グリス
待ち合わせをした場所に行ってみると既にヨラが「遅いわよ」と言いたげな不満そうな顔をして待っていた。
「エレの方は何か手がかり見つかった?こっちに絵画はなかったけど、二階にあったんでしょ?」
「そっちに絵画がなかった?二階にも絵画はなかったよ!」
「え?どうゆう事?絵画はこの屋敷にあるって事じゃなかったの?」
「そうなんだけど…絵画のあった様な後もなかったんだよね。ヨラの方もどこかに、移動したとかの形跡はなかったんだよね?」
「そうね、一階には、ほとんどモノがない様な感じだったわ」
「そうなると考えられるのはなんだと思う?ここで、あの写真は撮ってないってことかな?」
「さすがに、ちょっとそれはわからないわ。エレは何か手がかりになりそうなのって無かったの?」
ヨラが溜息混じりに、前足で顔を撫ではじめた。
「特に、無かったんだよね。なんか清掃が行き届いてるって感じで」
「そうよね、取りあえずはココを出ましょうか?」
「とりあえず、収穫なしか…ん?ちょっと待って」
辺に冷たい空気が立ち込め始める、この空気感は知ってるものだ…
「エレも気づいた?ちょっと早く出た方がいいかもしれない、何かいるけど匂いも感じないって事はこれは…」
「そうだね、ちょっとここでトラブルを起こすのは得策じゃないし相手側はまだこっちを認識してない。」
ヨラを先頭にさっき来た道を音を立てない様に急ぎ窓を出たと同時に、隣の建物に移った
「ちょっと私達が出た窓の反対の窓を見て」
そこには、人の形をした20代位の男が歩いていた。
表情は無表情で、まるで幽霊を無理やり見える様にした様な、不気味さが見えた。そして、その瞳はけして瞬きをする事なく、決められたレールの上を走る電車の様に自分に課せられた指名をただ淡々とこなしている。
「やっぱり、グリスだ!でも、なんでこんな館にグリスがいるんだ。戦場でもないのに」
“グリス”は人の形をした兵器で先の戦争から導入された兵器の一つだ。全身をファイバー繊維と機械で出来ている…
彼等は20世紀始めのハイブリッドカーの原理を応用をして作られた。見た目が人間に似ている個体しか生成されないのは、公の場でも用心の護衛の為でもあると言われていた。
グリスには二種類が製造されている。一つは古今東西の格闘技をメモリーされた機体、そしてあらゆる武器の使い方をメモリーされた機体の二種類だ。
第三次世界大戦において、主力兵器としてグリスは大量生産をされ、沢山の人が無表情の顔の前に光を閉ざされた。
グリスの製造にはリスキ繊維と言う、今はない鉱物の原料が必要だった。
何故、今はないのか…それは、リスキ繊維が含まれている鉱物はフラッチ島という、半径3キロ程の小さな島にしかなかったからだ。
第三次世界大戦終幕の時、そのフラッチ島は最後の戦場として、島自体を奪うものになっていった…
そして、最終的に島は世界から消えてしまった…
その島を手に入れたいと言う人々の強い思いにかき消される様に。
リスキ繊維には一定量の電力を保存できる物質が含まれ、その蓄えられた電力をもとにグリスは活動を加能としていた。だが、それも限界がある。
既に、フラッチ島がなくなった今、そのリスキ繊維を補充できる事はなく、グリスの個体は、どんどん活動を終えていって世界には残りわずかなグリスが活動するのみになっている。
「まさか、あの屋敷にグリスが配備されてるとは思わなかったわ!グリスじゃ私が気づかないもの」
ヨラは溜息混じりに、安堵の表情を浮かべている。
「でも、なんでグリスがこの街に…しかもあのグリスは格闘型の方だったみたいだね。さすがに手ぶらで相手するのは困るね」
「これで、この街には何かあるのは確定したわね!」
「確かにね、中立を掲げる街にグリスがいるのは可笑しいからね。さすがに、何十体もグリスがこの街にいるとは思えないけど、ちょっと用心した方がいいかもしれないね。」
「本当よ、なんでエレは手ぶらできたのよ!ちゃんと八咫烏を持って来なさいよ」
「お祭りに刀を持って行く人なんていないだろ?観光客のふりができないじゃないか」
「ま、いいわ。とりあえずグリスがこっちに気づく前に移動しちゃいましょう」
ヨラは頼りないわねと言いたげな顔をしながら、建物から路地へおり、僕に猫まねきをしている。
建物から路地裏に降りる時の横目にはグリスが無表情のまま歩いているのが視界に一瞬入って、その存在は消えていった。