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HEAVEN!ヘヴン!HEAVEN!00  作者: coconeko
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勧誘っていうのはね

「国王も大変ね」

 呆れてキャルが言えば、王様は大仰に頷いてみせる。

「予なんかはまだ良い。役所を管轄している王宮の役所管理官は、まだ若いというのにすでに禿げ頭じゃ」

 民のためと、市政を敷いてみたら、そこはだらけた役人の温床と化してしまった。今では民衆を代表しているのだからと、王宮のいう事なぞ、これっぽっちも聞きはしない。

 その役人を、民衆が投票して決めているというのだから、また頭の痛い話だ。

「・・・まあ、私なんかは、その役所に世話になっている口だから、あんまり言えないけどね」

 ヘッドハンターを管理している大元は、各地域の役場である。もちろん、企業や個人で賞金を懸けている場合も多いが。

 パスの発行は役所だ。

「まあ、とにかく、扉を付けたいからと、管理官に申し立てて来てな。しかも、ラオセナルがなにやら、夜まで管理人を置いているというではないか。聞きもしないのにその管理人の情報まで寄こしおったが、それがまたあやふやでなあ・・・」

 それはそうだ。

 役人の誰か一人でも、セインに会った事のある人物はいないのだから。

 ヒゲ役人の言うところをまとめれば、キャルの話を王宮に伝えたことになる。元々人からの伝い聞きなのだから、あやふやにもなるだろう。

「ま、その役所の言うところの、聖堂の管理人の見た目だけを聞けば、我が家の居間に置いてある肖像画にそっくりだったのだよ」

 国王の家の居間。

 それはいったいどんなものだ。

 軽く突っ込みたかったが、話が中断してしまいそうで、キャルは黙っていた。

「そうしたら、夕方になってラオセナルが予の執務室に尋ねて来おってな。やっぱり、物騒だから、あのみょうちくりんな聖堂に、扉を付けろと言う」

 これはもしや、と、いうことで、国王は聖剣の存在の有無を確かめると同時に、扱いに困った役所を懲らしめる策を思いついた。

「で、役所と結託したかのように見せかけて、わざわざ近衛隊まで引っ張り出したわけですか?」

「そう。もちろん、ここに倒れている近衛隊全員が、役人連中の本性を証言してくれるに違いあるまい?」

 そのために、役所へは、国王から治安正常化のための討伐隊として、近衛隊を借り受けたから、好きに使ってよい、と、管理官に伝達までさせたのだ。

 良く考えなくても、国王がおいそれと、自分の軍を貸し出すわけもなく、あまつさえ、好きに使って良いなんて、言うはずもない。

「じゃあ、この人たちは巻き添え食ってセインに倒されたっていうの?」

「あ、安心して。みんな峯打ちだから」

「当たり前よ!」

 ガス!

「うぎゃっ」

 勢い良く踏まれた足の親指を抱えて、セインが飛び跳ねた。

 血が一滴も流れていないことから、誰一人、傷つけていないことは分かっていた。それでなくとも、セインに簡単に、人殺しが出来るとはキャルには思えない。

「まあ、国のためだ。一石二鳥で納得してくれるだろうて」

 中央を叩けば、他の地方も恐れをなして、しばらくはおとなしくなるだろう。

 国王は、積み重なった自分の精鋭部隊を、複雑そうな目で見る。

「聖剣セインロズドが、まさか実在していたとはね」

 聖剣を手に提げた、長身の青年を、感慨深げに見つめれば、むっと、睨み返されてしまった。

「眼鏡を除けば、その髪と瞳の色、携える剣までが、いつも見ている肖像画にそっくりだ」

 あやふやな情報ではあったものの、背が高くてひょろりとした青年。髪は色素が薄く、瞳の色は青みがかったグレー。

 本来なら、顔立ちや、髪型、決定的な身体情報も報告されるべきではあったが、オズワルド家からも、役所からも、あの聖堂に夜、管理人を置くなどという報告は、一切受けていないという王宮の管理官の話を聞けば、充分に怪しい。

 まさか、と思いつつ、名高い賞金稼ぎのゴールデン・ブラッディ・ローズが絡んでいるという話を、諜報部員から仕入れれば、肖像画だろうが聖剣だろうがなんだろうが、悪者退治に乗り出さない手はなかった。

 本当に、肖像画の人物とそっくりであれば、一見の価値もあるだろう。他人の空似でも。

「やだ。利用する気満々だったんだ」

 腕を組んで怒ってみたものの、そんなにセインにそっくりだというのなら、居間に飾ってあるとかいう、その肖像画を是非見てみたい。

「ラオセナルから、セインロズドは人の姿を取ることもできるなどと、御伽噺のようなことを、昔から聞かされていたが、目の前にしてもまだ夢のようだ」

「・・・その肖像画。タイトルはなんていうの?」

 セインは、物珍しいものでも見る様にはしゃぐ国王を、うるさそうに見つめた。

「そう嫌わんでもよかろう」

 ちょっと傷ついた顔をしてみせたが、セインには効き目がないらしい。

「タイトルはそのままさ。聖剣 大賢者・セインロズド。ああ、あと、なんだったか。小さくプレートにセイルーク・ロズドとも、書いてあった」

セインは盛大に溜め息をついた。

「アーシアルのやつめ」

「アーシアル?」

「王宮付きの画家だよ」

 キャルの問いかけに、額を押さえながら答えた。

「そう!まさに宮廷画家アーシアル作だ」

 ガンダルフ2世が、感銘を受けたように瞳を輝かせた。

「ほほう、アーシアルですか。それはさぞかし、さぞかし」

 ラオセナルまでが頷いている。

「あいつ、そんなに有名なの?」

「巨匠ですな」

 またまた、セインは盛大に溜め息を吐いた。

「当時、僕を携えたローランドが、街中でアーシアルとすれ違ってね。ひと目で僕を気に入ったとか言って、絵を描かせろってうるさかったんだ」

 そんなにセインは見栄えがいいようには思えないのだが。

「・・・剣の僕だよ」

「ああ」

 納得したキャルに、ちょっと傷つく。

「で、断り続けていたんだけど。どこかで観察していたんだろうね」

 ある日、王宮に出向いたときに、セインの肖像画を見つけたのだそうだ。

「許可もなくモデルにされたんだ。しかも、剣だけじゃなくてこの姿の僕まで一緒に」

 それは、ある意味光栄なことで、ある意味災難であったことだろう。

「あんた、変なのにモテるのね」

「余計なお世話です」

 ムッとしたままのセインだ。

「さて、肖像画の出自も分かったことだし、改めて、王宮へご招待したいのだが」

 仕切りなおしと、ガンダルフ2世が大きく息を吐きながら、一同を見回した。

「僕は断るよ」

 あっさりと、セインが言う。

「建国時と違って遷都もしたし、五百年前と随分環境も変わったけれど、そもそも王宮は嫌いなんだ。傲慢な奴らの相手をすることほど、疲れることはないからね」

「それは、残念」

 王宮の場所と、その中に出入りする人々は変わっても、本質的なところは変わらないということか。

 彼の持ち主だった人々は、その能力ゆえに、王宮に呼ばれることも多かったのかもしれない。その中で、セインはどれだけのものを見て来たものか。キャルには計り知れなかった。

「では、これからどうするのかね?」

「さあ?」

 あいまいに言葉を濁したセインの肩を、ガンダルフ2世が、勢い良くガッと掴んだ。

「な、なんっ?」

 驚いたセインにかまわず、満面の笑みでぐいぐいと押されるものだから、セインはだんだん仰け反って、腰が痛くなった。

「そうか!決まっていないのか!なら是非うちに来い!」

「・・・・はあ?」

 何かと思えば。

「遠くから見ておったが、暗くてもそなたの技量は見て取れた。まことに見事!大賢者が剣技までこのように見事とは思わなかった!予の元で師範となってくれぬか?!」

 きらきらと、国王の目は輝いている。なんと言うか。ワクワクしているのがやたらに伝わって来る。

「宝物を見つけた子供のようにされても、僕はさっき言ったとおり、王宮に行く気も無ければ仕える気もない!」

 押されながら、セインも必死に叫んだ。

 むう、と、ガンダルフ2世は唇を尖らせた。

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