#11
乱れた髪を軽く直しながら、彼は微笑んだ。
「おかげさまで。品場さんもお元気そうで安心しました」
またお互い少し老けたはずだけど、以前より若々しく見えるのは何故だろう。
数年ぶりに会った影山は憑き物がとれたように朗らかに笑った。
「暑くて仕方ないけど、やっぱり外の空気って良いですよね。でも久しぶりのシャバって緊張するな~。コンビニ入るのすらどきどきしちゃいましたよ」
冗談ぽく話す彼に苦笑し、一番見晴らしが良い屋上へ案内した。普段は閉鎖しているが、今日は特別だ。
「中々良い場所だろ」
「えぇ、本当に」
辺りは住宅が密集しているが、遠方には大きな山が見える。夕暮れ時はもっと素敵な景色になると伝えた。
「起業したのはびっくりですけど、納得のいく場所が作れたんですね。お疲れに見えるけど、前より断然活き活きしてますよ」
影山は自分の目の下を指さした。そんなにクマがすごいのだろうか。鏡がない為確認できないのがもどかしい。
「今日退居したんだよな。悪いな、すぐに行けなくて」
「全っ然。それに約束したでしょう。必ず俺から会いに行くって」
フェンスに手をかけ、彼は下を指さした。
「落ちる所まで落ちたので、ゴールを見つけるのは意外と簡単でした。上を見ればいいだけなんですよね。何度間違ってもひとつずつクリアしていけばいい。貴方が言っていたとおり」
下を見る影山とは反対に、品場は空を仰いだ。ちょうど飛行機雲が一本に伸び、世界を両断していた。
「桜も見ることができた。約束は二つとも守れましたね」
「それはノーカウントだな。花見はちゃんとしないと」
「ははっ。分かりました。これからはどこでもついていきますよ」
病は、緩和はされても完治はしない。この先もずっと、死ぬまで正体不明の悪意と闘うことになる。
それでも生を噛み締めながら笑い合えている……これだけで充分、涙が出るほど嬉しかった。
傷つくこと、傷つけることが怖くて、中々距離を縮めることができなかった。でももう遠慮はしない。
彼が自分を見失うことがないように、これからはちゃんと傍で見守っていく。支えていく。
影山を待ち続けた時間は苦しかった。だけど、影山が自ら行方を晦ました時の空白に比べればずっとマシだった。会えなくても、声が聞けなくても、彼も必死に光をさがしていると分かっていたから。




