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一夜の夢

作者: 塚宮 はつよ

俺は立っていた。


どこに立っているのかは分からない。

しかし立っている事は確実だと感じた。

裸足の足裏に地面の冷たさが染み込む。


あれ?俺……確か……ベッドに入ったはずだよな……?

じゃあ……これは夢?

そうか!夢なのか!

でも……そうだとしたら、なぜ空気の冷たさを感じる?

頬を撫でる風が冷たい。

自分の体を恐る恐る見下ろす。


ベッドに入った時の格好……つまり学校帰りのシャツとズボンのままだ。

ネクタイも緩めてあるがきちんと付いている。


ちょっと待て……頭を整理しよう。


俺は高校から一人で暮らしているアパートに帰ってきた。

そしてそのままハンガーに制服の上着をかけた。

……そして?……そして……そうだ……体がだるいような気がして夕飯を後回しにしてそのままベッドに倒れこんだんだ。


後はもう意識がブラックアウトしただけだ。


辺りを見渡す。


最初はただ真っ黒に感じていた景色が、闇になれたのか目が周りにあるものを少しずつ形作っていく。


自分が立っていたのはどうやら草むらの中のようだった。

周りに木もある。

もしもこれが現実だと言うのならば場所を特定しなければならないと感じた。

そしてサッサと家に帰るんだ。


後から思えばこの時の俺はまともな判断ができていない状況だったのだろう。


木に特徴がないか近寄って見てみる。

木の幹は白かった。


確か……白樺という木じゃなかったか?

よくは知らないが……山の標高が高いところに生えていると聞いたことがある。


じゃあ此処は山の中の、しかもそれなりに高い場所だというのか!?

ありえない!なんでこんな所に俺が!


フラリと体がふらつき咄嗟に木に手を伸ばす。



……触れた。

思いっきり木の幹をベタベタ触るが間違いない。

手には木の幹の感触がしっかりとある。

……これで夢であるという線はあっけなく消えた。


どうしよう……どうすればいい!?


頭の中がパニックになりかける。


だめだ今此処で錯乱してもしょうがない落ち着け俺!

深呼吸だ深呼吸!


スゥーハァースゥーハァー


よしとりあえず登山家たちが使うような道に出ることができればなんとか下山できるだろう。


俺はそのまま闇雲にしかし裸足の自分の足を傷付けないようにゆっくりと前進した。

……いや正しくは、前進しようとした。

前に踏み出した足はどこも踏む事はなくスカッと暗闇に消えた。

崖だ……と認識した時にはもう遅かった。

足とともに体も暗闇の底に体が傾いていった。


この、わけのわからない状況で俺はこの17年間の生を閉じるのか……


諦めと絶望とともに目を閉じようとした……が、鋭い痛覚と右腕が引っ張られる感覚に目がカッ!開くと同時に口から叫び声が漏れた。


「いっ……!てぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!!!!!!」


そんな叫び声は山びことしてエコーを繰り返しながら自分に返ってきた。




落ちかけた俺を助けてくれたのはスーツ姿の爽やかなイケメンさんだった。

……お酒臭いのは除くと……だ。


お酒臭いイケメンさんは非常にニコニコとしながら俺に絡んできた。


「おうおうおう!!こーんな所にわけーもんが何やってんだぁ?酒ならあっちにたんまりあるぜぇー?」


どうやらこのイケメンさん泥酔状態のようだ。

しかも見た目には分からないがかなりの力持ちのようだ。

掴んだ腕をそのまま引きずるよに引っ張っていこうとする。

しかしその腕に激痛が走った。


「いっ!?」


思わず声を出すとイケメンさんが振り返った。


「なんだぁー?肩外れちまったのかぁ?よえぇーなぁー!しょうがねぇ!!この俺が直してやろう!」


そう言うと掴んでいた手とは逆の手で俺の方にそっと触れた。


「そぉれっと!」


イケメンさんがそう言うと同時に肩の中で火事でもあったかのような痛みが水をかけられたかのようにスゥッと引いていった。

微かにガコッと何かがはまるような感覚がした。

しかし痛みはなかった。


「うでぇ回してみ?」


イケメンさんに促され恐る恐る腕を回す。

……全然痛くない!

感動してグルグル腕を回してイケメンさんを見る。


「有難うございます!」


「へへっ!いいって事よ!それより早く宴に戻ろうぜ!」


えっ?宴?何それ?

そう聞く間もなくまた腕を掴まれズンズンと大股でイケメンさんは歩いていく。

腕を掴まれた俺は引きずられるようについて行くしかなかった。



そうして引きずられて行くうちに微かに明かりが見えたかと思ったらイケメンさんが草むらを掻き分けるとパッと明るくなった。


「うわあ!!」


そう声を上げずにはいられなかった。

開けた所でたくさんの人が酒盛りしていた。

柔らかそうな緑の芝生の上に見事な刺繍がしてある巨大な敷物が惜しげもなく敷かれている。

上を見上げると辺りを照らすようにほのかな光を宿す玉がフワフワと浮いている。

周りの木々を見ると桜の花が乱れ咲いている。

上座には酔っ払いの美丈夫が盃を振り回して叫んでいる。


「今夜は無礼講だ!!飲め!食え!踊れ!騒げ!!今夜は宴じゃあああ!!」


その叫びに周りの敷物に思い思いに座っていた美男美女たちが『おーーー!』と返す。

そんな中、隣に居たイケメンさんが一歩踏み出し大声を上げた。


「おおぉい!!そこに居た若えの連れてきたぞおお!!」


『うをおおおお!!』


となぜか周りの人たちは盛り上がる。

そしてイケメンさんはいそいそと靴を脱ぎこちらを向いた。


「おめえも靴脱げ!って靴履いてねえじゃねえか!!なんで履いてねえんだよ!!ひゃははははは!!!……ぶっ!ははっはははは!!足をそこらへんで拭って付いて来い!!」


「は、はいっ!」


とにかくわけがわからなかった。

今の季節は秋だ。

紅葉が始まる時期だ。

なのになぜ桜が咲いている?

なぜ空中に光の玉が浮いている?

なぜ芝生がこんなにも青々としている?

……そしてなぜあんな山の中を歩いていたのに、あのイケメンさんの後を歩くと剥き出しだった地面が柔らかな芝生に覆われて足に傷一つつかなかったんだ?


俺は酒精にやられたのかもしれない。

それともただの幻か?


そんな思いが心の片隅にボンヤリと出てくるが、すぐにそんなのは場の美しさと雰囲気に埋もれていった。


イケメンさんについて行くとかなりたくさんの人たちに声をかけられた。


「おいおい!お前こいつ人間じゃねえか!いいのかよー?連れてきちゃって?」


「いいじゃない!今日は無礼講よ!人間がいても関係ないわ!みんなで楽しまなくちゃ!!」


「そーだそーだ!!みんなで騒げりゃいいんだよ!!」


「僕ちゃんお姉さんと飲まない?ついであげるわよぉ〜?」


「おめえら!俺の拾いもんを持っていこうとするんじゃねえ!!こいつは俺と一緒に飲むんだよ!!」


「ハハハハハッ!わあったよ!あっち行って二人で飲み比べでもしてな!!」


一人がそう言って上座の近くの席を指差した。

そこには二つのお膳が置いてあり一つはもう食べらえていたが、もう一つはまだ真新しく用意されたものらしくお米の湯気が見えていた。


するとイケメンさんは俺をそっちの方向に向かって引っ張っていき自分はもう食べられているお膳へ、俺をまだ真新しいお膳へと座らせた。


「そりゃあ!」


そう掛け声を発してイケメンさんは腰を下ろした。

威勢のいい掛け声だなあと思いながらそれを見つめていると、イケメンさんが盃を差し出してきた。

未成年だからと断ろうとするがイケメンさんは「だいじょーぶ!人間の酒とは違ってこれは“良い酒”だから」とズイズイ進めてきた。

仕方なく受け取ると酒を注いできた。


「あ!有難うございます!……あ、お注ぎします。」


注いでくれた代わりに自分もイケメンさんの盃にお酒を注ぐ。


「おう!気が効くな!……そんじゃあ乾杯ぃー!!」


カンッと盃同士が良い音音を立てた後、イケメンさんはそのままグイッと一気に煽る。

俺も恐る恐るそれを真似して一気に盃を煽った。


「!」


スルリと喉を通った酒は筆舌にしがたいほどに美味かった。

口に含むと甘い香りが広がり後味には桜のような匂いが口の中に仄かに香る。

どこにも引っかからずに喉元を通り過ぎた。


酒ってこんなにうまいものなんだ!


感動しているとその様子を見ていたイケメンさんは、ハハハッ!と笑って酒を注いでくれた。

有難うございます!と言うと俺にも注げとお猪口を笑って差し出す。

そしてイケメンさんにお酒を注いだ。


そして二人で一緒に盃を煽った。


数度目かの盃にお酒を注ぎ少し休憩をする。

隣のイケメンさんは注いだお酒を一気に煽っている。


ジッと盃の水面を見つめていると桜の花がふわりふわりと一輪静かに入ってきた。

水面が波打つ。

自分の像が歪んだ。

歪んだ底に見覚えのある影が揺らめいた。


あぁ自分は酔っているのかと自覚してふふっと笑ってしまう。


その笑いにイケメンさんは気づいて俺に顔を向けて尋ねた。


「何が見えたんだー?」


「いえ……俺……昔家族がいたんですよ。父と母と妹がいて……四人家族だったんですよね。父は頑固で偏屈な親父で、母は厳しかったですけど苦しいときとか支えて欲しい時は本当にしっかり支えてくれる良い人でした。妹は……二つ下で生意気で腐女子でしたけど……それでも中々良い妹だったんですよ。」


「そうかぁ……それで?」


イケメンさんは目を細め優しく先を促した。


「それでですね……父さんは会社で働いた後は母さんにビールを出してもらってグビグビ飲んで一息つくんです。そしたら母さんが出来立てのご飯をよそって二階にいる妹……桜っていうんですけど……桜を呼んで、よそった皿をテーブルまで運ばせるんですよ。桜はブサクサ言いながらも運んで行って居間でテレビを見ている俺を呼ぶんです。ご飯できたよって。その後照れながらもお兄ちゃんって付け加えるんですよ。それがなんでか無性に嬉しかったんですよ。」


文脈の無いようなことをつらつらと言っているのは分かる。

だが、なぜかこのイケメンさんに俺は思い出話を無性に聞いて欲しくなってしまったのだ。

一息つくために盃を傾ける。

桜の花が盃の底にへばりついた。

そこへ、イケメンさんが新しく酒を継ぎ足すと桜の花は酒の底へととどまった。


ペコリと頭を下げると


「いいってこったあ」


とニコニコ笑って俺にお猪口を差し出した。

俺はイケメンさんの盃になみなみと酒を注いだ。


「そんないつもの日常の中、ある日父さんが温泉宿の招待券を当てたんですよ。でも定員は三人までで父さんと母さんは決定だったんですけど……最後の一人が俺か桜のどっちかだったんです。」


やばい……かなり酔ってきたのかな……?

目の前が揺らいで見える……。


「結局ジャンケンで勝ったのは桜だったんですよ……。……クソッ!……ああ……すみません……大丈夫です。その後俺は不貞腐れて大人気なく桜と口を聞かなかったんですよ……。本当になんであんな事したんだか……。それでも桜は俺に話しかけてくれてたんですけどね……。二日して出発の日になったんですけど、桜が部屋に閉じこもってた俺にあっちでお土産買ってくるからそれまでには機嫌直してねって言って三人で行っちまったんですよ。

俺は、三人に“いってらっしゃい”も言わなかった……っ!……その代わり、もう帰ってくんなって言っちゃったんですよ……俺……。……そのまま三人は帰ってくることはありませんでした。」


目を閉じて酒を喉に流す。

それと同時に目の端から頬へと何かが流れていくのが分かった。


プハッ!


と息を漏らすと

重くなった口を無理やり笑みの形にして開ける。


「その後俺は父方の祖父母に引き取られたんですが……祖父母も叔父も叔母も俺を腫れ物みたいに扱うんですよ。俺はもう耐えきれなくなって……独り暮らしを始めたんですよ。受験する高校も知り合いのいない所にして……一から始めようとしたんです……。でもどうしても家に帰ると母さんの声が“おかえり”って言ってるような気がして……漫画読んでたりすると父さんの声が“新聞も読め”って……っ……言ってるような気がして……っ……っ……」


ついに口に貼り付けていた笑みが消え去った。

喉から嗚咽が漏れる。

堪えきれない悲しみが涙となって零れ落ちた。


イケメンさんは隣で静かに酒を飲んでいる。

そんなイケメンさんは空いてる手にお猪口を持って、俺の微かに震えている手の中にある盃に注いだ。


それがなんだか泣いてもいいと言っているように見えて……俺は嗚咽を漏らしながら酒を口に流し込んだ。

そして続きを促す目をしたイケメンさんに促され涙を拭きながら口を開いた。


「……っ!……そ……それで……アニメや桜を見るたび妹を……桜を思い出すんです。もう寝ても覚めても……自分が最後に言った言葉が頭から離れなくて……ずっとずっと……もう……苦しくて……。分かってるんです。別に俺がああ言ったから父さんたちは戻ってこなかったわけじゃ無いってことは。……これは神が決めた事なんだって……そんな事を祖父母に言われました。……でも……どうしても納得できなくて……っ!桜じゃなくて俺が勝っていれば……父さんがあんな物なんて当てる事がなければ……ってずっと思ってしまうんです……っ!」


ずっと側で俺の話を静かに聞いていたイケメンさんは、盃に残っていた酒を一息で飲み込むと俺を強い光を宿した目で見つめた。


「お前はもう一度自分の家族と会う事を願うか?」


全く酔っ払っていない声で真剣に尋ねられる。

涙を拭ってイケメンさんを見た俺はその強い眼光に息を呑んだ。


「……は……い……会いたいです。会って謝りたい。」


揺れる視界の中イケメンさんの目を見て俺は自分の最大の願いを言った。


「いいだろう。その願い俺が叶えてやる。……しかし。」


「しかし?」


「お前はそれなりに代償を払わなければなければならない。既に安息の地にいる魂をこの世に呼び戻すのは……至難の技だ。その為に俺の他に二人協力してもらわなければならない。それは俺が頼むがその労力の代償もお前に払ってもらおう。それでもいいのか?」


俺は家族に会えるという事を聞かされて他はどうでもよくなっていた。

どんな代償でも俺は払う。

もう一度俺の家族に会えるなら……!


そう思ってすぐさま頷いた。


「よし分かった!おい!ディデルナ!ワイス!」


イケメンさんは遠くにいた美女と美男を呼び寄せると何かを耳打ちをした。


「……本当にするつもりか?」


「ああ!もちろんだ!俺が冗談なんて言った事あるか?」


「……ない……わね……。はぁー……。しょうがないわね。いいわよ。」


「どうせ反対しても強行するつもりだろう。……わかった協力する。」


「お前ら大好きだわー!」


そう叫んでイケメンさんは二人の美男美女に抱きついた。

二人は慣れた仕草で受け止めて……投げ捨てる。

見事な連携だ。ドスンとイケメンさんは地面に追突する。


「いてえなー。ま、そういうこった!若いの!お前家族と会えるぞー。」


軽く言ったイケメンさんの言葉を俺はなぜかすんなりと信じてしまった。

そして思わず「有難うございます!」と本気でお礼を言ってしまっていた。


周りはさっきと変わらず騒がしい。

イケメンさんはサッと周りを見渡すと「此処じゃあ落ち着いて家族と話せねえだろ?」と言ってディデルナとワイスと呼ばれた美男美女と俺を連れて宴から少し離れた場所へと向かう。


宴のワイワイガヤガヤした空気が遠ざかり微かな光が漏れる所へと着いた。

イケメンさんが振り向いて俺に言った。


「此処でいいだろ。じゃあ始めるか。」


そう言ってイケメンさんと他二人で俺を囲むと。

俺を座らせた。


「じゃあお前の目の前に家族が出てくるからな!出てきたら俺らは退散する。そしたら存分に話せ。宴が終わる頃になったらまた来るからな。それがタイムリミットだ。いいな?」


イケメンさんが俺に念押しをして俺が頷くのを見ると目を閉じさせた。


そして間もなく、目を開けろと言われた。


目を開けるとそこには……懐かしい顔が目の前にあった。


「と……っ!」


父さん!母さん!桜!と叫びたかったが溢れ出した涙と嗚咽がそれを邪魔した。


目の前に確かに三人が生前の姿のまま佇んでいた。


父さんは不機嫌そうに、母さんはニコニコと嬉しそうに、妹は照れたような顔をして。

三人に手を伸ばすが手は三人を通り過ぎるだけだった。


「残念だけど私達はもうこの世にいないから触れないわ。」


母さんが残念そうにそう言う。


「相変わらず、バカだねえー……お兄ちゃんは!幽霊って言ったら触れないのが定番じゃん!」


バカにしたように桜が言う。


「……ふん」


父さんが照れくさそうに目をそらして鼻を鳴らす。


「父さん!母さん!桜!ごめん!本当にごめん!!俺が……っ!あんな事言っちゃったから……っ!」


涙を流しながら言うと桜が笑って言った。


「何言ってんの!このバカ兄貴は!あんな言葉一つで私達が死ぬわけないじゃん!あれは本当に事故だったんだよ。土砂崩れなんてバカ兄貴の言葉一つで起こるわけないでしょ!」


「……そもそも俺があんなの当てた俺が悪かったんだ……」


「もうっお父さんったら!私達はもう許したんですよ!もうクヨクヨするのはやめて下さい!」


母さんが父さんをバシバシ叩きながら言うと桜も一緒になって父さんの背中を叩き出した。


「わっ……わかったから!もう止めろ!!」


「はいはい」


「父さんそんなに怒鳴らなくてもいいじゃん!」


そして今度は桜がこっちを向いて釘をさすように言う。


「……お兄ちゃんもあのジャンケンを俺が勝てば!なんて思ってないでしょうね?」


思わず反論する。


「でもっ!あれは本当に!」


「だーかーらー!もうっ!そんな事言うんだったら……お兄ちゃんは自分と同じ苦しみを全部私に背負わせたかったの?!」


「違うっ!!」


大声で否定する。


「だったら、こんな可愛い自分の妹にそんなもの背負わせなくてよかったって思わなくっちゃ!そうでしょ?」


堂々と傲慢に言い放つ桜に思わず笑みが零れる。


「お前……自分の事可愛いとか思ってんの?」


「なっ!?いっ……今のは!!バカ兄貴を笑わそうと……っ!」


自分が結構恥ずかしい事言おうとしている事を自覚した桜は不自然に口を閉じた。

その動きがすごく懐かしくて思いっきり笑ってしまった。


和んだ空気に母さんが口を開いた。


「ねえ久しぶりに会ったんだから、暗い話じゃなくて貴方の今日までの面白い話を聞かせてよ。」


「……ああ……そうだね。」




そして、俺は宴がの時間が終わりに近づくまで家族とこれまでを話し続けた。


そしてその時が来た。

後ろから草むらを掻き分ける音がして振り向くとイケメンさんがこっちに向かってきていた。

俺の後ろにイケメンさんは立つと「もう時間だ」と短く言った。


「……別れを言ってもいいですか?」


「もちろんだよ」


そして俺は俺の家族に向き合った。

一番最初に口を開いたのは桜だった。


「お兄ちゃん私の荷物の中に……その……見られちゃまずいものがあるから……それを……えと燃やして!!お願い!!それと大好きだよ!お兄ちゃん!」


「ああ、分かった。あれ今でも俺の押し入れに入ってるんだよな……。処分に困っちまって……。」


「もう!頼んだよ!」


「はいはい。……それと……俺も大好きだぞ!お前は俺の自慢の妹だ!」


ちょと照れながら桜に普通だったら言えない事を言う。

それに桜は満面の笑みで答えてくれた。


今度は母さんだ。


「いい?体調が悪くなったらすぐに誰かに頼るのよ。我慢してもっと悪くなったらダメなんだから!後ね家にあったアルバム!大事に取っておくのよ!あなたと桜の成長記録なんだから!ちゃんと自分のアルバムの続き入れていきなさいよ……っ!……それと、それと!自分に子供ができたらその子の記録もっ……よ?いいわね?……っ……それとちゃんと、いい娘捕まえなさいよ!……母さんは!ずっとずっと……!あなたのことが大好きだから!忘れないでよね……っ!!」


途中から泣き始めた母さんと一緒に俺の視界も揺らめき始める。

泣崩れそうな母さんの肩を父さんが抱きしめた。


そうすると始終あまり口を開かなかった父さんが俺を真っ直ぐ見て口を開いた。


「お前は俺の……俺たちの誇りだ。今まで一人でよく頑張った。……今まで言った事はなかったが……俺たちの元に生まれてくれて……ありがとう。……愛してる。」


そう言った父さんの目には今まで見たことがない光が宿っていて……俺の目からは溜まっていく涙が一粒一粒とビー玉のように転げ落ちていった。


俺は震える唇をこじ開けてずっと言えなかった事を言うために息を吸う。


「……俺……本当に父さんと母さんと桜の事を愛してる。だから前に言えなかったけど、今日こそ言うよ。


父さん、母さん、桜……いってらっしゃい。」


母さんは涙をぬぐい笑って手を振りながら、父さんは照れて目を逸らしながら手を上げて、桜は満面の笑顔を浮かべて言った。


『いってきます!』


「バカ兄貴—!先に行って待ってるからねー!!」


ブンブン手を振る桜に手を振り返す。


後ろでイケメンさんが手を一度振ったのが目の片隅に写った。


そして俺の家族は跡形もなくいなくなっていた。


一足先に待ってろよ。

俺も人生、生き抜いてそれからそっちに行ってやるから!

……そたらまた、俺の思い出話でも聞かせてあげるよ。


ずっと流れていた涙はいつの間にか収まっていた。

最後に流れていく涙を見送った後、グイッと制服の袖で目元を拭った。


家族がいた場所を感慨深く見つめているとイケメンさんが俺の肩をポンッと叩いた。


「お前随分とスッキリした顔してんな。いい話、出来たのか?」


「えぇ。貴方方のお陰です。本当にありがとうございました。」


心からのお礼とともに頭を深々と下げた。

イケメンさんは陽気に笑いながら手を振った。


「いいってこった!お前に代償払って貰うんだしこれでおあいこだ!」


「……その……代償ですが何を差し出せばいいんでしょう?それが何でも死ぬまで払い続ける覚悟はあります。」


イケメンさんに目を合わせて真剣に問うとイケメンさんはますます笑みを深くした。


「実はその代償お前が死んでからじゃないと意味ないんだよなぁ。」


「ええ!?」


「いやいや、誤解しないでくれ。別に今死んで欲しいなんて言ってない!お前が寿命を全うしたら、お前のその魂俺にくれればいいんだ。」


「え。」


「実は俺この世界の神様じゃなくて違う世界の神様なんだよ。今日はここの世界の神様のが宴を開くっていうんで来たわけだ。……俺ね今実は密かな趣味ができてね。人間の生をいっちばん最初から最後まで……そうだね……観察…?とは違うか……えーっと……まあ見守りたいわけよ。だからお前みたいに異世界の人間が俺の世界に来たら面白いんじゃないかって思ったわけだ!ここの世界の神様とは話つけてきた。あとはお前に契約印をつけるだけだ!」


「あー……えーっと……?」


「とりあえずお前は頷いとけばいい。」


なぜか変に威圧されて思わず頷く。


「よしよし!それでいい!じゃあ折角だから俺が直した肩のところにでもつけるか!」


そうして俺がさっき外した肩の方へと手を伸ばす。

シャツ越しにイケメンさんの手が触れたかと思った途端肩が輝きだした。


「!?」


驚いて慌てて距離をとろうと後ろへ下がろうとした途端「はい!終了!」とイケメンさんの手が離れていた。


いつの間にか肩の輝きは消えていた。


そして今度はイケメンさんは俺に向かって手を伸ばしたかと思うとニコッと笑って言った。


「じゃあ、お前が死んだらまた会おうな!言っとくけどその肩のやつ消えねえから!じゃあな!」


そして俺は地面から落ちた。

転んだのではなく地面に吸い込まれるように、落ちた。


ハッと目を覚ますと見知っている天井。

外では雀が朝の挨拶を交わし合い日の光が窓から差し込む。


……あれは夢だったのか?


そう思いながらも学校へ行く準備を進める。

気分は不思議なほどスッキリしていた。

皺くちゃになったシャツを脱ぐ。

ふと肩を見ると……そこには見知らぬ紋様があった。




数十年後



中肉中背の年老いた老人が子供や自分の孫、果ては弟子にまでに見守られながら床に着いていた。


しわがれた口から漏れる呼吸は弱々しい。


近くに控えていた医者が、縋るように見つめてくる人々に力無く首を振った。


近くにいた老人の妻が泣き崩れる。


その近くにいた息子がその肩を支えた。


そして横たわっている老人が呟くように全員に呼びかけた。


「皆……わしを笑顔で見送ってくれ。」


そこにいた全員は涙をこらえて笑顔を作る。


そして老人は最後の一息で呟いた。


「いってきます」


そうして一人の老人の人生の幕が閉じた。







一生を終えた俺の前には数十年も変わらないイケメンさんの姿があった。

俺もなぜかイケメンさんと初めて会った当時の姿になっている。


「よく来たな。さてお前には早速だがこの世界に生まれてきてもらうとしよう。俺からのプレゼントもやる。」


そう言ってイケメンさんは俺に両手を出させてそこに自分の手を重ねた。

そして手を退けるとそこには肩と同じような模様が付いていた。


そして俺はふとずっと言いたかった文句を思い出して口を開いた。


「そういえば……俺この契約印をタトゥーだと思われて満足に海やらプールに入れなかったんですよ。」


「あぁ、そうだったのか!まぁ……ドンマイだ!それにこの世界じゃあそういう事はないからな!……お前の生まれるところからすると……」


最後の方は何を言ってるか聞こえなかったが最初の方を聞いて安堵する。


「そうですか!良かったです!」


「あぁ、それとお前の記憶そのまま残すことにしたから!俺のこと忘れられたら不便だし。でも、前世の関わった人への感情は多少ぼやけさせてもらうけどな。」


「そうですか。わかりました!」


「それじゃあ、今生を楽しんで俺を楽しませろ!」


「精一杯楽しんできます!そういえばあなたのお名前はなんというんですか?」


「俺か?俺はこの世界の神アレイウルだ!お前は?」


「俺は誠です!ではアレイウルさん行ってきます!」


「行ってこい!」


そして俺は第二の人生の幕を開けた。





今回はお読みいたただき誠にありがとうございます!

どうでしたでしょうか?

拙い文章でしたがもしよければ感想を聞かせてもらえることが出来れば幸いです!

誠のその後の話は皆様のご想像にお任せしちゃいます!

もしかしたら、いつか続きを書くこと事ができる機会に恵まれるかもしれませんが…その時まで誠とはおさらばです!


もしこんな拙い文でもいいと思うところがありましたら是非私の今書いている長編の方もチラリとでも覗いてくれると本当に嬉しいです!


ではでは!またどこかでお会いしましょう!

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