三十三 体育祭 Ⅰ
「体育祭開会式を始めます。はじめの言葉――」
俺たちはグラウンドで体育座りをしていた。今日は体育祭の日。晴天。まぁ、雨でも天象の力で晴天に出来るんだろうけど。九月の下旬なのに太陽がギラギラしている。もう頭が熱い。体操服の上に着ているジャージを脱いだら、半そでの腕を秋の風が撫ぜていった。こっちの方がまだマシだ。きゃあきゃあ、という黄色い声が聞こえた気がするが気にしない。
「――というわけで怪我に気をつけて各学年優勝を目指してください」
うわやべぇ、全然注意事項聞いてなかった。でも事前に聞いてあるもので覚えているのもある。
唯一覚えているそれは、超能力解禁。体育祭の間なら、自由に超能力を使っていいということだ。
「優勝旗、トロフィー返還」
陽向がはい、と大きな声で言い、優勝旗を返還した。また、MVPでもらったらしいトロフィーも。一人で役がすむのはすごいと思う。
体育祭は一般非公開で、親も見に来てはならないことになっている。陽向の親、息子を見たかっただろうに。この学園の特徴として、保護者介入は文化祭だけらしい。授業参観もPTAもなし。
ちなみに、たいていの保護者はLovelessについて知らないらしい。
保護者にも民の存在を伝えて、Lovelessに対策すればいいって? それは危険な賭けだ。もしその保護者がLovelessの一員だったり、その保護者がLovelessに情報を流してしまったりしたら、俺たちは全員つかまる。だからこのことを――民の存在を知る人は出来るだけ少なくなければならないのだ。
「学園長のお話」
司会が淡々と開会式を進めていく。
「やっと回ってきたわね、私の話! えーと、何言おうかしらと思っていたんだけれど、一言だけ。いい? 安全に気をつけて全力で闘いましょう。はい以上!」
何だこの低レベルな学園長の話は?! 幼稚園生に言い聞かせる言葉じゃねぇか!
「ありがたいお言葉をちょうだいしまして。これから体育祭が始まります」
ありがたい――ってか存在しがたいとかめったにないとかの有り難いだよこれ!
俺たちはグラウンドを囲むように置いてある自分のイスに学年ごとに分かれて座った。左から中一、一番右が高三だ。俺の隣はもちろんカズと翡翠。翡翠は肌が真っ白だから、今日で焼けてしまうかもしれないと思い、購買で今大人気の日焼け止めを買ってきてあげた。使い方を教わって今朝つけていたから、翡翠は大丈夫だろう。でも俺とカズは何もつけていない。日焼け止めの匂いがしないからわかる。あー、後でひりひりするんだろうな。
「プログラムナンバー一、応援合戦。これは民ごとに行われます」
応援団(事前に決めてある元気集団。高二のギャルたちも入っている)が先頭だけ旗をもって入場してくる。もちろん旗はイメージカラー通り。火地は緑、水氷は青、雨出は紅である。
応援団のパフォーマンスを見るうち、だんだん生徒たちのテンションが上がり始めた。
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「プログラムナンバー二、玉入れ」
いきなり玉入れ? と思うかもしれない。文句は体育祭実行委員に言ってくれ。
玉入れは中学生、高校生の二回にわけてやる。でも順番とかは特に勝利に関係ない。入れた玉の数で順位が決められるのだ。一位が六点、最下位が一点。そして合計の点数で優勝を競う。
まずは中学生の玉入れだ。
「よーい、はじめ」
ピーっとホイッスルが鳴る。俺は琳を探した。琳、琳――いた。その横には拓斗。あいつ、気に入った。
「作戦通りにやろう!」
「おーう!」
そしてじっと中三を見つめた俺たちはその作戦とやらを見せつけられた。
まず、背の高い二人が籠を囲んで十組肩車をする。そして他の二十人は球を軽く上の人に投げて渡す。あとの十人(中三はぴったり五十人なんだ)は普通に籠に向かってポンポン投げる。琳はポンポン投げる係だった。
何だよこの可愛くねぇずるがしこいやり方は?! こんなことやっていいのか? カズに聞くと、
「作戦勝ちってやつじゃね? 注意の時ダメとは言ってなかった」
と言った。何てヤツらだ。これが天才率いる中三か。天才つーか何つーか。高一と高三が騒がしくなる。
「おいおい、おれたちの普通のやり方で大丈夫かよ?!」
という声が両側から聞こえた。高三を見ると、加藤が宥めている。
それに比べて俺たち高二は静かだ。やる気がないのではない。断じてない。全員満々である。ただ、俺たちにも作戦というものがあるのだ。完全必勝の秘策が。
中学生の中では、結果は完全なる中三の勝利だった。
高校生が入場をはじめ、籠を囲む定位置につく。
「作戦通りで行くかんな!」
カズの小声が横の人に伝えられていく。今日までに絆の深くなった高二は一味違うんだ。
「よーい、はじめ」
ピーっ。俺たちは動き出した。
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「ずるい!」
後から遥と琳に咎められた。
「作戦勝ちだよ」
「だからってあんな!」
俺たちは玉入れで大勝利した。方法? これは良い子はマネしちゃいけない。まず、火地の民が籠の棒部分を火地の力で地中に埋める。その間に玉を掻き集めていた雨出の民と水氷の民が地上に現れた籠だけ部分にごっそりと玉を入れるのだ。そして制限時間内に地上から出してしまえば。
卑怯? いやいや、賢いと言ってもらおうか。実に効率的なやり方だった。これを考えたのは実は俺である。せっかく許可されている超能力使用可のルールを使わないのはもったいないということで。
とはいえ、今日俺は火地の力を初めて見た。練習の時は他クラスに作戦がバレないように普通の方法でやっていたから。まるで土が水になったかのようにずぶずぶと玉入れかごが沈んでいった。これはかなり戦闘で役立つ力だと思う。




