#8
「優しくて、びっくりするほど弱い奴なんだと知った」
「弱い……」
「もちろん、ここの」
影山の胸を掌で押した。
「この仕事は理不尽に負けたら終わりだ。初めっから理不尽で成り立ってるんだから」
手を離し、彼の瞳の色を捉える。まるで昔のように、正面から彼を説き伏せていた。
また説教みたいだと怒られるかもしれない。それでも構わずに続けた。本当に伝えたいことは、この先にあるから。
「でも仕事以外で、初めて支えてやりたいと思ったんだ。上司と部下でも、先輩後輩でもない関係で」
「あ……」
そこでようやく察したように、彼の頬が赤くなる。
「俺はお前に告白するタイミングを逃し続けたんだ。まだその時じゃない……って踏みとどまっていたら、あっという間に六年が経った。時間が流れるのって速すぎるよな」
苦笑して彼の頬に手を伸ばすと、また冷たい雫が零れ落ちた。
「でも品場さん、それはほとんど告白ですよ」
「うん……」
「うんって」
影山は吹き出した。泣きながら笑っている。
「仕事の忙しさと苛立ちに追い詰められて……人に優しくすることを忘れていた時、お前に出逢った」
深く息をつき、踵を踏み鳴らした。さっきまでは見かけた人の列も、今ではほとんど見えない。
「考えるより先に助ける、ってことも忘れてた。でもお前が……車に轢かれそうになった俺を咄嗟に助けてくれたから、俺は今もこうして自由に動ける。人助けは、お前の中では当たり前のことなんだよ」
「そんなことありませんよ。品場さんは本当に、俺を買いかぶり過ぎです。あんまり煽てると調子に乗りますよ」
「良いよ。ずっと、そういうお前が見たかった」
品場は笑いかけて、影山の背中に手を回す。彼を自分の腕の中に閉じ込めるように、強い力で抱き締めた。
「昔を思い出せ。お前はひたすら頑張って、ヘマをして、……笑ってた。それで良いんだよ。変わる必要なんてない」
「本当に……そうでしょうか。俺は生きてる限り誰かを傷つける。昨日だって貴方に八つ当たりしてしまった。手当り次第に怒りをぶつけて、後悔や反省は一日遅れでやってくる。こんな人生……早く終わらせた方が良い」
「終わらせるのは病気の方だ!」
喉が張り裂けそうなほど叫んだ。影山は驚いているが、構いやしない。彼はずっと闘ってきた。誰も知らなくても自分だけが知っている。




