聖剣の納めどころ
ネット無事につながりました。
タイトルですが、文字通りでもあり、セインが納まった場所でもあり。
なにはともあれ。二人の出会い編最終話です。
「なら、安心して旅に出られるわ」
キャルが、ラオセナルを振り仰いだ。
「え?ずっと、このお屋敷にいるのではないの?」
屋敷にも、屋敷の使用人たちにも、キャルがすっかりなじんでしまっているので、ここに留まるのだと思っていたシェリエッタは、驚いて、綺麗な指で口元を隠した。
「それをしてしまえば、ラオセナルに迷惑がかかるからね」
「大賢者様・・・」
キャロットの隣に立つセインに、シェリエッタは頭を下げて礼をとった。その行動を、セインはため息をついて見やった。
「それ、止めてって言ったのに」
「あ、すみません、でも・・・」
たしかに、今は役場のスキャンダルに注目が集まって、聖剣が消えたことは知られていないが、このままでは大きな騒ぎになるのは時間の問題だろう。聖剣の正体がバレようとバレなかろうと、セインがオズワルド家に居ることは、あまり賢くないことのように思われた。
「今は扉を付けて、中に入れないように閉めてありますからな。ま、聖剣の偽物を作って、あの岩にくっつけてありますから、しばらくは大丈夫でしょうな」
ラオセナルが、にっこりと笑った。
「・・・いつの間にそんなことをしていたの」
「王とセイン様が、当家においでになった日の翌日ですかな」
それは、あの聖堂に、近衛兵が押し寄せた翌日ではないか。
「手際がいいね」
セインが行儀悪く口笛を吹いて感心した。
「伊達に14の頃から当主はしておりませんからの」
ウィンクする老紳士のその表情は、国王のあの子供っぽい笑顔に似ていた。
「・・・やっぱり師弟関係ってことか。こわいな・・・」
「何かおっしゃいましたかな?」
「いいや?なんでもないよ?」
ポツリと呟いたつもりが、ラオセナルの耳にはしっかり聞こえていたらしい。目を思いっきり逸らしてセインはごまかした。
「じゃあ、旅立つ前に、是非お店に寄って行ってね?」
シェリエッタがキャルの小さな手を、動かせる左手でしっかりと握った。
「いいの?」
「ええ。もちろん!オムレツをご馳走するわ!」
「本当?やった!」
二人はくすくす笑い合う。
「オムレツかー。そういや、お腹がすいたな」
「昼食の準備は整ってございますよ」
言いながら、腹を押さえるセインに、アルフォードが笑って答える。
「そういえば」
キャルが、唐突に思いついたのかセインをじっと見つめた。
「な、何?」
「セインロズドはどこへ行ったの?」
キャルの疑問に、一同がハッとしたようにざわめいた。
「そういえば・・・」
あの騒動の後、屋敷に着いた時には、セインは既に剣を手にしていなかった。
あの岩には、現在、レプリカが刺さっているだけで、本物の姿はどこにも無い。しかし、セインが持ち歩いている姿も見ない。
「え?ここにあるよ?」
何を当たり前のことを聞くのか、といった風に、セインは自分の胸を叩いた。
「・・・・は?」
「だから、ここ」
セインはもう一度、自分の胸を示す。
「・・・・・・・・・?」
セインの胸が何だというのか。
まさか服の下に隠しているというわけでもあるまい。
「だあかあらあ・・・」
まだるっこしくなったのだろう。セインは手の平を合わせる形で、手と手の間に空間を作った。
すると。
ずぶ ずぶり
その、何もないはずの空間に、どちらの手の平から発生したものか。澄んだ透明度の高い、あのエナジストが姿を現し、続いて持ち手の彫刻が現れ・・・。
セインのものであろう、血と体液とを滴らせ、セインの手の平から剣が生まれ出でて来る。
「ひっ・・・」
「あ!シェリー!」
小さく悲鳴を上げて、気を失って倒れこむシェリエッタを、キャルが受け止めようとして下敷きになる。
「・・・・あれ?」
刀身まで完全に抜き出したセインロズドを手に、セインが頭をかいた。
「気絶させるつもりじゃなかったんだけどなあ」
「セイン様、女性にはちょっと度が過ぎるかと・・・」
ラオセナルの顔色までが青ざめている。
「何やってんのよ!そんな気持ち悪いもの見せられたら倒れて当然でしょ!?」
「えー?キャルは平気じゃないか」
「うっさい!そんなもの、早くしまっちゃいなさい!」
怒鳴られて、セインは渋々元に戻す。
しかし、戻し方がまた最悪だ。
ずぶずぶずぶ
なんと、今度は自分の手の平に剣を刺してゆく。
セインの手の平からは血があふれ出す。
痛くはないのか、本人は平然としたものだが。
「はうううっ」
「あ!シェリー!」
気が付いたとたんに、今度はその光景を見てしまって、シェリエッタはまた気を失ってしまった。
「もう!セイン!」
「な、なんだよう」
セインロズドはアメジストの部分だけ残して、セインの手の平から生えている格好で、やっぱり見て気持ちのいいものじゃない。
すっかり自分の中に収めると、滴った血を、セインはぺろりと舐めた。
「あんた、それじゃあバケモノ呼ばわりされてもおかしくないわよ」
シェりエッタの下から、ラオセナルとアルフォードに助け起こされて、キャルが半眼で睨んだ。
「こういうものなんだからしょうがないじゃないか」
セインが反論する。
たしかに、これで聖剣に対の鞘が無かったことにも、聖剣そのものを今まで見かけなかったことにも説明が付く。
が、しかし。
予告もなくグロテスクな光景を見せられては、たまったものではない。
しかも、キャルがセインの両手をひったくるように引っぱって、自分の目線まで降ろさせて見てみれば、あれだけの血を流しておきながら、どこにも傷口らしいものは見当たらない。
「僕はセインロズドの鞘だから」
爽やかに、にっこりと微笑まれた。
セインがセインロズドの管理人、と言っていた訳も、抜き身の剣を収め、諌める役割があるのだと言われれば、そうなのかと納得はできるけれども。
「あんた、シェリエッタが目を覚ますまでご飯抜き」
「えええ?!ひどいよキャル!」
そんな身体でもしっかり腹が減る、こいつの体内構造はいったいどうなっているのか。手の平が亜空間にでも繋がっていやしないかと、ちょっと不安に思う。
「明日のお昼には町を出るわよ」
そう言って、セインの背中を勢い良く叩き、キャルは屋敷の玄関目指して走ってゆく。
「え?」
気持ち悪がっていたのだから、嫌われたのかと思ったのに。
「何よ?一緒に行かないって言うならぶっ放すよ?」
途中で振り返って、スカートの裾に手を突っ込むキャルに、セインは慌てて首を振る。
「行きます!一緒に行かせていただきます!」
バケモノ呼ばわりしておいて、何の抵抗も無く自分の背中を叩く。挙句に、約束どおり、一緒に旅に出るという。
本当に、この少女は。
「ちゃんとシェリーを運びなさいよ!」
「はいはい」
怒鳴るキャルに、セインは気を失ったシェリーを抱え、ラオセナルとアルフォードは、そんな二人のやり取りを微笑ましく見つめる。
午後には、とびきりのおいしいお茶を淹れて、屋敷中の皆で小さなお茶会を開こうと、こっそり相談する老紳士二人組だった。
キャロット・ガルム。
ふわふわの綿菓子のような金髪に、見事な碧眼の銃使いの少女。
性格はやや自己中心的だが心根は優しいらしい、まだ8歳のヘッドハンター。
彼女と二人なら、きっと忙しくて、在るのかどうかも分からない楽園を探す旅でも、絶望などしていられないに違いない。
セインは明日から始まる二人旅を楽しみに、彼女の元へと歩き出した。
FIN
本当はもうちょっと早くにUPできたんですが、38度を越える高熱を出し、これがもう、とにかく頭が猛烈に痛くてですね。医者には熱のせいで痛むんだと言われましたが、自分的には絶対頭が痛いから熱が出てるんだとしか思えないくらいでした。
終いには地震が発生したりと、ちょっと一週間ほどかなりしんどかったもので。
お届けが遅くなりました。すみません。
前作からほぼご感想を頂けていないので、もしかしたら皆さんもう飽きちゃって続きは別に読みたくないのかなあとかビクビクしつつ…。二人の出会いはこんな感じでした。
いつ出そうとか思っていたんですが、2で海賊が王様といつの間にか仲良くなってしまっていたので(本当にこの男は勝手に動いてくれます)思いのほかさっさと発表する羽目に。
感想いただければうれしいです。というか、3を書いても良いですか?