白黒抗争曲
闇の世界から白い世界に変わる。
太陽が目覚めると、月が休む
そうやって、世界は一日を始め
そうやって、世界は一日を終える
球体の中でしか生きられない生き物は
球体の中で争いをする生き物
鳥が泣くのは空が遠いと泣いているのかもしれない。
モーテルを出て電連モノレールに乗るために歩いてる途中、工業施設が多い第五区シュバルツはいつもの、活気をなくした、ゴーストタウンの様に静かだった。
まだ、ロットシティーに来てから日は浅いものの、いつも金属が叩きつけられる音、擦れる音や労働者の笑い声、バスやトラックなどの音で賑やかだった分、余計にそう思ったのかもしれない。
「エレ、お祭りは第一区ヴァイスから第三区ブラオまでの区画なんでしょ?最初はどこに行くつもりでいるの?」
「そうだな、最終目的は第一区ヴァイスにあるとは思うけど、第三区から順番に廻って見た方がいいと思うよ」
それもそうね!と言いたそうな顔をしながら、ヨラは頷いた。
それにしても、なんか毛がいつもよりピカピカしてる事には触れないでおこう。
電連モノレールの駅に着くと、そこはテーマパークのアトラクションを待ってる人の行列様に、シュバルツからお祭りに出かける人で溢れていた。
「スゴイ人の数ね!メインのお祭りは明日なのよね?」
「そのはずだよ。今日は多分、午後からノーベの歌が聴けるからじゃないかな?」
ノーべは過去から来た歌手で、前にテレビで市長に花束を渡していた歌手だ。
彼女の歌は20世紀終から、21世紀始めに掛けて聴かない日はないというくらい人気があったらしい。
ノーべの歌はロットシティ以外にいても頻繁に聴く、この時代でも歌姫の一人なのだろう。
「私も、ノーべの歌は是非聞きたいわ!場所はブラオの区立公園だったわよね?」
「そうだけど、目的忘れてない?もし、行動を起こすなら明日のパレードしかないから今日はそんな時間はないと思うよ?」
「そんなのわかってるわよ」
ヨラはブスっとした顔をし始めた。
「とりあえず、ブラオに着いたら少し見ておきたい場所が僕はあるんだ。ヨラはどうする?一緒に行く?」
「見ておきたい場所ってどこ?」
ヨラはまだ、ノーべの歌を諦めてないような感じだった。
「ノーリ知事の館跡だよ。」
「館跡って、今は見れないって案内図に書いてなかった?」
「そうだよ、もちろん、侵入してね!」
「侵入してって、いつもと違ってエレは荷物持って来てないじゃない?何かあったらどうするの?」
「何かあったら、あったらでどうにかするよ。それがいつものやり方じゃない?それに、あの肖像画の事を調べるなら、直接実物を見た方が早いし効率もいいでしょ?」
「あの写真と肖像画は館跡だったのね?」
「もちろん。ただ、製薬会社アポロンの肖像画と館跡にある肖像画が同じものじゃない可能性もあるけど、ワザワザ同じ絵を飾るって事は少なからず、アポロンの時に飾られてた肖像画と同じ可能性は高いよね?それを確かめに行くんだよ。」
「そうよね、それなら私もついて行くわよ。エレ一人で行ってトラブルに巻き込まれた時に保護者がいた方が何かといいでしょ」
とヨラは急にご機嫌になり始めた。全く、いつも世話焼きのお猫様だと思う。
やっと乗車出来た電連モノレールの車内はお祭りに向かう家族連れなどで、賑わっていた。
そして、その賑わいは第三区ブラオが近づくに連れて大きくなっていく。
まるで、ライブが始まったかの様に数多の人の話し声が行き交い音の世界に吸い込まれていく様な感覚になった。
「駅から館まではどのくらいなのかしらね?」
ヨラが構内の案内図を見上げている。
「ここからなら20分位じゃないかな?途中でちょっとご飯食べてから行こうか?」
「そうね、さすがに朝食べてないからお腹空いたわ。魚が美味しい所がいいわね!」
ヨラは鼻を舐めながら、空腹をアピールしてるみたいだった。
駅の目の前のけやきひろばには、多くの屋台とお祭りを楽しむ人で溢れかえっていた。
地面には午後から行われる、ライブの招待映像が流れ市長の挨拶の映像や、街の歴史を振り返る映像が切り替わり始めていた。
交差点にある映像掲示板には、各施設の道順や到着予定時刻が表示されている。
「やっぱり、私達みたいに他の国から来てる人も多のかしらね?」
「そうでしょう。どう見てもお祭りを純粋に楽しみたいって顔じゃない人もチラホラいるけどね」
「まさか、私達と同じ考えの人がいるとかないわよね?」
「どうだろうね。そこは、知らなけどテネシアンの報告書をもらったのが僕たちだけとは限らないから、同業者と出くわす可能性もあるよね」
「やっぱり、私もついてきて正解だったじゃない。これで、同業者とトラブルになったら大変だったわよ」
「いや、まだ同業者とトラブルになってないのに、決めつけなくても…」
「とりあえず、あの店に入ってご飯食べましょ!話はそこでね。もうお腹ペコペコで歩けないわよ」
ヨラのご希望にそって、魚の看板が書いてあるカフェに入って話をする事にした。
どうやら、この地域になるとエミュレーの数も増えるみたいで、エミュレー用のメニューが用意されていた。
「屋敷はここから10分位行った場所にあるらしいんだけど、問題は警備だよね。確か、管理人の人がいるって書いてあったけど」
「管理人って言うくらいだから、おじいちゃんとかおばあちゃんとかじゃないのかしら?そこまで気にする事?」
「いや、少しだけ嫌な予感と言うか何か大切な事が抜けてる感じがするんだよね。ヨラはなんとも思わないの?」
「私は別に何も思わないし、気づかなかったけど…気のせいじゃない?」
「ヨラが言うならそうなのかな?さっき同業者の話をしてたけど、後を付けられてる形跡もなさそうだしね。」
「もし、つけられてたら嫌でも私の鼻が反応するわよ。」
確かにそうだ。もし、尾行されていたら猫のヨラが気づかないワケがない。それじゃ、何か気になることはなんだろうか?
何かが抜けている様な…考えすぎなのだろうか