#4
自分が抱える仕事が落ち着いた頃……というと、もう季節が移り変わってしまっていた。
冷房が恋しい夏の季節。品場は影山が勤めていた施設に立ち寄り、ある物を譲り受けた。それを車の後部座席に慎重に置いて、カーナビに従いながらある病院へと向かった。
「突然お伺いして申し訳ありません。……行木さん」
窓際の椅子に腰掛けていた青年は、虚ろな瞳を品場に向けた。投薬も終わり、安定期に入った行木だった。個室の為特に周りに気を遣う必要もなく、品場は自己紹介とここへ来た経緯を説明した。不思議と、初対面とは思えなかった。
影山を慕ってくれていた相談者。そして、影山の為に罪を犯してくれた人。
今は不起訴となった為、病状さえ良くなれば社会復帰ができる。しかしそれは随分先の話だろう。まずは退院し、また施設の生活に戻って自立を目指す。品場は鞄の中から自分が信頼できる支援施設のパンフレットをいくつか渡した。あんな事件が起きた以上、彼は以前の施設に戻りづらいようで、新しい居場所を探していると病院から聞いたからだ。これは自分の仕事とはまるで関係なく、完全に私情が入ってしまっている。
「今手元にある資料はそれだけなんですが、他にも案内できると思うので……なにかお困りごとがあれば、遠慮なく仰ってください。それともうひとつ……お渡ししたいものがあります」
品場は部屋の壁に立て掛けていたキャンバスバッグを行木の元へ持っていった。
中から取り出したのは、青い色に沈む、展望台の絵。
それまで一言も発さなかった行木が口を開いた。
「影山所長の……絵」
「はい。影山から伝言を預かっています」
彼はキャンバスを受け取った。大した重さではないが、一応傍で支える。行木の腕は成人男性とは思えないほど細かった。
彼をここまで変えてしまったのは、影山に他ならない。
彼はこの罪も一生背負っていかないといけない。例え行木が以前のように戻れたとしても、決して忘れてはいけないことだ。
「……直接渡すことができなくてごめん。今まで本当にありがとう」
傍に佇みながら、静寂を殺さないように告げた。
「行木さんに伝えてほしいと、最後に面会に行った時に頼まれました。影山はその後すぐ保護室に移されたので、今は警察関係者か、親族以外との面会は許されていません。ただ影山には身内がいないので、今も独りで考えていると思います」




