九 超能力、ですか? Ⅰ
「まずは自己紹介からね。わたしは長谷川智仔。この学園の学園長よ。よろしくね」
俺たちは軽く会釈をした。この人が学園長なのか? こんなフレンドリーそうで若い人が?
学園長は俺たちを満足げに見ると、言葉を続けた。
「何から話したらいいのかしら……ああ、そうね」
そこで学園長は一度言葉をきり、俺たちの目を真剣に見た。俺は身構えた。
「超能力、って信じる?」
……は?
「超能力、ですか?」
何だか気が抜けた。俺が言うと、学園長は真剣な面持ちのまま頷いた。
ちょっ、待って、え? ここに来てオカルトの話?
「私は、よくわからないです……」
翡翠が口を開いた。まあな。記憶喪失だからな。
「あたしは、信じます。夢があっていいな」
琳が肩を竦めた。琳は小さなころからおとぎ話や空想の物語が大好きだった。よく絵本の読み聞かせをしたものだ。なんとも、ロマンがあって良いのだそうで。
「俺は、信じません。実際に見たり実証されたりしていないと、信じられない」
動揺を隠しながら言った。俺は、割と現実主義。宇宙人やUMAも、自分の目で確かめないと信じない。
「そう。よくわかったわ」
学園長は一人一人の意見に頷き、こう切り出した。
「超能力は、存在するわ」
え?
「それこそ、あなたたちがもっている」
ええ?
「ど、どういうことですか?」
この人、どこかおかしいのか?
「いきなりで理解しがたいことだということは承知の上よ。ただ、これを理解しないと次の段階へ進めないの」
本人は冷静そのものである。
「待ってください、いきなりでは何もわかりません」
翡翠が控えめに言った。すると、壁にもたれて腕を組んでいた佐藤先生が口を開いた。
「君はこんなことがないかい、琳祢ちゃん。君が心から怒ったり、泣いたりすると地震が起こる。火起こしが上手。やけに力が強い」
琳がぴくりと動きを止めた。その他はよくわからないが、力については俺も知っている。一五五㎝、体重非公開(見た目が痩せているから軽いはずだ)の彼女の握力は、なんと五十を超える。ぴたりと的を射た発言に、俺はなぜ佐藤先生が琳の名前を知っているのかという疑念にも気づかなかった。
「……」
琳は何も言わなかったが、視線がさまよっている。全てが事実なのはあきらかだった。
「言っておくけれど、物を動かしたり、人の心を読んだりという能力ではないわ。それはわたしも信じない。ここで言っているのは、自然現象を操る超能力のことよ」
「自然現象を操る?!」
俺と琳が同時に言った。翡翠は少し驚いたように顔を上げた。
「そう。この世にはこの超能力をもつ人々がいる。能力をもつ者を、通常はこう言うの」
そして学園長はこう言った。
民、と。
「民には三種類あるわ」
そこから彼女が言ったのは、にわかには信じ堅いことだった。
三つの民の種類。
一つ目は、火地の民。火地の力をもつ者。別名、大地の民。
二つ目は、水氷の民。水氷の力をもつ者。別名、恵水の民。
そして三つ目は、雨出の民。天象の力をもつ者。別名、天象の民。
火地の力とは、火や大地の変動を操る力のこと。
水氷の力とは、文字通り水や氷を操る力のこと。
天象の力とは、雨や晴れ、曇り、風や雷などの天象を操る力のこと。
「そんな……」
琳が呟いた。俺だって信じられない。いきなり連れてこられて、こんな話をされても。
「信じられないって顔ね」
学園長が俺を見て言った。
「はい」
「見てごらん」
佐藤先生が壁から背中を離した。そして、自然なそぶりで掌を上にして右腕を少し上げた。
すると、そこにどこからか出てきたのか、佐藤先生の右手に水がたまり始めた。
「これは空気中の水分と近くの水源からの水分を集めているんだ。さっきあいつらに襲われたとき見せたのもそう。ここまでになるにはかなり修業が必要だけどね。もうわかると思うけど、僕は水氷の民だよ」
目の当たりにしては、信じるしかない(水の力だけは)。俺たちは顔を見あわせ、頷きあった。みんなも同じ気持ちみたいだ。佐藤先生が右手を振ると、水はぱっと散って空気中に消えた。
「この学園は、中高とあってね。民の保護と人材育成のために無償で運営しているの。全寮制の学園よ」
「保護? 人材育成?」
「さっき起こったことでわかっていると思うけれど、あなたたちはある組織に狙われているわ。まあ、民全員がね。その保護よ」
「誰に? 何で狙われているんですか?」
俺は聞いた。
「早まらないで、ちゃんと説明するから。民を狙う組織があるの。その詳しくはわかっていない。ただわたしたちは彼らをこう呼ぶわ。Loveless――愛をなくした者たち、と」




