魔女にできない事など無い! ……はず
――世界はなんて退屈なのだろう。
深い森の奥に住まう魔女ヴェスペラは常々そう感じていた。長き時を生きる彼女にとってそれは極めて不幸な事である。
強大な魔力を持つ彼女にできない事はなかった。
森を覆う霧を晴らす事も、水たまりを湖に変える事も、人の心を魅了し操る事もできる。
ヴェスペラ自身も、自らが特別な存在である事を理解している。
美しいから。
強いから。
賢いから。
だから世界は自分の思い通りになる。それが当たり前の事。
実際、これまではそうだった。気に入らない相手がいれば黙らせた。欲しいものがあれば手に入れた。退屈しのぎに人里へ降りれば誰もが彼女に見惚れ、恐れ、媚びた。いつしか人々は森に近付く事すら恐れ、近隣の貴族たちは彼女の機嫌を損ねないよう贈り物をするようになった。
それなのに。
「……暇ね」
森の奥に建つ家の窓辺でヴェスペラは頬杖をついた。
最近は何をしても面白くない。何でもできるがゆえに、何でも手に入るがゆえに、全ての事は必然でありごく当たり前の事だった。
だから何をしても面白くない。魔女は己の不幸を呪っていた。
そんな折だった。森の中で妙な人間を見つけたのは。
「……何をしているのかしら、あれ」
その男は一人で黙々と地面を掘っていた。
宝探しには見えない、薬草採取でもない、魔物狩りなどなおさらだ。
男はひたすらに掘る。
掘り出した石を布で丁寧に磨き、何かを確認してはまた掘る。
それはヴェスペラにとってあまりにも地味で、あまりにも意味が分からない行為。
そして何よりも。
「退屈していなさそうなのが気に入らないわね」
森の魔女はその退屈さゆえに、自分以外の誰かが満ち足りているように見えるのが嫌いだった。
だからほんの少しだけ、退屈しのぎにからかってやろうと思ったのである。
「ごきげんよう、何をなさっているのかしら?」
男の前に降り立ったヴェスペラは、わざとらしく丁寧に微笑みかけた。
その声に男が振り返る。どこか不思議な雰囲気はあるものの、どこにでもいるような面白みのない顔をした青年だった。
「古いものを探しているのです」
男が感情のない声でそう答えた。
より意味が分からなくなった。
「古いもの?」
「はい、古いものです」
「古いものねえ……。私はこの辺りに二百年は暮らしているけれど、そんなに珍しいものなんか見た事ないわ」
「二百年よりもっと古いものです。千年以上は昔になるでしょうか、古代文明の遺物と呼ばれるものです」
「あら、そうなの」
そうなのとは言ってみたが、ヴェスペラは古いものなどに興味は無かった。
それよりも、目の前の男が自分の事を知らない上に特に興味も示さないまま作業に戻ったのが気に入らなかった。
「自己紹介がまだだったわね。私はヴェスペラ、この森に住む魔女よ」
「私の名はロワです」
男は名前を名乗ったが、今回は振り向きもせず土を掘りながらの返事だった。
その態度にヴェスペラは業を煮やし語気を強める。
「ちょっとあなた! この私が話しかけてあげているというのに、その態度は何!」
「お気に障ったのならば申し訳ありません」
再びロワがヴェスペラを見た。しかしその顔からはやはり何の感情も感じられない。
「あらそう」
ヴェスペラが指をパチンと鳴らした。
魅了の魔法。森の魔女が最も得意とするこの魔法はあらゆるものを魅了する。人間も獣も、性別を問わず彼女の虜にならなかった者など今まで存在しなかった。
――そう、今までは。
魔法は確かに発動した。それなのに、目の前の男は相も変わらず土を掘っている。
「えっ、嘘」
再び指が鳴った。
魔法が発動していないわけでも、魔力が弱まっているわけでもない。試しに近くを飛ぶ小鳥に魔法をかけてみたらちゃんと言う事を聞いたのだから。
なのに何度やってもロワは全く魅了される様子が無かった。
「あの」
「ほえっ⁉」
焦っていたところに急に声をかけられ、ヴェスペラは思わず変な声を出してしまった。
「申し訳ありませんが、作業に集中したいので」
あまつさえこの言葉。
ヴェスペラは恥ずかしさと怒りで顔が真っ赤になった。
「こ、この私にこんな屈辱を……。許せない!」
怒りに燃えるヴェスペラは考えた、この男に思い知らせてやると。それにはどんな目に遭わせてやれば一番気分が晴れるのかを。
森の魔女にかかれば魔法でこの男を吹き飛ばすなど造作もない事だった。しかしそれではあまりにもあっけない。男の探している物をきれいさっぱり消してしまおうかとも思ったが、男が別の場所へ行ってしまえばそれまでだ。
やはり人が絶望するのは文字通り希望が絶たれた時だろう。
ならばやる事はただひとつ。どんな手を使ってもこの男を魅了し、自分に夢中になったところで容赦なく突き放す。涙に暮れる姿を見下ろした時、ようやくこの気持ちが晴れるのだ。
そうと決まれば、ヴェスペラはさっそく行動に移る。
一日目。
ヴェスペラは作業に勤しむロワの近くでわざと転んで見せる。
「あいたた……。足を挫いてしまいましたわ」
自慢の美貌を活かし、可能な限り色っぽい……とヴェスペラが考える仕草で魅了する作戦だった。
「大丈夫です、外傷はなく骨にも筋肉にも異常は見られません」
しかしロワは動じることなく冷静に診断した。
医療の心得でもあったのだろうか。何にせよ、この作戦でロワがヴェスペラに感心を持つ様子は見られなかった。
二日目。
今日も土を掘り続けるロワにヴェスペラが正面から話しかけた。
「知っている? この辺りには世にも珍しいキノコが生息しているの。ただしそれによく似た猛毒のキノコも生息しているから注意が必要よ。その見分け方は――」
「存じております。しかし研究者でも時には間違えるほどのものですから、安易に判別するのは感心いたしません」
「あ、あらそう? じゃあ……」
今回は自慢の知識で関心を引くつもりだった。
しかしどういうわけかロワの知識は凄まじく豊富で、この森に関する事ですら百年以上暮らしている自分よりも詳しかったのだ。
三日目。
ヴェスペラは作業を続けるロワの前に荷物を広げる。
「ふふ、どうかしらこの料理の数々は。あなたのようなみすぼらしい人間には縁のない美食でしょう?」
今回は胃袋を掴む作戦だった。
今までに贈られたものや本で読んだ知識を参考に料理を再現し、不格好な所は魔法でカバーした自慢の高級料理の数々。並べた自分もおなかが空いてくるほどの出来栄えだ。
「あなたさえ良ければ、召し上がってもよくってよ?」
「それは有難い事です。では、遠慮せずにいただきます」
いつもとは違う男の反応にヴェスペラは色めき立った。あくまで表面上は平静を装って。
こちらに近付いてきたロワは作業の手を止め、どこからか不思議な道具を取り出した。
「あら、それは何かしら」
「これはミキサーと言います。発掘した古代の道具ですよ」
そう言うとロワは料理の一部を手に取ると、ミキサーと呼ばれる大型のカップに放り込んだ。何かが回転する音が森に響き渡った後、ミキサーの蓋が開かれると……そこにはかつて料理だったドロドロの物体があった。その見る影もない液体をロワは一気に飲み干し、再び作業へと戻るのだった。
「ごちそうさまでした、ありがとうございます」
「……」
呆気にとられるヴェスペラ。あの様子では料理の味など残ってはいないだろう。
作戦はまたしても失敗に終わった。
四日目。
今日も今日とて土を掘るロワの前にヴェスペラが飛び出す。
「ばあ~!」
ちょっとお茶目な所を見せるつもりだった。
しかし、そんなヴェスペラを一瞥し、一度だけ頷いてから作業に戻るロワを見て猛烈に恥ずかしくなり後悔に苛まれた。
顔が熱い。汗と細かな震えが止まらず、視界も涙でぼやけてきた。
思えば、今までは魔法で何でも簡単に解決してきたのだ。魔法の利かない相手に対しどう接していいかなど見当もつかない。ましてや気のない相手の気を引く? 魔法も無しにそんな事ができるのだろうか。
そんな事を思ってしまったヴェスペラは、急に自分が世の中の誰よりも劣っているような気がしてその場にへたり込んでしまった。
「大丈夫ですか?」
声に反応しふと顔を上げると、ロワが目の前に立っていた。
ピタリと水筒が頬に触れた。
「……あなたは、可愛らしい人ですね」
この時、初めてロワが微笑んだような気がした。
ボワッと何かが弾けた。顔が熱い、ついさっきまでとは違う理由で。
「えっ、あ、っと……」
わけがわからない。飽きるほど言われたはずの言葉でなぜこんな事になるのか。
思わず受け取った水筒を持ったまま、上手く声が出ない自分に気が付いた。
「少し熱があるようですね、水をどうぞ」
「はっ……、ふぁい……」
受け取った水を一気に飲み干した。それでもまだ熱が引く様子はないようだ。
それからというもの、ヴェスペラとロワはなんとなく距離が近くなっていた。
ロワは変わらず感情を見せないまま土を掘り続けているが、ヴェスペラがやって来た時には作業の手を止め話をするようになった。
ヴェスペラもまた、退屈しのぎにロワをからかうという名目でお茶を用意し、暇があればロワの邪魔にならない程度に会いに行くのであった。
「ねえ、あなたも本当は魔法使いなんじゃないの?」
お茶会の中でヴェスペラがそう言った。
あの時、人生で初めて感じた理解しがたい感情は何だったのか、いまだに理解できないでいる。それこそ魔法をかけられたのではないかと思ったからだ。
「いいえ、違います。魔法というものが存在しているのは知っていますが、私には使う事ができないのです」
「そうなの? 簡単なものなら子供だって使えるのがいるっていうのにね。あなたに魔法が効かない事と関係があるのかしら」
「私に魔法をかけた事があるのですか?」
「え? んー、ううん、ないよ?」
ちょっぴり嘘をついた。
しかし魔法を使われたのでないとすればあれは何だったのか、魔女の悩みはより深くなった。
ふいに、ロワの手がヴェスペラの口元に触れた。
「ひょわぁあ⁉」
その瞬間、ヴェスペラは思わず奇声を上げて後ろにひっくり返ってしまった。
「あっ、申し訳ありません。お菓子の欠片がついていたもので……」
謝りながらロワがヴェスペラを抱き起こす。
「本当に、いきなり触れるなど無礼でした」
「はい……、はひ……?」
またあの症状だ。顔が熱くなり声が出せなくなる。
どう考えても魔法以外ありえないと思えた。それでいて不思議と不愉快ではないこの感情をどう扱えばいいのかはわからない。
しかし、少なくとも退屈ではないこの日々にどこか満足している自分がいた。
――そんなある日。
その日は森が騒がしかった。
いつものようにロワの邪魔をしに行く準備をしていたヴェスペラであったが、家の前に大勢の足音が聞こえ手を止める。
「魔女め、出てこい!」
ヴェスペラを呼ぶ怒鳴り声が聞こえる。もちろんロワのものではない。
もっとも、ヴェスペラにとってこんな事は珍しくもない出来事のひとつでしかなく、今回もまたそうだと高をくくっていた。
「あら、知った顔ね。えーっと、誰だっけ」
外に出たヴェスペラを複数の武装した兵士が囲んでいる。その中心にいる男に見覚えがあった。
「貴様ぁ……。コリンズだ、忘れたとは言わせんぞ!」
「ああ、思い出した」
顔と名前が揃った事で思い出した、確か以前に飽きて捨てた貴族の男だ。
「それで、何の用?」
「決まっているだろう、お前を捕らえに来たのさ」
またか、とヴェスペラは思った。
この手の輩は多い。自分に飽きさせないだけの魅力がないのを棚に上げ、捨てられた仕返しに来る男のなんと多い事か。中でもこいつは自分の都合でしかものを考えない最悪の部類だったと記憶している。
つまらない男の相手をしている暇など無い。今回も魔法で手早く済ませてしまおう。
そう思った時だった。
兵士のひとりが高く放り投げた瓶が破裂し、周囲に細かな粉末が拡散していった。
「……これは、魔封じ⁉」
気付いた時には遅かった。
魔法を封じられた魔女ほど脆いものは無い。抵抗する暇もなく、ヴェスペラは複数の兵士たちによってあっけなく組み伏せられてしまった。
「いい格好だな、魔女が」
「くっ……」
コリンズは動けなくなった魔女を下卑た笑顔で見下ろしている。
と、そこへ近付く者があった。
「これは、何をしているのですか」
現れたのはロワだった。
どう考えても最悪のタイミングだ。醜態を晒しているところを見られたくなかったという点でも、殺気立った武装した兵士たちに囲まれているという点でも。
「なんだ、貴様は」
コリンズがロワを睨みつけた。
「私は彼女の友人です」
いつも通りの平然とした様子でロワが答えた。
するとコリンズがニヤリと笑った。
「ほほう」
それを見たヴェスペラに悪寒が走った。この下劣な男が何を考えているかわかってしまった。
「待っ――」
しかし、組み伏せられているヴェスペラにはどうしようもなかった。
コリンズが手で合図を送った瞬間、何本もの矢がロワの体を貫いた。矢を受けたロワはフラフラと後ろによろめき、木にもたれかかるように倒れ動かなくなった。
「いやあああ!」
魔女の叫びも空しく、ロワがその声に応える事は無かった。
「言いザマだな、俺はお前のその顔が見たかったぞ。……連れて行け!」
コリンズの言葉と共にヴェスペラの頭へ痛烈な一撃が加えられ、魔女はそこで漆黒の闇へと意識を沈められた。
次にヴェスペラが目を覚ました時、そこは薄暗い牢の中だった。
殴られた傷が痛む。魔封じの鎖に繋がれ身動きができない中で、ヴェスペラは昔を思い出していた。
かつて、まだ魔女として恐れられる前の事。仲の良い友人たちも多く、退屈など縁遠かった日々。それらはとても美しく、そして脆かった。老いる事の無いこの身は多くのものを置き去りにしてしまう。いつしか魔女は誰かと深く関わる事を避け、魔法で全てを好きにできると傲慢になっていった。
退屈なのは自分自身のせい。冷たい牢の中でそう思った。
あの男、ロワもまた自分を置いて行ってしまった。しかし、今のヴェスペラにとっては悲しみよりも後悔の念が強かった。
彼も、私に出会わなければこんな最後を迎える事はなかったはずだ。
私も、彼に出会わなければこんな気持ちにならずに済んだはずだ。
涙がとめどなく溢れ、傷付いた頬を濡らした。
「これはいけない、手ひどくやられてしまいましたね」
「……え?」
その時、信じられない事が起こった。
顔を上げると……牢の前に死んだはずのロワが立っていた。
もちろん嬉しいは嬉しいのだが、この時は幽霊でも見たような驚きの方が勝ってしまった。きっと間の抜けた顔をしていたのだろうと後から思うくらいには。
「え、ちょ、ロワ? どうしてここに……?」
「失礼だとは思いましたが、緊急事態だと判断し発信器を付けさせてもらいました」
「いや、そうじゃなくて。……はっしんき?」
「話は後です。守衛を眠らせてはいますがいつ起きるか不確定です、急ぎ外へと出ましょう」
そう言うとロワは牢の鍵に触れ、いとも簡単に開けてしまった。同様に魔封じの鎖も外し、あっさりとヴェスペラは自由の身となった。
気になったのはその方法だ。なぜならロワの指先が紐のように解け、スルスルと鍵穴に入って錠を外していたからだ。
「あなた、一体……」
声をかけようとしたが、同時に誰かの声が被ってきた。
「貴様、何をやっている!」
間の悪い事に、ヴェスペラの様子を見に来たコリンズと鉢合わせしてしまったようだ。
魔法で対処しようとするも、腕に食い込んでいた魔封じの鎖の影響が残っており上手く魔法が発動できない。
そんな間にもコリンズはロワの顔に気付いたようだ。
「貴様は……⁉ 死に損ないめ、今度こそ葬ってやる!」
言うが早いか、素早く抜かれたコリンズの剣がロワ目掛けて振り下ろされた。
しかし、結果としてその場にいた全員が驚愕する事となる。
バッサリと斬り付けられたはずのロワは血の一滴も流すことなく、そもそも傷すら付いていなかった。そしてロワは静かに剣を手で受け止めると、あっという間にその刀身をバラバラに砕いてしまった。単純な力などではない、何か不思議な技によって。
「なな、何なんだよお前!」
「……あなたは少々乱暴すぎます。大人しくしていてもらいましょうか」
「や、やめろぉ!」
コリンズの叫び声が響く中、ロワの紐のように枝分かれした指先がコリンズの首元に触れた。一瞬の閃光の後、コリンズは髪をチリチリに焦がし白目をむいた状態で煙を上げながらゆっくりとその場に崩れ落ちた。
「殺したの?」
「いいえ、私は人を傷付けるようにはできていません。これは……そうですね、医療行為と言う事にしておきましょう」
「ふふっ、何それ」
「さあ、ここから逃げましょう」
二人は牢から手に手を取って逃げ出した。
少しは追手があったものの、しばらくしてヴェスペラの魔力が回復した事で相手も諦めたようだった。
ようやくたどり着いた森の家は、わずかに離れていただけなのになぜだかずいぶん懐かしく感じられた。
「ねえ、あなたは何者なの?」
ヴェスペラは改めてロワに尋ねた。
ロワは少し考え、真っ直ぐにヴェスペラを見つめながら答えた。
「私は人の手によって造られた半機械生物、人造人間なのです」
「それってゴーレムみたいなもの?」
「ゴーレムというのがよくわかりませんが、おそらく近いのでしょう。古代の遺物を探していた私自身が古代の遺物だったわけです」
どうりで魅了の魔法が効かなかったわけだ、とヴェスペラは一応の納得をした。
もっとも、そんな事よりもずっと気になる事があった。
「えっ、ちょっと待って。古代の遺物って……、あなた千年以上生きてるってこと?」
「ナノマシンによる補修や太陽光充電、更には遺物から使えそうなパーツを集めては利用していますが、千年以上活動しているのは確かです」
この言葉はヴェスペラをとても驚かせた。
「凄いわね……。私、百年以上生きてからは年上に会った事がなかったのよ」
「そうでしょうね。私も年上の方には会った事がありません」
「でも、それって素晴らしい事だわ。だって――」
ずっと一緒にいられるから、そう言いそうになって慌てて口を塞いだ。まだそこまでの勇気は無かった。
しかし――
「ですが、もうあまり時間は無いかもしれません。私の動力である超高密度電池が限界を迎えようとしているのです」
「え? ……それってどういう事なの?」
「私の機能が停止するという事です。機械部分の機能が停止すれば生体部分もまた朽ち果てるでしょう。そうならないために各地を巡り、代わりになりそうな電池を探していたのですが……発見には至っておりません」
「そんな……」
ヴェスペラの目の前が暗くなった。
探し求めた財宝が目の前で消滅したような気分だった。
だが、彼女は思い出した。自分が何者であるのかを。
「……いいわ」
「はい?」
「私があなたを助けてあげる。その「でんち」とかいうものも見つけてあげるわ、だから私にも遺物や機械の事を教えてちょうだい」
「ですが」
「ですが、じゃないの! この私が言ってるのよ、できない事なんか何も無い偉大なる魔女様がね!」
ヴェスペラは叫ぶようにそう言った。ロワに、何より自分に言い聞かせるように。
森の魔女は偉大な魔女、できない事など何も無い。ならば、長く退屈な人生に光を灯してくれそうなこの人物を助ける事だってできるはずだ。
「ふふっ……」
そう必死なヴェスペラを見て、ロワが少しだけ微笑んだ。
「やはり、あなたは可愛らしい人ですね」
「……はひっ」
万能の魔女も、これにばかりは耐えるのに時間がかかりそうだった。
***
――こうして、魔女は森から姿を消した。その行き先は誰も知らない。
ただ、後に古代史において多大な貢献を称えられたとある男がいた。
その男が各地で機械の化石を発掘する際は、いつも仲睦まじい様子の妻が付き添っていたという。その妻が件の魔女に似ていたとかいなかったとか。
どちらにせよ、魔女はもう退屈だなどとは言わないのだろう。




