#19
分かる。自覚してしまうことが一番怖い。
日々壊れていく自分に気付いてしまうことが……明日が来ないかもしれない、と考えることが本当に恐ろしい。
品場も同じ病に罹ったが、早い段階で治療を受けられたからまだ良かった。完全な治療法はないものの、同じ病の者達と距離を置くだけで症状は緩和する。
だが影山の症状は分かりづらいものだった。
多重人格者のように暴れる彼を見てると思う。
人が壊れるのはあっという間だ。優しくて明るかった彼はもういない。品場が知らない間に誰かがロープで締め上げて、瀕死状態にしてしまったのではないか。
正直もう見てられない。
最後に残った、絞りカスのような理性が切ない。影山は涙で顔をぬらしながら、品場の足元に伏せた。
「品場さん……お願いします。俺を殺して……もう無理だ」
額を床に擦りつけて、繰り返し願った。完全に壊れる前に壊すのは……善意なのだろうか。
影山をこれ以上苦しませない為に、自分が手を下す?
違う。自分はそんなことの為に、影山を追い続けたわけじゃない。傍にいたわけじゃない。
病が進んで、人格が破壊される恐怖と闘い続けるのは大変なことだ。でも、それでも彼は負けちゃいけない。
勝たしてやりたい。この狂った世界で、自分達は醜くも強く生きなきゃいけないんだ。
「休もう、影山」
バスタオルで頭から包み込み、彼を抱え起こした。
ベッドまで連れて行き、そのまま寝かせてやる。暖房を強めに設定し、すぐ横に座って煙草を吹かした。
精神の健康ばかり重視される時代になり、肉体の健康は疎かになった気がする。でも狂人になるより、煙草の吸いすぎで肺がんになる方がマシだ。
安楽死の選択がしやすくなった現代は、昔と比べて生きやすいのか……それとも、昔より生きづらい世界になってしまったのか。
空いた手で影山の頭を撫でてやる。
ひどいウイルスだ。
この世界に神様がいるのなら、どうしてこんな悪意をばらまいたのだろう。




