二 俺は悩んでいた
翡翠が家に来てからはや一週間。俺は悩んでいた。
全く情報がないのだ。
あれだけの特徴をもっているのにも関わらず、ニュースはおろかネットにもかすりやしない。白髪? 青眼? 長髪? 美少女? 一言もない。あるのは、もちろん黒髪(時に茶髪)の人やこれ、家出じゃね? っつー感じの人、どこどこ出身者のみ。まず記憶喪失という点からキツイのに、特徴が言われていないとなると、俺たちはもうお手上げだ。家の人は、実の子供がいなくなってどう思っているのだろうか。もしや、行方不明届などを出せないほど複雑な事情があるのだろうか?
出会ったときの服装こそシンプルだったものの、彼女の行動や家事の仕方などはしっかりとした家柄で育ったことを示している。料理は上手いし、片づけや洗濯物干しなどもきちんとできる。彼女のおかげで、俺の生活はぐんと楽になった。
「やっぱ、外に出した方がいいかなぁ……」
俺は一人で呟いた。とはいえ、視界いっぱいの天井が答えてくれるはずもなく。
翡翠を、外に出したことは一度もない。買い出しは今まで通り俺だし、学校にも通わせていない。なんだか、直感で家から彼女を出さない方がいいと思ったからだ。だから、言ったら面倒くさくなりそうな父さんにも言っていない。でもこうなったら、周りに翡翠の存在を知らせた方が情報は集まりやすいかもしれない。
あぁ、でもなぁ……俺の予感って、当たるんだよなぁ。いや、マジで。これはうぬぼれじゃない。本当に当たるんだ。自覚したのは小学生のころから。小学三年生の運動会の前日、ふと明日は絶対に雨だと感じて、無駄だから前日準備をサボった。そうしたら本当に雨になった。それに、中学二年生の修学旅行の日、絶対に事故が起こると感じてどうにかバスを遅らせようと無断でトイレにこもったら(無論用を足していたわけじゃない)そのバスが通るはずだった高速道路で、通るはずだった時間に玉突き事故が起き、五人が重軽傷をおった。まぁ、どちらもこっぴどく叱られたけど。偶然だと言うかもしれない。でも、これ以外にも例がある。信じてくれなくてもいいけど、とにかく俺は勘がいいんだ。
俺は、ソファの上でうーんと伸びをした。琳と翡翠は上で仲良く話をしているらしく、ときおり笑い声が聞こえる。翡翠はスタイルが良く(何せ身長に胸に琳にはないものをもっているし)また気性が極めて穏やかで優しい。琳が気に入るのも当然だ。いいお姉さん、とでも思っているのだろう。でも(もしもこの先翡翠の記憶がすんなり戻って彼女が元の自らの家に帰ってしまうとしてもだ)琳には悪いが、彼女の記憶は何が何でも取り戻されなければならないと俺は思う。絶対に、翡翠を待つ人はいるはずだから。いなくなって、悲しんでいる人はいるはずだから。
「よし、決めた!」
翡翠を高校に通わせよう。俺の羽風高校に。




