#10
イベントの実行委員はちゃんと選別していたが、協力者の依頼や調整、必要物資の発注や人員配置はほとんどやる羽目になった。小規模の開催でこれほど忙しかったら、夏祭りはどうなってしまうのだろう。想像したらおかしくなってしまいそうなので首を横に振った。
事前に知らせていた元同僚も来てくれたので、その後は挨拶周りに追われた。足元はふらふらだが、見渡すと誰もが笑っている。
最終的なゴールはまだ決まっていない。けどこの声をまた聴くために、前に進むのだろう。
設定すべき目標は、「彼」が戻ってきてから、彼と一緒に決めるのだ。
「水分は摂りましたか?」
近くの木陰で佇んでいると、ミネラルウォーターのペットボトルを鼻先に向けられた。その時は驚いたが、努めて冷静に受け取る。直前までクーラーボックスに入っていたのか、水が滴ってきらきら光っていた。
「春の訪れ、って陽気じゃありませんね。完全に夏ですよ」
「……そうだな」
同じように木陰に入った青年は掌を団扇がわりにし、風を送っている。暑そうにシャツの袖を捲り、もう一本の水を飲んだ。
馴染みのない眼鏡を掛けているせいか、最初は分からなかった。いや、またちょっと痩せたように見えるし、眼鏡を掛けてなくてもすぐには分からなかったかもしれない。
「俺、今日ここでお祭りやるって手紙に書いたったっけ?」
「いいえ。自分で調べてきました。品場さん仕事してるかなぁと思って……だから抜き打ちチェックです」
笑って話す彼は相変わらずだ。数年ぶりに顔を合わすのに、昔と全く変わらない。まるで数年前に戻ったような。
「大丈夫ですか、ちょっと痩せました? 顔色も悪いような」
「その台詞、そっくりそのまま返すよ。ていうか顔色悪いのはこんな暗い所にいるから」
彼の腕を掴み、日なたに引き寄せた。桜の花弁が一斉に宙に舞う。互いの髪と服に張りついて、春の訪れを告げていた。
色鮮やかな景色の中に、顔色の良い彼が居る。
「ほら。明るくなったじゃないか。……影山」




