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キミと繋がる物語  作者: 吟遊詩人ティム
序章 〜三本の縦糸は、分かたれた〜
3/11

移動薬店の朝

疾風怒濤の世界観説明パート!

末弟フェリクスのターン。

――――薬師の朝は早い。


 ここはパルティアン海有数の港湾都市、マルシェラ。

 南進してたどり着いたこの街で、エリンの両親は薬屋を営業していた。


 今は早朝の3時。フェリクスも問答無用で叩き起こされ、薬の調合を手伝わされる。

 と言ってもまだ調合など分からないフェリクスは、エリンの父親である店主の声に応じ必要な薬草を計って渡す手伝いをしている。

 幌馬車の御者台をバラして組み立てると、店のカウンターに早変わり。馬たちは宿で休ませ、半月ほどここで営業をしたら隣の港町へ行く予定なのだ。


 さて、ここで改めて魔導や魔術、魔法について解説しておく必要があるかも知れない。

 放っておいても割とどうにかなる用語説明なので、この話の本筋に戻りたい人は三、四段落ぐらい飛ばしてくれても構わない。


 魔法は、自然界や(あまね)く生き物に宿るエネルギー、魔力を行使する力である。魔法は大別して、魔導と魔術に分けられる。


 魔導は先にも述べたように、ここの人間が生まれながらに身につけている一種の能力の事である。各人の魔力の強さにもよるが、これは呪文の詠唱や手や杖による予備動作を一切無しで発動できる。言うなれば固有スキルである。


 反して魔術は、後天的に身につける技術である。魔道書を読んだり、また魔法使いに弟子入りしたりして学び、呪文や印、式、魔法道具などを使って発動する魔法だ。

 これも各人の魔力の強さによるが、ある程度誰が使っても同等の効果を期待できる。ただ、身につけることのできる魔術とその人の魔導はある程度の相関関係が認められている。



 話の筋に戻ろう。

 当然、この世界には治癒の魔導を持つ者や回復の魔術を身につける者もいる。しかし、人間族の中にはごくごく少数しかいない。

 ならば誰が癒術を使えるのか? ――――天界人である。白い髪に青い瞳、背に白亜の翼を持つ善良で純粋なる人々。神と呼ばれる存在の一柱より創り出された、人間(ヒトたち)の守護者。

 実は、ルシウスもその一人である。


「まあ僕の魔導は光の矢、バリバリ戦闘向きだからねん。だから今はこの人たちの護衛をやってるってワケさ」


 旅路の途中、幌馬車の後ろから背の翼を大いに広げてフェリクスにそう教えてくれた。

 この翼は天界人ならもれなく収納可能らしいが、ルシウス曰く「ずーっとしまってるのも疲れるんだよねー」と文字通りに羽を広げていた。


 だいたい、小さな村落には一〜三人ずつほどの天界人が『村守』として常駐しており、彼らが村の護衛や村民の病気や怪我を治す役割を担っている。なので彼ら旅薬師たちには、小村に薬剤の調達や旅の装備を整える以外で立ち寄る理由など無い。


 今フェリクスたちがいるこの大港湾都市にも、当然医者や癒術師は存在している。

 しかし、魔法という完璧な治療、しかも希少価値の高い魔導はとにかく金がかかるのが世の理だ。

 そんな中、安価で保存も出来る薬を売ってくれる旅薬師はどこの都市でも大いに歓迎される。


 そんな訳で、彼らは早朝から薬の調合に追われているのだ。


「ギンハッカを1.8!」

「はい、其処ね」

「えっとー、えっとー……1.8……はい!」


「生命草を9.5!」

「えっと、えっと……どこぉ……」

「三回目だよ? そこだね」


「大丈夫かしら、フェリクスくん……」


 営業3日目、薬草の場所をまだ把握しきれていないフェリクスは馬車の中を右往左往。外から見守っているルシウスが小棚を指してポッと発光させる魔法で手助けしても半人前のさらに半人前といったところだ。

 眠たいくせに慌てているせいで判断力が落ちているし、計量もノロい。

 それまでずっとその仕事をやっていたエリンは手持ち無沙汰に外で待っている。練度の差がある二人が立ち回るには少々馬車は狭すぎた。


 ルシウスは盛大なため息をついて、フェリクスとエリンを交代させた。

 萎れたフェリクスを待たずに、エリンはサッと馬車に飛び乗った。


「うぅ……ごめんなさいぃ……」

「いやいや、三日目で薬の場所把握しとけって方が酷でしょー!」


 はっはっはと笑うルシウス。フェリクスは依然しょんぼりしたままだ。


「でもここの薬草の並び、実は法則がちゃーんとあるんだな〜!」

「ほう、そく?」


 きょとんとするフェリクスに、ルシウスは地面に枝でガリガリと絵を描き始めた。フェリクスはその横に座った。


「ここが神経系の治癒、ここが自然治癒力を高めるやつね。んでここが身体をあっためるので、ここが解熱剤。その横が鎮痛剤で……聞いてる?」


 反応の薄いフェリクスを見るとしゃがんだままコックリコックリと船を漕いでいた。


「ん〜この話は後でいっか! 時間はた〜っぷりあるもんね〜」


 ルシウスはポイと枝を放り、フェリクスを馬車の下に置き、自身は幌の上に飛び乗ってグウと寝息を立てた。


 今は朝の5時半、早起きのパン屋のいい香りの煙が立ち上ってきた。港の方からも鐘の音や積荷を下ろす声が聞こえてくる。

 朝焼けが、『移動薬草・調薬店・アンチェロッティ』の看板に赤い光を投げかけた。

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