いろんな我侭
えー、今月末から来月中旬までプロバイダー変更のためネット使えなくなるので、ちょっぴりお休みします。たぶん。
で。次回で最終話です。
キリが悪くてすみません(−−;)
「どうしてもか?」
「拗ねて見せてもダメ。どうしても!」
きっぱり言い切ったセインの右腕を引っぱって、キャルが王様からセインを引き剥がした。
「そうよ!」
唐突に、キャルが叫んだ。
「まだあんたの返事、聞いてなかったわ!」
がばりと、セインにしがみ付く。
「うわー、思い出しちゃったか」
「思い出さないでどうするの!逃がさないんだからね!」
「その時点で僕の意思は二の次じゃないか」
セインは、冷や汗をかきながら、ずれた眼鏡を直す。
このまま、うまくごまかしてしまおうと思っていたのに、国王のせいで、キャルが思い出してしまった。
キャルと一緒にエルドラドを探す。
それが出来たら、どんなにか。
「答えは二つ!YESかハイか!?」
「や、既に選択権がないわけだし・・・」
「あんたの意思を聞いているのよ!」
「・・・・・」
「・・・・・」
しばらく睨み合った後、セインは自分にしがみ付くキャルの小さな手を、そっと外した。
一瞬、びくりと息を飲んだキャルに、セインは微笑んだ。
「まったく、僕のマスターになる人たちっていうのはどうしてこう、我侭な人ばかりなんだろうね?」
キャルは大きく大きく、蒼い瞳を見開かせる。
「そういうことだから、僕のことは諦めてくれる?」
キャルの頭を撫でながら、セインがガンダルフ2世を振り返った。満足気なその顔に、ガンダルフは盛大に溜め息を吐いた。
「・・・ラオセナル、お前の一族はこんな我侭なヤツを代々守ってきたのか?」
「セイン様を指差すものではございませんよ。それに、我侭は国王陛下の方が上級者かと思われますが?」
にっこりと、最上級の笑顔で言われてしまえば、国王も恩師には手が出せない。
額に手を当てて、大仰に空を仰いでしまった。
「それって・・・・」
こくりと、セインは頷いた。
「よろしく?キャロット」
ぱあっと、キャルがひまわりのような笑顔になった。
その笑顔に、セインもつられて笑った。
が。
ガン!
「あいた!」
また、足を踏まれてセインが飛び上がった。
「我侭だけは余計よ!」
「うわあ、やっぱりやめようかな」
「あら?男に二言ってモノは存在しないんじゃないの?」
「うはー、いったい誰が法律化したのそれ」
「あ、そゆこと言うんなら、コレ、返してもらうわ」
キャルが、いつの間に取り出したものやら、青い絵本を掲げてにんまり笑って見せた。
「うわわわ、それはナシ!」
二人のやり取りに、ぽかんとする国王と、ほほえましく頷くその臣下一名と、臣下の執事一名は、セインとキャルの頭上高く、東の空が白んで行くのを、まぶしく見つめたのだった。
結局、キャルとセインの二人は、シェリエッタの怪我が治るまで、ディーナに留まることになった。
シェリエッタの自業自得とはいえ、彼女に一生消えない傷を負わせてしまったのだからと、キャルが気にしていたからだ。
滞在中、オズワルド家に世話になり、セインは懐かしい屋敷の内を楽しんだ。
多少改築や修繕で、新しくなっている場所もあるとはいえ、五百年の長い歳月を保ち続けていられたのは単に、代々のオズワルド家の熱心な管理と、初代当主ローランドの堅実な屋敷の建て方だろう。
「あの時は随分と建築士に無理難問を降りかけていたけど、こうしてみると、やっぱりローランドの人柄が出てるね」
町を見渡せば、五百年以上の歴史を誇る建築物などはそうそう見当たらず、いかにこの屋敷が強固に創られたかが分かる。
屋敷内の改築されたところなどは、その時々の当主の性格が分かって、これもまた面白かった。
まあ、そのオズワルド家の屋敷よりも古い歴史を持つ建築物、いわゆる王城の持ち主である国王が、自ら毎日のように訪れては、セインを王宮仕えに誘うものだから、そのたびに接待をしなければならないオズワルド家の人々も、セイン本人も、少々辟易していた。
「あの王城の外壁、爆破してやろうかしら」
などと物騒なことを、キャルが口にするくらいだった。
しかしそれも。
「また、あの剣技を見てみたいものだ」
との国王の言葉に、
「僕はいつでもいいけど?」
とセインが答えたことで、回数が減った。王のお出かけに付き従う、近衛の希望者が減ったためだった。
国王の目の前で、国宝級の剣の達人と手合わせされられてはたまらない。一度目の当たりにしているから尚更だ。
実はキャルなら本当に爆薬を仕掛けるくらいやりそうなので、卿とセインが考じた策だったのだが。
「なんと情けない」
「あれだけ簡単に蹴散らかされては、仕方のない事でしょう。せいぜい鍛え直してやることですな」
国王とオズワルド卿の会話を聞いて、近衛たちはさらに自信を喪失したらしい。しっかりと、止めを刺すのを忘れない発言に、セインは苦笑いした。
中央役場の役人達は、といえば、王宮からの一斉検挙を受け、不正やら横領やら、税金の私物化等など、叩けば埃のように出てくるスキャンダルに湧き、あの髭面の役人はもちろん、役場長を筆頭に、知事やら町長やら、ボロボロと逮捕、解任が続出。
近々、王宮の老中指揮下の元に、選挙が行われるらしい。
「いっそのこと、全部解体しちゃえば?」
とは、やっぱりキャルの言だが、一部ではあるが、人道的な役場もあることから、建て直しを図るだけとなった。
「ま、しばらくは大人しくなるだろうし、市民もこれで、真剣に選挙に望むだろうさ」
自信があるような無いような、微妙な顔で国王がキャルにそう言った。結局のところ、一般市民を信じるという事か。
そんな日々が、半月ほど続いただろうか。
澄み渡った空に、千切れ雲がぽっかり浮いて、さらに空を青く見せていた。
「お世話になりました。治療費は必ずお返しします」
腕を白い包帯で巻いたシェリエッタが、オズワルド家の大きな門の前で、ラオセナルとアルフォードに、深々と頭を下げた。
傷の理由を、町医者には話せないので、結局オズワルド家お抱えの医者に見てもらうことになり、結果、シェリエッタはオズワルド家へ通う形となっていた。
それが、ようやく指先も動くようになり、後はリハビリだけとなったのだ。
いつものように門先まで見送りに来てくれた屋敷の主は、にこやかに微笑んだ。
「もう、大丈夫かね」
その、オズワルド卿の一言には、身体的に、心境的に。様々な意味が含まれていて、シェリエッタは顔を引き締めた。
「はい」
綺麗な、まっすぐな返事に、老紳士は満足して頷く。
「あー!」
「あれ?もう帰っちゃうの?」
大きな声と、とぼけた声に、門の奥を覗けば、広い庭に古くからあるのだろう、屋敷の玄関まで続く、低いレンガ作りの、半分崩れて蔦が這った塀の間に、ひょろりと長い影と、ふわふわした小さな影が見え隠れした。
かと思えば、小さい方は勢い良く走って来る。
「もう大丈夫なの?痛くない?」
走って来たかと思えば一気にまくし立てた。
「ええ。もう大丈夫よ。あとはリハビリだけだから、自分ひとりで出来るだろうって」
出合った時と同じ、大きな瞳を見れば、嬉しそうに輝いた。
「そう、良かった!」
満面の笑みにつられて、シェリエッタも笑った。