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1パシリ 私の世話係に任命します

 突然ですが、感情に流されて一時的に大きな決断をする事はよくない事だと思います。もちろんその中には当たりもあり、当たりがあるならハズレもある。俺の場合では一面は超大当たりで、一面は超特大級の大ハズレなのです。

 そう西沢卓巳は思っていた。

 卓巳はカッコイイと言われるより可愛い、そう比喩された方がしっくりする顔立ちで髪の色素が薄いのか少し茶色をしたブラウンヘアー。大きな眼が特徴で、それに合った長いまつ毛、そして太陽の光を浴びないのか白くスベスベした肌。全てが男性と言うよりかは女性と感じさせていた。

 卓巳は高校二年生の男子生徒だった。『だった』と言うのは、つい十分ほど前に高校を中退させられてしまったのだ。

 そして卓巳は高校を無理やり辞めさせた張本人である小堂愛華を睨む。だが、卓巳が睨んだところで恐いというよりかは、どちらかといえば可愛いと表現したほうが適切な訳で愛華は笑みを見せて卓巳を見ていた。

「それで庶民は晩ご飯なにが食べたい? ああ、やっぱり庶民にはカップラーメンとか言うやつがお似合いね。それなら至急手配させましょう」

 卓巳に聞いたはずなのに、愛華は一人で勝手に解釈して勝手に決めた。

 そんな愛華に卓巳は何も言えず、ただただ広い部屋にある一つだけ場違いな小汚い椅子に座って愛華を見ていた。

 広い部屋にはシャンデリアから綺麗に彫刻された机やタンス。全てがお金持ちと言わせているような部屋だ。もちろん愛華が卓巳に「庶民」と言っているからして、この部屋は愛華の部屋だ。

 そして卓巳は大きなため息と一緒に昨日の出来事を思い出した。


*     *


 学生である卓巳は学校に行き、そして何もイベントいうイベントもないまま学校を終えて卓巳は一人で帰途についていた。

 卓巳の家から学校まではさほど距離がなく、そのため歩いて登下校している。

 ものの五分ほど歩いたところで卓巳は家が見える位置までつく。

 だが、卓巳の家の前には見知らぬ車が一台停まっていた。一般家庭が集まる住宅街では決して似合わないリムジンが、だ。

 卓巳は不信に思いながらも、家の中に入らない訳にもいかないため玄関のドアを開けて中に入る。

 その時に不審を覚えて玄関のドアを開けなければ、違った未来だったかもしれない。だが、ドアを開けた以上中に必需的に中に入る選択肢しかない。

「ただいまぁ〜」

 そう言いながら玄関に置かれている靴を見る。玄関にあるのは父さんと母さんの靴、そして見知らぬ女性用の靴が一つ置かれていた。

 卓巳が靴を脱ぎ、自分の部屋に行こうとした時、突然居間に通じるドアが思いっきり開かれた。その突然さに卓巳はビクッと体を振るわせた。

 居間から出てきたのは卓巳の父親である浩史だった。

 浩史は何も卓巳に告げる事無く、腕を引いて居間まで連れて行く。

「ちょ、ちょっと何だよ!?」

 卓巳の反抗する声もむなしく、やはり浩史は何も言わずに居間に置かれているソファのところまで卓巳を連れてった。

 そこでようやく卓巳は向かいに座っているお客さんの存在に気づいた。

 長い髪は自然に垂らされて、大きくアーモンドに似た目、整った鼻、リップをつけているのか綺麗な色をした唇、雪のように真っ白な肌。その全てが卓巳の知るどの女性よりも美しい人が目の前にいた。

「貴方が卓巳くんかしら?」

 ニコリと優しい笑みを見せて、その人は言った。

 卓巳はその笑顔にドキッと胸が高鳴った。

「父さん、この人は?」

「こら! 質問に答えんか! すいません、卓巳はあまり行儀という言葉を知らないもので」

 そう言って浩史はペコペコと頭を下げる。ここのところは流石営業マンと言えるのだろうか、綺麗な頭の下げ方だ。

「いえ、私は別に気にはしていませんよ」

「ありがとうございます。卓巳、この方は父さんの会社の取引相手である小堂財閥の一人娘の愛華さんだ」

 そして愛華は小さく頭を下げる。卓巳も愛華に小さくお辞儀を返した。

「へ〜、そっか」

 卓巳はそう言いながらもう一度頭を下げて、座っていたソファから立ち上がる。

「どうしたんだ?」

「いや、こんなところにいても場違いじゃない。だから部屋に行こうかと」

 浩史はさっきまで愛華と話していた以上卓巳に部屋に帰られては都合が悪いため、卓巳の肩を掴んでソファに座りなおさせる。

「何だよ?」

「いいから座りなさい。今日からお前は愛華さんの世話をするのだからな」

 卓巳はギョッと浩史を見る。

「い、今なんて言った?」

「だからな、今日からお前は愛華さんの世話をするのだ。これは命令だから拒否できんぞ」

「はっ? ついに父さんも呆けてしまったか……いや〜、人間ってもろいものだな」

 卓巳は遠い目をしながら居間から見える庭を見る。

「父さんはまだ呆けてないぞ」

「百歩譲って呆けてないのは認めよう。だが、どうして俺が世話なんてしなきゃいけない?」

「父さんの会社が潰れてもいいのか? お前を今まで誰が育てたと思っている? これまでの恩を仇で返す気か?」

 この時の浩史は慌てていて、なんとしても卓巳を愛華の世話係にさせたいようだった。

「えっ? なにか? 父さんは会社の存続と俺を売り飛ばすのに会社を取ったのか?」

「人聞きの悪いことを言うな。頼むから父さん達を路頭に迷わせないでくれ」

 浩史は卓巳に頭を下げた。

 そんな父の姿を卓巳は見たくはなかった。それが如何なる理由であろうとも。

「……分かったよ。だから父さんも頭を上げてくれ」

 卓巳は渋々答えた。

「た、卓巳。父さんは嬉しいぞ」

 浩史は嬉しさのあまり卓巳に抱きついた。

 もちろん年頃の卓巳にとって父親にこんな事をされるのは嫌なものだ。だから思いっきり腕を使って剥がれさせる。

「お話がお決まりになったようなので、こちらに卓巳くんのサインを頂けるかしら?」

 机に置かれているのは一枚の紙。そこには卓巳が愛華の世話係になるのを了解した証を残すために色々と書かれている紙だ。

 卓巳はサラサラと『西沢 卓巳』と書く。

「これでいいのか?」

「ええ、これでいいですよ。それでは荷物などは必要ないので今すぐ私の邸に行きますが、異論はないですね?」

「……ああ」


*     *


 そして今に至る。

 さっきまでの愛華は猫を被っていて、愛華の邸に帰った途端に素の愛華に戻った。そんな愛華を卓巳は目を見開いて見ていたが、直にこれからの事を考えて落ち込んでいた。

「それで、愛華さんは俺をどうしたいわけ?」

 まだ愛華と会って差ほど時間は経ってはいない。だけど、卓巳は幾度となく同じ質問をした。それは返ってくる返事があいまいなせいである。

「あら? 私の事は愛華様かご主人様って言うようにさっき言わなかったかしら? 同じ部屋にいるだけでも罪深いことなのに、私の事を『さん』付けで呼ぶなんて問題外ですわ」

「……愛華様は俺をどうしたいわけ?」

「さっきから同じ質問ばかりね? 貴方はその言葉しか知らないの?」

「愛華様があいまいな返事しかしてないから……」

「ですから、私の身の回りの世話を誰かにしてほしかった。ただそれだけです。おわかりになりました?」

 卓巳にとって、こんな猫を被った人がそれだけの理由だけではないように思えて仕方がなかった。だからこそ本心を聞きたかったのだ。

「……そうだったな」

 もう愛華から本心を聞き出すことを諦めた卓巳は、大きなため息をついて足元に視線を送った。

「あら? 何か悩みでもあるの?」

「そうだな、強いて言うならば愛華様に悩みがありますね」

「どういう意味ですか?」

 ピクリと愛華の眉がつりあがる。

「この際ですから言うけど、愛華様の猫を被った性格をどうにかしてほしい。そうすれば俺は他にも何も言わないし、何も望まん」

「ふふふ、貴方は今禁句を言いましたね? 今すぐ私の前に膝をつき、謝罪の文と一緒に土下座しなさい」

 フカフカで柔らかそうな椅子に座っている愛華は立ち上がり、卓巳を見下すように冷たい目線で見下す。

「絶対に嫌だ! 愛華様は可愛いのに、そんな猫かぶりの性格をどうにかしないと駄目だ!」

 卓巳はこの時むきになり言っていたため、愛華の頬がほんのり赤く染まった事に気づくことはなかった。もちろん愛華も卓巳に色々と言う。

 そして卓巳はこれからの生活の事を不安に思いながらも、愛華とギャーギャーと騒いでいた。

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