#6
これまで自殺企図があった相談者は、病院へ受診させることが義務だった。ただでさえ手のかかる人を相手にしているのに、ナイフを振り回したりオーバードーズする者の面倒まで見る余裕はない。最悪強制入院となり、帰ってきたときには放心状態のまるで廃人……ということがよくあった。
入院して、良くなることの方が少ない。何故ならこの世界の病院は患者を治療する為ではなく、大人しくさせる為のものだから。
自殺したい意思を奪い取れたら治療完了。別人のようになって、家族の元に帰る。……それがまかり通ってしまう。
違う。こんなことはおかしい、と誰かが手を挙げて叫んでも、毎日飛び込んでくる新しいニュースに掻き消されてしまう。国の制度を変えることは、人を救うことよりずっと難しいのだ。
極力影山を病院に入院させたくなかった。けどもうそんなことは言ってられない。壊れていくしかない彼に自分がしてやれることは……もう何も残っていないから。
「一番最初にこの病気に罹った人は、どんな気持ちだったんでしょ」
「え?」
「誰も知らない病気。解明されてない病気に罹った人は皆ぶつかる痛みだと思うんですけど、誰にも原因が分からない、誰にも苦しみを理解してもらえない……出口が見えない。死ぬほど辛いことですよ。死ぬほど、って口で言うと軽くなっちゃうけど、本当に死んだ方がマシだと思う……苦しみ。死んじゃ駄目、生きなきゃ駄目、って言う人達の喉を片っ端から切り裂いていきたい苦しみ。悲しみ。……怒り」
影山は深いため息をついて俯いた。
「暗いことなら朝まで考えられる。この病を完全に消滅させる為に、いっそ人類は皆滅亡して世界をリセットした方が良いんじゃないか、ってね」
「影山」
「品場さん」
こちらを向いて対面した彼に、強い力で引き寄せられる。何をするのかと思ったら、額に小さな衝撃が走った。
視界が暗い。でも温かい。影山と、互いの額を合わせている。
「こんなことを言う俺を許さないで」
両方の頬に手を添えられていた。影山の吐息が直にあたる。足元には数滴の雫が落ちた。
「許さないで。許しちゃいけないんです。病気だから、だから何でも許されるわけじゃない。人を傷つけたこと、傷つける言葉を吐いたこと、全部裁けない罪だ。貴方は俺を許しちゃいけない。こんなにも長い時間縛り付けて、酷いことを言って傷つけたんだから……!」




