#9
彼のように、独りで闘って限界を迎えた者は数え切れないほどいる。でも悪いのは、気付かなかった人達でも、病状を隠した患者でもない。この恐ろしい病だ。
自分を含め、誰のことも責めてはいけない。
人は一人では生きられない弱い生き物。そんなカビが生えた言葉を、今では誰もが忘れている。
「このふざけた闘病生活を終わらせよう。俺も最後まで付き合うから」
影山の唇を塞いだ。
すぐに離れようと思ったら、身体が動かなかった。彼も動くつもりはないようで、……ただ触れてるだけの、長いキスが続いた。
「……は、あぁっ」
影山は突然えづき、顔を両手で覆った。再び品場の鼓動が速まる。
「おい、大丈夫か?」
「すいませ……っ。大丈夫です。何か胸の辺りが苦しくなっちゃって」
青くなる品場に、影山は笑って手を振った。
「あ、心配しないでください。発作じゃないので」
「何だ……。どきっとした」
「あ、何か毎回驚いてくださってありがとうございます。品場さんを撒きたい時に使えそうですね、これ」
「撒くって何だよ、逃げようとしてたのか!?」
「冗談ですよぅ……でも苦しかったのは本当です。今も息苦しい。嬉しくて嬉しくて……全然知りませんでした。幸せも、度が過ぎると苦しいんですね」
口元を拭い、影山は微笑む。まだ涙は止まらず、両方の頬をぬらしている。
「俺は自分を許す必要なんてありません。だってそんなことしなくても、貴方が俺を許してくれるから。それだけで嬉しくて……何十年でも、何百年でも生きていけそうです」
ここに来て初めて聞いた、前向きな言葉。
……と言うより、何年ぶりだろう。品場は目を見張った。
「品場さんだけが俺を心配してくれた。そんな貴方まで傷つけて、愛想を尽かされるのが怖くて……何度も突き放したのに。貴方のメンタルは本当に強いですよね」
「って言っても、お前限定かな。俺も意外と打たれ弱かったから」
「あはは」
距離を置くと、影山は着ていたジャケットを脱いだ。
「お礼とお詫びは、何回言っても足りないんです。だから今日は別の言葉をお伝えします」
風に吹かれた桜の花弁が、彼と自分の間に舞った。
「……品場さんが好きです。愛してる。今まで不幸にさせてしまったぶん、幸せにしたい。そしていつかは、一緒に幸せになりたい」
こんな日が来たらいいと思った。……でも来るわけないとどこかで諦めていた。
やっと気付いた。自分の幸せも不幸せも、全て彼の中にあったんだ。




