#1
「祭りか……」
それこそ意外な要望だったが、彼が乗り気なのに無下に断ることはできない。少し考えて、それから指を鳴らした。
「桜を見に行くか」
「桜? もうさすがに終わりでしょう」
昨日、折りしも五月の一週目に入ってしまった。困った顔をする影山とは対照的に、品場はスマホを弄る。
「いや。もっとずっと上に行くんだよ」
「あぁ、なるほど。東北は今が見頃でしたね」
「近くで屋台とかいっぱい出してる所に行こう。さすがに大変だから新幹線でな」
即決して、即行動した。チェックアウトしてから東京駅に向かい、北陸新幹線の切符を買う。ホテル代を負担した為か、切符代は影山が払った。
「指定席で良いですか?」
「グランクラスでも困らないけど」
「俺が困ります。安月給なので」
ビールだけ買って、隣り合わせの席に座った。今朝起きた時には考えもしなかった状況だ。落ち着かない為ビールを飲んで、無理やり焦燥を抑え込む。
「しばらく誰とも旅行なんて行ってなかったんだけど、まさかお前とこうして出掛けるとは思わなかった」
発車した後は喧騒も途絶え、車内に静寂が漂う。影山は何も言わず微笑んだ。
三時間近くかけ、目的の駅に到着した。昼時も過ぎ、大勢の人が忙しなく動いている。
影山がまだ食欲がわかないと言うので、昼はとらずにタクシーで桜の名所へ向かった。ドライバーの中年の男性は感じ良く、お勧めの観光地を丁寧に教えてくれた。
タクシーから降りると、さっそく桜の絨毯が敷かれていた。大きな公園を囲うように植えられた桜の木が観光客を出迎えて、風が吹く度に花弁を散らす。
「じゃあ、良い休日を」
「ありがとうございました」
御礼を言い、他の観光客の後について公園に入る。予想通り、この時期この公園はたくさんの屋台が出て縁日のようだった。
「賑やかですね。子どももいっぱい」
「あぁ。俺は来たことあるんだけど、お前は初めて?」
「俺は初めて来ました。それより品場さん、来たことあるなら退屈では……大丈夫ですか?」
影山は歩く速度を落とし、わずかに眉を下げた。
「全然。桜は毎年見たいし、前に来た時は雨が降ってたんだよ。傘さして歩くのすごくしんどかったから、今日は晴れてて良かった」
枝垂れ桜に近寄り、花弁を観察する。祭りより花見がメインになってしまっているが、彼は柔らかい笑みを浮かべて隣に並んだ。




