眠れる美少女
世界の知識が押し詰められている様な本の棚の大群…
そして、電子書籍は各フロアのソファースペースにある端末から見る事が出来様になっている。
とりあえず、電子書籍のデーターを探してもらうのはヨラに任せて僕は本の棚を一件一件見て回る事にした。
莫大な量の本…でも、重要なのは今の市長の事を調べる事。
古いものは無視して、今の市長になる数年位前の資料がありそうな本を持ってヨラが座っているソファー席に持って行った。
「どうだった?手がかりは見つかりそう?」
とヨラが僕が近づいてるの気づきこちらを見た。
「全部を調べるのは難しいから、とりあえず市長に関係がありそうなものだけ持ってきたよ」
というと、ヨラは「そう」と一言、また端末の液晶に目を落とした。
2時間程お互いに、資料と睨めっこした後にヨラが話し始めた。
「エレの方はもう終わりそう?私の方は大体まとまった感じだけど?」
「こっちも大丈夫。それじゃちょっと出ようか?」
と僕たちは席をたって、電紙図書館を出る事にした。
ホームでモノレールを待つ間、ヨラの方に顔を向けるとなんだか難しい顔をしていたので気になって声をかけてみた。
「大丈夫?もしかして、疲れた?」
「違うわ!後は帰ったら詳しく説明するけど、今回の事は私たちも少なからず関係があったのよ!」
とちょっと暗い表情で言っている横顔が少し気になった。
いくら中立の街と言っても公共施設などを監視していないものはいない…盗聴、隠しカメラ…などは結構あるものだ。
一体誰がなんの目的でその道具を使っているのか…
変態趣味にもビックリだ。
第五区シュバルツの僕たちが泊まっているモーテルまでの帰り道はヨラはずっと難しい顔で考えていた。
こちらが話しかけても「うん、そう」などの相槌しかこっちには来なかった…
車両の中からの外の景色は段々と昼の顔から夜の顔へと変わっていく途中だった。
オレンジ色が世界を覆っていた。
まるで、闇に支配される前の最後の抵抗と言わんばかりに真っ赤にその存在を燃やしてアピールしていた。
今日も終りが来て、また始まりが来る。
モーテルに着いた時にはすでに、オレンジから黒の世界へと変わっていた。
とりあえず、僕たちはルームサービスを頼み部屋で食事を取りながら話し合いをする事にした。
「ヨラ、帰りの道で僕たちも関係があるって言ってたけどあれは、どうゆう意味だったの?」
とパンを食べているヨラに気になっていた質問を投げつけてみた。
「そうね…先ずは何から話せばいいかしら…エレはこの街の歴史を重点的に調べていたわよね?」
ヨラは話を纏める為に最善を尽くそうとしているのだろうか?
「もう気づいてると思うけど、元々はこの街の元になった企業があるわよね?製薬会社アポロン…」
「うん。その会社の創設者が前知事って事もちゃんと調べてあるよ。」
僕は質問にすぐに答えた。
「そう…エレは自分が産まれた時の事とかあまり、詳しくはないわよね?」
ヨラがどうして、僕の産まれについて聞いてきたのか少し疑問に思った。
別に全く知らない訳ではない、第三次世界大戦の終り、人類は持て余した爆弾をお祭りの花火の様に世界中にばら撒いた…
昔の戦争も今の戦争も主力になるのは若い人間。
沢山の未来を削っていく花火は誰も止められない…
その結果、国の歯車となる若い兵隊が少なくなっていくことにチェス盤で指示をしている老人達は気づかなかった。
嫌、気づいた時には遅かったんだ。
そこで、偉い人達は考える
「どうすれば大量に兵隊を補充できるのか?」を
一回に人が人を産むのは限度がある…
そこで考え出されたのがクローン技術
最初、クローン技術はとても重要視された。同じ遺伝子で大量の兵士を作れる。
それは同じ顔の人形が大量におもちゃ屋に陳列されてるみたいに。
そして、普通の人と違い10分の1の速さで成長させる事ができた。
だが、人が人を作るって事はそんなに簡単な事ばかりではなかった。
欠点もあったからだ。
クローン兵士は自我が作れなかった。命令には従順だが、応用が出来なかった
そして、短い期間で身体を成長させるという事は濃縮されているものを無理やり引き伸ばした様に脆い作りになってしまった。
そこで、次に考えられたのが遺伝子操作をした試験管ベイビー
そう、僕の事である。
「どれだけ人は進化が出来るのか?」
ナルシストの科学者達が口を揃えて議論をして論文をこれみよがしにばら撒いていた
そんな時にある科学者が一つの論文を発表した。
それには動物と人との融合の可能性について書かれていた。
野生動物の力と人の知恵を結びつければという考えが。
その考えの元に生み出されたのがヨラ達エミュレーだった。
相対性理論の片道道路みたいに、動物に人の知能をなすりつける事は出来たけど、逆は出来なかった。
人は何かの動物と交わることを拒否していた。
そこでDNAの根本から変え受精する事で産まれる前から普通の人とは違う身体能力を植えつけてきた。
後は教育という名の洗脳で育てればよかった。
人は実に洗脳されやすい。
「エレや私達エミュレーを作っていたのが製薬会社アポロンの裏の顔だったのよ」
とヨラが僕に言ったと同時に彼女の目が鋭くなった。
「なるほどね、それは僕達も関係してるって意味じゃあってるのかもしれないね?」
ヨラの発言にさほどビックリしなかった訳でもない。ただ、余り僕は過去に興味がなかった。
「それじゃヨラにいい事を僕から教えてあげよう!今回の獲物についてのヒントだよ!」
余り、暗い話題は好きじゃない僕はクイズ番組の司会者がヒントを上げる様にヨラに質問をした。
「何よ?ちょっとは怒ったりしないの?」
とちょっと拍子抜けだったのか、目を丸くしてこちらを見ている。
「ロザリア・ロンバルドって女の子の話は知ってる?」
「当然でしょ!眠れる美少女の話よね?それがなんの関係があるの?」
ヨラは少し考えた後、当然でしょって顔で答えた。
「そう、眠れる美少女の事なんだけど、彼女の父親、マリオ・ロンバルト将軍はミイラにしてくれって希望を出した後、数年で彼女の元を訪れなくなった。どうしてなんだろうね?」
「そんなの私が知るわけないでしょ?」
と、ちょっと意味がわからない!って感じのゴキゲンナナメな様子でこっちを見ている。
「普通、ミイラって言うのは死体を身体が腐敗するよりも早く急激な乾燥をさせないといけない。でも、ロザリア・ロンバルドの場合は違うんだよ?彼女の父はミイラにして欲しいと頼んだはずなんだ、でもその為にしないといけない乾燥っていう作業の変わりに別のことをしてるんだよ。」
だから何が言いたいのよ?と顔でエイルが見ているので、話を進めよう
「ヨラが調べた製薬会社アポロンが裏で僕達の出生に関わっていたって事がわかった時にピースがはまったんだ。これを見てくれるかな?」
僕は図書館の雑誌から切り取った2枚の紙をヨラの顔の前に差し出した。
「なに、図書館の資料ちぎってきてるのよ!ばれたらどうするの?」