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I

作者: ぐろーりあ

友人2人の作った楽曲の自己解釈小説です!


是非とも、この作品の元となった楽曲 『I』

http://hibari.nana-music.com/wp/xYJXOtELgP/と共にお楽しみください。


以下より小説本文となります。

 乾いたシーツの上に横になっている。白と機械に包まれた空間で、清潔な匂いが鼻につく。清潔な死の匂いがいつも私のそばにある。

 病室は4人部屋、一月に一人、相部屋の面子が入れ替わることがほとんど。基本的に『患者が退院したからベッドが空いた。』ということは稀で、昨日まで窓際のベッドにいた私より一つ上の18歳だった小柳さんは、今は霊安室に移ってしまった。

 私は、看護士さんにお願いをして、小柳さんが使っていた窓際のベッドに移動させてもらった。

 この窓からなら、あなたと出会ったあの桜の木が見える。あの木に、私が名前を付けた時に、あなたが私の髪を一房すくって、口付けたのを思い出して、たまらなくあなたに会いたくなる。

 

 


「夏が、ずっと来なければいいのに」

「どうかしたの?」

あなたは、お見舞いに持ってきてくれたりんごの皮をむく手を止めて、私に視線を移す。

「あの桜の木から花びらが全部落ちたら、私も、みんなの記憶から抜け落ちてしまいそうな気がする。」

 そう、体が以前より思うように動かなくなって、名前も覚えられないような色んな薬をたくさん投与して、多分持たないって気付いた時、わたしと名づけた桜の木の花びらが散っていくのが目に入った。

 きっとあの花びらが、私の灯火なんだと思った途端に、気持ちを強く持って、笑顔でいようって思ってた決意がじわりじわりと崩壊していく音が聞こえた。

「私の事忘れないで」

小柳さんのベッドを私が使うようになって、2週間が過ぎた。小さな白い箱の中に4人の人間がいれば、有る程度の関わりを持つ。しかし、彼女の名前は次第に会話から抜けて行き、今はもう誰もその単語を使わなくなってしまった。

 死んでしまうことより、ずっとあなたに忘れられる事が怖かった。この恐怖を閉じ込めておけなくて、だだをこねる子供のように泣きじゃくった。

「ずーっとそばにいるよ。」

 私の肩をぎゅっと抱き寄せるあなたの声が愛しくて、手放すのがもっと怖くて、でも、酷く安心して、もっと強く泣いた。



 今ではもう、自力では体を起こせないほど、両手首から伸びる管が増えた。やわらかく吹いただけの風に散っていく白い花びら。春がどんどん地面に落ちていく。私はゆっくりと命を落としていく。

 微かに動く指先で、ベッドの背もたれを持ち上げるスイッチを押す。重たい首を動かし、窓の外を眺める。

 あの木にもたれ掛かるように座り込んでいる男の人が見えた。でも、あの木はあなたと出会った時とは同じとは思えないほど、姿が変わっていた。

 もう桜はほとんど身につけていなかった。風が吹くと、乾いた枝だけが空にすがるように手を揺らしている。

 きっとこれが最期だ。あなたに気持ちを伝えられる最期の日になる。



 仕切りのカーテンを開いて、私の姿を捉えたあなたが瞠目するのが分かった。けれど、なんでもないようなふりをして、いつものようにベッドのそばの椅子に腰掛け、りんごをむき始める。

「今日も、桜の花が綺麗だったよ。」

「そうなんだ。私もみたいなあ」

 あなたの嘘に、私も重ねて嘘をつく。りんごがむき終わったあなたに私が一言ごめんと呟くと、あなたはああ、と思い出したように言って、きれいに皮のむかれたりんごを摩り下ろし始めた。

 一口分ずつ、小さなスプーンですくって、私の口にすりりんごを運んでくれる。最後の一口を口に入れたとき、あなたと目が合って、一秒だけ呼吸を止めた。

 そのまま10秒だけ、瞳を交わらせて、私たちをつなぐ糸が千切れてしまわないようにと唇を重ねた。

 顔を離して、私は告げる。私の一番の笑顔で。

「大丈夫、あなたは強い人」

 あなたの瞳が大きく揺らぐ

「……なんで、そんなこと言うんだよ」

 こんな時でさえ、私はあなたを抱きしめられない。

「大丈夫だよ」

「……やめてくれよ、いかないでくれ」

 少しずつ視界がぼやけて、白で満たされていた空間が暗んでいく。私はもうすぐ眠りにつく。

「おやすみ……」



 あなたが私の足元にもたれ掛かるように座り込む。

「ずっと終わらせないで」

 私は風に枝を揺らして、来年も桜を咲かせることをあなたに誓う。

読んでいただきありがとうございます


この作品を投稿した意図といたしまして


意図というよりは欲。あわよくばなのですが


私の自己解釈で楽曲の楽しみ方が増えたらいいなというのと


友人ツキが作曲と歌を担当し、sevenが作詞したこの素敵な楽曲を私の小説から新しく知る人が増えてくれたらいいなという二点がございます。


まだまだ未熟な文章ではありますが、私なりに一つの世界を読み取り、それをまた新たな世界として形にしてみました。


とても楽しい体験でした。


私個人の技量もあげていきたいと思っていますので、ご意見ご感想ご批評、誤字脱字などございましたら、教えていただけると大変ありがたいですm(_ _)m

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