#5
「恋人みたいですね」
手を揺らし、影山が肩を揺らしながら笑った。
「なら良いけどな。これは単純に、迷子防止だから」
「俺は勝手にどこかに行ったりしませんよ」
「嘘つけ。いなくなってばっかりだろ」
公園に戻り、正面の並木道で足を止めた。
「やっと見つけたと思ったらどこかに消えて。これからまた、俺の前からいなくなる」
握る手に力を込めた。強過ぎて自分でも痛い。影山はもっと痛いだろう。男とは思えないほど細くて小さい腕をしているから。
この手を離したら、彼は何の迷いもなくどこかへ消えてしまう。
自分が過干渉なことは分かっている。いっそ彼と縁を切った方がお互いの為かもしれない。だけど、自ら暗い世界に行かないか……それだけが心配だった。
暗い時はどこまでも落ちていける。それが人だ。
「……相談者と関わることが、俺の全てだったんです」
方向を変え、今度は影山に引っ張られた。人気のない城のお堀の前に連れていかれる。そこでも充分、ライトアップされた桜を眺めることができた。影山は幾分リラックスした様子で、近くの石灯籠に寄りかかる。
「所詮仕事の関係だってことは分かってます。でも人に頼られたことが生まれて初めてだったから嬉しかった。……いや、縋られたのが嬉しかったのかな。それこそ聖人にでもなったような気分で、うんうん頷いて聞いてました。案件が上手く片付いたら人命救助をしたようで、どんどん驕傲になった。仕事のやり甲斐、っていうのは悦に入ることなのか。分からなくなって、自暴自棄になって。そのツケが回ってきたんです」
品場も歩いて、影山の真隣に移動した。互いに仰いで夜桜を見物する。
「人の希望をコントロールする、汚い人生だった。後半はもうひたすらゲロまみれ」
「そこまで卑下すんなって」
「俺を介抱した品場さんが一番よく知ってるでしょう」
影山はそれから「ありがとうございます」とお礼を言った。
「俺みたいな奴が真の社会不適合者だ。ニートなんて本当生温いですよ。誰かを傷つけた瞬間から、二度と戻れない一線を越えるんです。警察に捕まらなくても、完璧に証拠を隠滅しても、自分の心に消えない汚れがべったりつく」
彼は自分の胸元を強く掴んだ。シャツがぐしゃぐしゃになるのも構わず、手を離そうとしない。
罪悪感で人は死ねる。人を殺した者が罪の意識に耐えられず自害するように、簡単に踏み外すことができる。
だからずっと影山と一緒にいた。けど、彼は耐えられなくなると自分を殺してくれと頼んだ。




