#2
遅かった。
何もかも終わってから会いに行くのは……我ながら酷いと思う。でもじっとしていることはできなかった。今も絶望の底にいるのなら、尚さら。
彼を助けることと、彼を止めることは同義だ。世界と人を憎んだ彼は、これから何をしでかすか分からない。急いで彼が務める施設へ向かって、それで……。
あっという間に時は流れた。影山は自らの罪を告白し、自分に別れを告げた。
一泊二日の小旅行は誰にも話していない。自分と彼にどのような関係があったのか……それすらも。
だが意識しなくとも、同じ業界にいればどんな些細な話は耳に入ってくる。ましてや企業の相談も取り扱う品場の事務所には、どこの団体よりも早くその情報が入ってきた。
「あーっ、品場さん! 例の支援施設、管理者が変わるみたいですよ。前の管理者が実は精神病のカテゴリーで、妄言と妄想、幻覚症状があったって。いや~……一緒に働いていた職員もよく気付きませんでしたね。この施設、皆揃ってやばくありません?」
部下が差し出した書類を受け取り、上からざっと目を通していく。
書面ではこんなにも淡々と、箇条書きで綴られてしまう。現実はもっと複雑で、想像を絶する苦しみがあるのに。
「施設長がカテゴリーの罹患者だったなんて、性的暴行よりビッグニュースになっちゃいますね。自ら入所者と肉体関係を持っていたらしいし……怖いなぁ。あ、さっそく関連施設から相談の申請がきてます」
デスクに紙が積まれていく。何で今どき紙なんだ。どうせデータ化しなきゃいけないのに……とため息をついて、椅子に凭れかかる。
「ビッグニュースか……」
一枚だけ机の端によけて、部下に聞こえないよう呟いた。
自分達の世界では確かにビッグニュースだけど、関係ない人達にはどの程度響くだろう。小さな施設の、怪我人は出たが死人はいない事件。管理者が特定疾病の患者で、虚偽の報告をしていた。もちろん一時はメディアから注目されそうだが、きっと世間の関心はすぐに移る。
施設の中とは、本当に閉鎖的な空間なのだ。その内情を完璧に理解することは外部の者には不可能。それまで関わりもなかった世界のことは、気になったとしても興味をなくすスピードが速い。それより皆、効果的な薬や治療法が発見されることを翹望している。
世界は相変わらず、崩れ落ちる寸前だ。




