#7
凍てついた風が彼の髪を揺らす。視界も小刻みに揺れていた。
てっきり影山が震えているのかと思ったが、……品場自身も、はっきり感じ取れるほど震えを起こしていた。
「今なら言えそう」
「な、何を?」
「全部です。初めて会った時は不安定で危ない人だと思った。頑固で真面目そうで、典型的なワーカーホリックなんだろうなぁって。仕事で会った時は、ちょっと冷たく見えた。でも関わってみたらやっぱりあたたかくて。俺が知らない熱をくれる人で。何だかおかしくなりそうでした」
わずかに腰が引ける。幸い通行人はいないけど、大の男二人が額を付き合わせて佇んでいる光景は滑稽だ。
でも、彼を引き離すことができない。影山は瞼を伏せたまま言葉を紡ぐ。
「人格変化だろうとなんだろうと、貴方の優しさを裏切ったのは事実です。六年前里川さんの誘いに乗った時、無理やりでも縁を切らなきゃって思いました。けど貴方が追ってくるから……正直に言うとおののきましたよ。こんなに俺に執着する人は今まで一人も居ませんでしたから」
笑い声が混じり、影山の肩が震える。だが彼の手は、品場の腕をしっかり掴んでいた。
「品場さんがしつこく追ってくれたから、俺は今めちゃくちゃ幸せなんですよ。結局大きな過ちを犯してしまったけど……貴方と会えて本当に良かった。生きてて良かった。本当にありがとうございます」
手が離れる。身体も離れ、影山の顔が視認できるようになった。
彼は引き攣った笑顔を浮かべている。
「今まで何か恥ずかしくて訊けなかったんですけど、何でそんなに俺だけを追ってくれるんですか? まさか本当に嫌がらせじゃないですよね?」
「あぁ……違うよ」
さすがに、以前話した内容は冗談だ。否定して、彼から視線を外す。
「お前のことを知ろうとした矢先に、お前がいなくなったからかな。知りたいと思った理由は」
理由は……。
再び影山を見つめる。彼は開けていた口を閉ざし、こちらの回答を待った。
影山のことを知りたいと思った、理由。
「思い出した。すごい変な奴だなって思ったんだ」
「えぇ、何ですそれ」
「いや、最初は正しい奴だと思った。正義感に酔ってるポジティブの代表格みたいで、見てるのは飽きなかったよ。けど正しいことを正しいと主張する力は無いんだな、って思った」
腰に手を当て、ぐっと仰け反る。変な姿勢をとっていたせいで身体が痛い。まだ歳ではないと思いたいけど、影山と比べたら老体かもしれない。




