#4
「お前が好きなこともやりたいことも、全部お前のものだ。それをとやかく言う権利は他人にはない。こんなクズみたいな世界でも、皆思いっきり楽しむ為に生まれてきてるんだよ」
品場は大通りを顎で示した。老若男女、さまざまな人が歩いている。共通しているのは、誰もが笑っていること。
「そういうことが言えるのは……明るい人の特徴です」
影山も人だかりを見つめながら、消え入りそうな声で呟いた。
「ポジティブな人には何を言っても前向きな答えが返ってくる。ネガティブな人は」
「何を言っても後ろ向きな答えが返ってくる」
「今の子どもが一番最初に教わることですね。今の俺は……駄目です。素晴らしいことを言ってるのは分かります。真っ白な時だったら感銘を受けたと思います」
影山は自嘲的に言って迂回した。どんどん静かな道へ入っていく。
「本当は嬉しい。励ましも慰めも、そこまで言ってくれる貴方の優しさも。でもその喜びが、見える位置に上がってこないんですよ。ずうっ……と深い水底に沈められたみたい。深海が光の届かない暗黒の世界なら、俺ぐらいのステージに入った人は皆こんな視界なんでしょうね」
住宅地を横断する川に差し掛かると、影山はその柵に掴まり下を見下ろした。
「落ちるなよ」
一応釘を刺すと、彼は頷いた。白い月が顔を出している。闇が彼の裾を引っ張っている。
「品場さん、これ以上俺と一緒にいたら貴方の精神状態が悪化します。今の俺は歩く病原菌ですから」
「その心配はない。何十何百って患者を傍で見てきたんだ。今さらお前ひとり抱えたって影響はないよ」
「俺の暗さなんて何の問題もないって?」
彼の瞳から色が消えた。まずい……と片足を前に出した瞬間、甲高い笑い声が響いた。
「あははっ。急にすいません、何だかおかしくって。ふふっ……大丈夫ですよ、……まだ」
影山は額を押さえながら笑っている。一瞬本当に焦ったが、大丈夫だったみたいだ。まだ、昼の彼のまま。夜には傾いていない。
「すいません……大丈夫……」
でも、指先がわずかに震えている。居ても立ってもいられず、彼の手を握り締めて歩き出した。
「品場さん……?」
通りに戻り、人を掻き分けて進んでいく。影山と手を繋いでいることは気にならなかった。わざわざ自分達に注目する者もいない。カップルらしき同性二人組もたくさん見かけるし、観光地の方が堂々と歩きやすかった。




