十五 あたしはこれでいきます
連れてこられた先は、大きな闘技場だった。一見体育館のようだが、床にスポーツのコートのラインが引かれていない。また、上には教師用らしき席があって、そこから学園長と立花先生が見下ろしていた。円形で、これまた上にある観客席は何百人も座れそうである。まるで野球場のようだ。どうして闘技場だと思ったかと言うと、出っ張っている観客席の下に武器――剣、銃、槍、弓など――が置いてあったからである。水がたっぷり入った大きな桶と、土の山もある。
「何をするんですか?」
そこには、琳と翡翠もいた。二人とも不安そうな顔で俺に近づいてくる。保健の先生は、学園長に一礼すると、俺たちにウィンクをして闘技場を出て行った。
「今から、戦闘能力測定を行うわ。戦闘クラス決めの材料よ。杉山さん」
「はい」
学園長が放送で言った(先生はアナウンサーがスポーツ中継のとき使うようなマイクを持っている)。検査ばっかりだなぁ、などと考えていると、俺たちが入ってきたのと違うもう一つの出入り口から、制服姿の遥が出てきた。しかし、手には物騒な……。
「え? ええ?」
琳が後じさりした。そりゃ俺だって怖い。彼女が両手にもった銃がきらりと黒光りする。ハンドガン、っていうのか? ライフルみたいな大型のものじゃない。でもあんなので撃たれたら……。俺たちの様子を見て、遥がにやりと笑った。
「大丈夫、中身はビービー弾だから」
そして撃鉄をたて、俺の足下を打った。
「いてっ!」
脛に当たった。痛い。こいつは何だ、ドSなのか?
「ね、痛くないでしょ?」
「おいおい、ガン無視かよ。ガン無視ですかー?」
「銃だけに」
「いやつまんねぇよ! しかもベタだなそれ」
「それはどう使うの?」
俺が突っ込んでいるのを尻目に、翡翠が遥に聞いた。そうか、銃は翡翠にわからない。
「この突起をあげて……」
遥が翡翠に近づき、丁寧に教えはじめた。そして、
「で、こう撃つの」
また俺の足下を撃った。
「だからいてぇっての! しかも何で俺? 観客席とかガラ空きじゃん! そっち撃てよ」
「お、銃銃突っ込んでるねぇ」
「もういいわ!」
俺が叫ぶと、琳と学園長の笑いが大きく響いた。
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「授業はどうしたんだ?」
「緊急命令だから逆らえなかったの。本当は今頃世界史の授業なんだけど」
俺の素朴な疑問に遥はそう答え、銃を構えた。
「さあ、一対一のタイマン勝負。誰から行く?」
「あたしから!」
はいはい、と勢いよく琳が手を挙げた。
「いいの?」
「うん。遥には負けないから!」
「その言葉、そっくりそのまま返してあげる。朝の続きね」
二人ともやる気まんまんである。
「決まりだね? それじゃあ、翡翠ちゃんと匡輝は観客席に上がっていなさい」
俺たちは立花先生に言われた通りに階段から上に上がり、イスに腰を下ろした。
「琳祢ちゃん、武器庫から好きな武器を選びなさい。直感で選ぶんだ」
「あたしはこれでいきます」
どうやら闘技場のフィールドにもマイクが入っているようで、琳の声がはっきりと聞き取れる。
琳は、腰を深く落として戦う構えを取った。
「え?」
学園長と立花先生のハモった声がなんとも可笑しい。
「あれ、言ってませんでしたっけ?」
琳は一度構えを解き、先生たちの方を振り返って言った。
「あたし、空手と柔道やってるんです。素手もアリって言ってたよね、遥。だから、あたしはこれでいきます」
そしてまた遥に向き直り、構えの姿勢をとった。琳は、強い。本気で強い。幼少時からやっている柔道の大会なんかではだいたいメダルやトロフィーをもらって帰ってくる。中学生になって空手を始めたのだが、もう顧問の先生より優に強い。天性の才能だとよく褒められている。
そのことを知っている遥はまたにやりと笑い、銃を構えた。




