まだコイツらは呑気に寝ている。
「おい、バルク、エレアいつまで寝てるんだよ。家直してくれる奴が来てくれたから二人ともとっとと起きろ。」
まだ寝息を立てている二人の襟首をグラグラ揺らして起こした。
「ん~?なんだ、オサムか。家がなんだって?家ならもうあるではないか・・・。」
寝ぼけているバルクはとりあえず起きたから良いとして結局いつもの如く起きないエレアを担いで木の上から降りた。
「待たせたなタニア、この寝ぼけている仮面と俺の背中で寝ている奴が俺の仲間だ。」
「あ、あぁ・・・。よ、よろしく。」
バルクとエレアのだらしない姿を見てタニアは軽く引いていたが俺はそんなことはいちいち気にしてはいられないのでタニアに続けて言った。
「コイツら降ろしてきたし早速はじめようぜ。」
「そうだな、始めよう兄さん。」
タニアはそう言うと肩に掛けていたバックを開き中をしばらく漁ると、バックの大きさからは到底入りそうに無いフラスコのような瓶を出した。フラスコの中には補強に使うのか何やら謎の液体が入っている。
これもマジックとかスキルの一種か・・・。
俺は物理法則を完全無視したリアル四次元ポケットに驚きと感心でフラスコとバックを交互にまじまじと見つめているとタニアが俺の目の前に謎の液体が入ったフラスコを付き出してきた。
「そんなジロジロ見てないで、兄さんも手伝うに決まってるでしょ?」
「まぁ、当然だな。俺達の家を補強して貰うんだし。」
俺はそう言ってタニアからフラスコを受け取り、俺とタニアは家の補修を始めた。
ちなみにバルクとエレアは役に立ちそうに無いのでその辺の草むらに転がしといた。




