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殺される魔物が可哀想だと思いませんか?ええ、確かにそうですね。でも、あなたは可哀想ではありませんので

作者: ふたーなる
掲載日:2026/10/11

 「ドラゴン討伐反対〜〜!!」


 人々がギルドに押し寄せてきている。


 ここは、街の外れにある冒険者ギルド。

 いつもは、住民や街からの依頼を受けて、それをこなして金を得ている俺達なのだが、その、大事な依頼主である住民がなぜだか押し寄せてきている。

 俺達は、ウィンウィンの関係だったはずだ。


 このギルドだって、かなりルールは厳しくて、違反する奴はすぐにクビになるから、皆さんからの評判も良かったはずだ。


「なんか、いっぱい来てますよ!どうしますか、」


 ギルドの中でこのギルドにいる冒険者たちが慌てている。


「マスター、ヤバいです!!」


 そういって、一人の冒険者が俺のところに来た。

 まあ、俺が出るしかないよな。


「なんか、騒がしいけど、どうしたんだ?」


 ギルドの外には、信じられない数の人が押し寄せてきているのだ。

 最近、急にこのよくわかんない運動っていうのか?

 こうやって、集団で来る奴らが増えてきたのだ。


「魔物だって、命があるんだ!!」「この、人でなし!!」


 外からは、相変わらず罵声が聞こえてくる。


「ハア、待っててくれ。俺がどうにかしてくる」


 行くか、仕方ない。


 俺達は、住民から集めた依頼をやっているんだ。

 あんたらがどう思おうが、困ってる人間がいるんだから。


「おい、冒険者か!!お前らは、命をなんだと思ってるんだ!!」


 俺がガチャリと扉を開けて外に出ると、そこには、さすがの俺でも引くくらいの人が集まっていた。


 そりゃ、皆も焦っていたわけだ。

 しかし、俺はここのマスター。

 なんとしてでも、彼らの居場所を守らなければならないからな。


「おい、お前らどっか行けよ!!」


 俺がそういうと、民衆の声の波がぐわっとこちらに押し寄せてくる。

 興奮した人たちの体温で、立っているだけでもタラタラと汗が垂れてくる。


「お前らは、動物を可愛そうだと思わないのか!!人でなし!!」「恥知らず!!」


 声の主は、様々だ。

 老若男女、皆揃っている。

 轟々と声がこちらに押し寄せてくる。


「おい、黙れ!!」


 俺がそういうと、不思議と彼らは静かになった。

 ・・・話せばわかるんじゃないか?

 一応、攻撃の一手を用意していたのだが、

 しかし、静かになったと思ったのも束の間、

 一番前にいた、頭にはちまきを巻いた恰幅の良い中年の男が俺の方に詰め寄ってきて、「あんたらがまだ魔物を殺すっていうなら、このギルドをぶち壊す」と脅してきた。


 話通じねえな。

 よし、


「お、あんたら、動物が可哀想と思うかだって、」


 俺は精一杯声を張り上げた。

 すると、先程詰め寄ってきた男が「そうだ。お前らは、命をなんだと思っているんだ。魔物だって生きてるんだぞ!!」と唾を飛ばしてきた。


「ああ、魔物は確かに可哀想だなあ」


 俺がそういうと、はちまき男は少し安心したような顔をして「・・・どういうことだ?」と聞いてきた。


「動物は可哀想だけど、あんたらのことは可哀想じゃないから、魔物は殺す!!はい、終わりだ!!解散解散!!」


「どういうことだあ!!お前は、人の痛みを想像できないのか!!」


 はちまき男が俺に、またもや詰め寄ってきて、今度は俺の胸ぐらを掴んできた。


「は?お前らが可哀想じゃないから、お前らのために動きたくないって言ってんだよ、ボケが。みんなで集まってでかい声出せば人が動いてくれると思うなよ!!」


 俺がそういうと、またもや民衆は静かになった。

 そして、一旦静まり返ったというのに、まず奥の方から一人が「殺しちまえ!!」と叫んだのだ。


 すると、それに呼応するかのように轟々と人が押し寄せてきた。

 ギルドなんてのは、ただの木で作られた建物だし、頑丈さは皆無だ。

 このままではまずい。

 人の圧で、押しつぶされてしまうかもしれない。


「おい、来んなって!!」


 しかし、後ろの人が動けば前の人はそれに押されるように動くしかないこの状況で、これを止めることなど不可能だ。

 しかし、俺はまず先程のはちまきを思い切りぶん投げた。 

 前の方にいた連中はそれを見て、「ヒイッ」と情けない声を出したが、後ろの連中にはそれは伝わらない。


 俺が扉の前でどうしようか悩んでいると、中から二人ほどギルドの冒険者が出てきていた。

 そして、俺の肩をぽんと叩いてから「俺たちも手伝います」と言って剣に手をかけた。

 さすがに、このなんの罪もない連中を殺すのは良くない、ということで俺は彼の手を上から押さえてから、「武器は捨てろ。拳だけで、ぶっ飛ばそうぜ、」と言ってニコッと笑った。


 というわけで、俺達冒険者と活動家連中で殴り合いの乱闘に発展した。

 それにしても、人が多すぎる。

 だけども、皆威勢は良いのだが実力が伴っていないのと、せっかく数がいっぱいいるのに一人ずつ殴りかかってくるものだから、意外といい勝負になった。


 頭が悪いのか?それとも、大して本気じゃないのか。

 というわけで、さすがに何時間も殴り合うような体力はないので、一旦話し合おうという結果になった。


 向こうの代表者が前に出てきた。

 5人ほど出てきたのだが、全員40代を越えているであろうおじさんとおばさんだった。さっきのはちまきも、この中に入っているみたいだ。

 せっかく若そうな奴もいるのに、いつまでも出しゃばりやがって。


「で、あんたら結局どうしてほしいの?」


 ヘトヘトだったけれども、俺なりに頑張って彼らに向き合った。俺の後ろには、ギルドに所属している冒険者が何人か立ってくれている。


「だから、あんたらは魔物が可哀想だって思わないのか?」


「ええ、思いますよ。思いますとも、」


「じゃ、じゃあ、もうドラゴン退治とかやめろよ!!神が、悲しんでいる!」


「だから、最初に言った通り、ドラゴンは可哀想ですけど、あなた達は可哀想じゃないんで。その、「妻にも逃げられて、子どもは冤罪で牢獄に入れられて、実は、私の体も病気に蝕まれていて、でも、それでも、ドラゴンだけは殺さないでもらいたいんです!!」って言ってきてくれたら、俺達もやめるわ」


 俺がそういうと、一瞬彼らは怯んだものの、「お、何を言ってるんだ!!ごちゃごちゃ言うな!!神の怒りを買ってもいいのか!!」と怒鳴ってきた。


「お前ら、うるさいんだよ」


 そういって、俺の後ろに控えていた冒険者が怒鳴り上げたが、俺は彼を手で押さえてから、前を向いたまま「ここはまかせてくれ」と言った。


「まあ、魔物を殺してほしくないんだろ?まあ、毎日来てくれたらいいよ。これからさ、全員じゃなくてもいいから、あんたらでさ、」


 というわけで、俺はかなり彼らに歩み寄ったわけだ。

 だって、こっちも同じになって返す必要はないわけだ。

 結局、彼らだって人の動かし方というのがまったくわかっていない。


「・・・毎日ですか、」


 さっきのはちまきが、少し気まずそうに俺から目をそむけた。


「だから、あんたらが可哀想だったら俺達はやめるよ。同情してほしいのは、ドラゴンにじゃなくてあんたらにだろ?あんたらは、ドラゴンが痛めつけられてて辛いと思うけど、社会にはそんなにいないわけだ。それが、許せないってことだろ?なんで許せないかって言ったら、あんたらが持っている苦しみを味わっていない人がいるから。それが、不公平だってことだろ?」


 俺がそういうと、奴らは皆ポカンとした顔でこっちを見てくるだけだった。

 俺はしばらく彼らを見渡して黙っていたのだが、前にいる代表者も奥の方に蠢いている参加者たちも何の反応も示さない。


「とりあえず、俺達は弱者を救うのが仕事。あんたらのために、動きたいとは思わないの!!もっと惨めになってから出直してこい!!」


 俺がそういうと、ようやく正気に戻ったのか、「殺すぞ!!」「神罰だ!!」と怒号が再び聞こえてきた。


 で、またあいつらが押し寄せてきた。

 今度は、さっきよりもだいぶ怒っているみたいだ。

 これはヤバいな、と思ったところで、突然上空を大きな影が通り過ぎた。


 あれは、


「マスター、ドラゴンです!!街に向かってますよ!!」


 冒険者の叫び声に、俺は空を見上げた。

 巨大な翼。黒々とした鱗。そして、口元から漏れ出す赤い光。

 間違いない。ドラゴンだ。


「おいおい、冗談だろ……!」


 俺は頭を抱えた。

 あいつが街に来たらどうなる?

 家は壊れる。畑は燃える。人は逃げ惑う。

 そんでもって、俺たち冒険者はその後始末をする羽目になるわけだ。


「おい、お前ら! 討伐に行くぞ!!」


 俺が叫ぶと、後ろの冒険者たちが一斉に武器を手に取った。

 しかし。


「待てえええええ!!」


 またかよ。

 振り返ると、さっきまで俺たちと殴り合っていた活動家たちが、再び立ちはだかっていた。


「ドラゴンを殺すな!!」


「お前ら、状況がわかってんのか!?」


「わかっている! だが、ドラゴンにも命があるんだぞ!!」


「じゃあ、街の人間はどうなるんだよ!!」


「ドラゴンを傷つければ、神の怒りを買うぞ!」


 話にならねえ。

 俺は額を押さえた。


「いいか、よく聞け。あのドラゴンが街を襲ったら、お前らの家だって壊れるん

だぞ! 家族だって危ないんだ! それでもいいのか!?」


 すると、はちまき男が平然と答えた。


「我々の家は地下にある。問題ない」


「は?」


 思わず聞き返してしまった。


「地下だ。ドラゴンが暴れても、我々の生活には支障がない」


「いや、待て待て待て!! お前らだけ助かればいいのかよ!? 街には地上で

暮らしてる人間がいっぱいいるんだぞ!!」


「それは、街の構造を変えない人間たちの責任だろう!」


 俺は口を開いた。

 そして、閉じた。

 もう一度開こうとして、やっぱり閉じた。


 なんだよ、こいつら。


 俺たちの仕事を否定するくせに、自分たちは安全な場所に住んでいるのか。

 いや、地下に住むこと自体は別にいい。

 問題は、他人が危険にさらされているのに、それをどうでもいいと言い切れることだ。


「マスター、時間がありません!」


 冒険者の声に、俺は我に返った。

 空を見れば、ドラゴンはもう街の上空に差しかかっている。


「どけ!!」


「駄目だ!」


「・・・そうかよ」


 俺は深く息を吐いた。


「お前ら、そこを動くなよ」


 そう言って、俺は活動家たちの横をすり抜けた。


「おい! 逃げるのか!」


「違うよ。仕事に行くんだ」


 俺は振り返らずに答えた。


「お前らの家が地下にあろうが、俺たちの家は地上にあるんだよ」


 背後で何か叫んでいる声が聞こえたが、もう相手にする気はなかった。


「全員、続け! ドラゴンを街に入れるな!!」


 冒険者たちが駆け出す。

 俺も剣を抜き、空を飛ぶ巨大な影を睨みつけた。

 ドラゴンを殺すのは、可哀想かもしれない。

 だが、あいつを止めなければ、もっと多くの人間が苦しむことになる。


 それだけは、間違いない。

 それにしても。


「なんで俺たちが、あいつらの分まで悩まなきゃいけないんだよ・・・!」


 ぼやきながら、俺は走った。

 まずはドラゴンを倒す。

 話は、それからだ。

 ドラゴンとの戦いは、想像以上にひどいものだった。

 俺たちが街に到着したときには、すでに何軒もの建物が燃え上がっていた。

 逃げ惑う人々。崩れ落ちる家屋。空を覆う黒煙。


 そして、その中心で、ドラゴンが大きく口を開いた。


「くそっ! 全員、散開しろ!!」


 直後、炎が街を舐めた。

 俺は間一髪で飛び退いたが、後ろにあった建物は一瞬で火に包まれた。


「マスター! 右です!!」


「わかってるよ!!」


 剣を構え、ドラゴンの足元へ駆け込む。

 鱗が硬い。まともに斬りつけても、ろくに傷がつかない。

 それでも、俺たちは何度も攻撃を繰り返した。

 冒険者たちが囮になり、魔法使いが炎を逸らし、俺が隙を見つけて剣を叩き込む。


 どれだけ時間が経っただろう。

 ようやく、ドラゴンの動きが鈍くなった。


「今だあああああ!!」


 俺は全身の力を込め、剣を振り下ろした。

 次の瞬間、ドラゴンの巨体がぐらりと傾いた。

 地響きとともに、そいつは街の中央広場へ倒れ込んだ。

 静寂。

 しばらくして、誰かが小さく呟いた。


「・・・倒した、のか?」


「ああ。終わったよ」


 俺は剣を下ろした。

 勝った。

 俺たちは、街を守ったのだ。


 辺りを見渡す。

 建物は半分近くが崩れ、道には瓦礫が散乱していた。商店街は見る影もなく、煙の向こうには、かつて立派だった時計塔が無残な姿を晒している。

 街は、半壊していた。


 まあ、よくやった方か。あいつらが、邪魔さえしなければ、


「マスター・・・」


 仲間の一人が、呆然とした顔で俺を見た。


「俺たち、ちゃんと守れたんですかね」


「・・・さあな」


 俺は答えられなかった。

 ドラゴンは倒した。これ以上の被害も防げた。

 それは間違いない。

 だが、壊れた家は戻らない。失われた商売も、今日の暮らしも、誰かが元に戻してくれるわけじゃない。


 俺たちは、これから復興の手伝いをすることになるだろう。

 そのときだった。


「だから言っただろう!! ドラゴンを殺すから、こんなことになるんだ!!」

 聞き覚えのある声がした。

 振り返ると、はちまき男を先頭に、例の活動家たちがこちらへ歩いてきていた。

 ・・・お前ら、まだいたのか。


「ドラゴンを殺さなければ、こんな被害は出なかったんだ!」


「・・・おい」


 俺は、思わず声を漏らした。


「お前らの家は、無事なんだよな?」


「当然だ。我々は地下に住んでいるからな」


「そうか」


 俺は、瓦礫の山を見た。

 そして、もう一度、男の顔を見た。


「じゃあ、黙ってろよ」


 自分でも驚くほど、低い声が出た。


「・・・何?」


「俺たちは今から、この街を片づけるんだ。家を失った人たちを助けるんだよ。あんたらが何か言いたいなら、せめてその後にしてくれ。あんたらのせいだぞ、全部よ、」


「おい、俺達は関係ないだろ。どっちにしろ、ドラゴンは来ていたんだ!!そもそも、こんなところに街を作らなければいいんだ!!」


 男がそう言い返してきたが、その後は俺はもう聞く気がなかった。

 剣を鞘に収め、仲間たちに声をかける。


「全員、負傷者の救助を優先しろ。動ける奴は瓦礫をどかせ。ギルドに戻るのは、それからだ」


 冒険者たちが動き出す。

 俺も、崩れた建物へと歩き始めた。

 ・・・まったく。

 ドラゴンを倒したっていうのに、ちっとも気分が晴れやしない。


翌日。

 俺はギルドの机に座り、昨日の報告書を書いていた。

 街の半壊。負傷者多数。復興作業は長期化する見込み。

 そして、ドラゴン討伐成功。

 ・・・成功、ねえ。


「マスター、まだ怒ってるんですか?」


 隣にいた冒険者が聞いてきた。


「別に怒ってねえよ」


「いや、昨日からずっと報告書の同じところを睨んでますけど」


「うるせえな。ちょっと考え事だよ」


 俺はペンを置いた。

 昨日、あいつらは地下に住んでいると言った。

 地上の街が半壊しようが、自分たちには関係ない。

 それどころか、俺たちがドラゴンを倒したことを責めてきた。


 ・・・なるほど。


「なあ、お前。ゴキブリって好きか?」


「は?」


「いや、だからゴキブリ」


「好きな人はいないと思いますけど……」


「そうか」


 俺は立ち上がった。


「ちょっと出かけてくる」


「どこへ?」


「ちょっとした、プレゼントを届けにな」


 冒険者は、何かを察したような顔をした。


「・・・マスター、まさか」


「安心しろ。殺しはしない」


 俺はにっこり笑った。


「ただ、ちょっと同じ気持ちを味わってもらうだけだ」


 こうして翌日、活動家たちが暮らす地下の居住区では、かつてない規模のゴキブリ騒動が発生した。

 原因は不明。


 ただ、現場には妙に満足そうな顔をした冒険者ギルドのマスターがいたという。

 その日を境に、活動家たちがギルドへ押しかけてくることはなくなった。

 ・・・まあ、俺だって鬼じゃない。

 地下から出てきて、地上の復興を手伝ってくれるなら、いつでも歓迎してやるさ。


 ゴキブリの件?

 さあな。

 ドラゴンの命を守りたかったんだろう? だったら、ゴキブリの命だって大切にしてくれよ。


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― 新着の感想 ―
ゴキブリなんて生優しい…もういっそ活動家の地下住居にドラゴンが転送される魔法陣を組み込みたいレベル。
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